白バイやパトカーに乗った警察が護衛につく!?

タイにおいて警察は事件・事故の捜査や検挙などのほか、日本では考えられないサービスを用意している。それは、空港へのVIP待遇の送迎だ。
日本では、国や政府の客人や、有名・著名人などが移動において生命にかかわる恐れがある場合に警察が護衛につくことがあろう。それが、タイにおいては指定料金さえ払えば、現役警察官たちを護衛につけることができる。我々、日本人が観光目的で訪れたとしても、である。
実際、タイでは現役警察官が護衛についてくれるケースはよくある。日本では絶対にないと言えるが、たとえば学校の遠足バスの車列にも警察車両がつくのだ。
今はほとんど聞かなくなったが、数十年前は子どもの誘拐=人身売買が多かったので、遠足などで郊外に移動するときに学校が地元警察に護衛を依頼したことが今も慣習として残っている。
この学校護衛サービスがスゴいのは、パトカーがただ車列に付き添っているだけでなく、走行中は赤色灯を光らせながら渋滞を蹴散らしていくことだ。世界的にバンコクは交通渋滞が激しいことで有名。この護衛をつけることで移動時間が予定通りに進むというメリットもある。


タイでこのサービスが可能なのは、公務員の副業が黙認されていることもひとつの理由だ。護衛サービスはタイ人が利用する場合でも無料というわけにはいかない。外国人が利用するよりは安いが、所定の費用はかかる。
そして、この料金は警察署の活動費としても使われるし、警護に参加する警察官の手当て代にもなるので、警官個人にとってもちょっとした臨時収入になる。
使用するのは本物のパトカーや白バイ。国の所有物なので、誰でも電話一本で護衛をしてくれるというわけではない。ある程度、地元警察かタイ国家警察の幹部と繋がっている必要がある。
白バイやパトカー、それぞれ約2万8千円で利用可能

では、日本人がタイ警察の護衛サービスを受けたい場合、どうすればいいのか。それは、このサービスの申し込みを代行してくれる会社に頼めばいいだけのこと。しかも、日本人が経営する会社もあるので、依頼時には日本語でやり取りできる点はありがたい。
まず、日本人が空港からバンコク都内までの護衛を依頼する場合、バンコク都内にある警察クラブに事務所を構える「BKKシューティング」に依頼する。本業は警察官の射撃訓練場を間借りして、実弾射撃を体験させてくれる射撃場だが、社長のコネクションを利用して望んでいる警察車列を構成し、VIP送迎をしてもらえるのだ(※1)。
取材時の料金設定は、同社公式サイトによると下記のようになっている。
・白バイ:8000バーツ(日本円で約2万8000千円)/台
・パトカー:8000バーツ(日本円で約2万8000円)/台
車列の最低台数は白バイ2台、パトカー1台の合計24000バーツ(約8万4000円)となる。もちろん、パトカーにも乗車が可能だ。人数が多ければ任意でパトカーと白バイの台数も増やせるので、警察官のスケジュールが合うのならアメリカ大統領並みの長い車列を組むことだって夢ではない。
この車列も学校送迎同様、最低約約8万4000円は必要になるが、渋滞を避けながら進んでいくことが可能だ。
日本からの玄関口となるスワナプーム国際空港からバンコクの中心地までの通りは深夜以外は大渋滞が当たり前なので、利用者にとっては爽快なほどに素早く移動できる。実際に利用した経験者によれば、渋滞をしり目に走り抜ける優越感も極上という。

また、別料金にはなるが、出入国を管理するのも警察なので、そのコネクションを利用してVIP送迎もしている(※2)。
なんと飛行機のタラップ(飛行機に乗車する際に使う階段のようなもの)まで迎えに来て、電動カートでさっと入国審査場まで連れて行ってくれる。タイに限らず東南アジアの空港は入国スタンプをもらうまでに1時間以上、ときには3時間も並ばされることがある。
これらの待ち時間をすっ飛ばし、並ぶことなくVIP専用ゲートから出入国が可能になるのだ。ただ、手荷物を預けている場合は結局ターンテーブルで待たなければならないが、その後の税関もスムーズに通過できるので、あっという間である。
実はタイのパトカーは、実用性重視のため、大半の車両はピックアップトラックなのだが、この空港のVIP警護送迎サービスはグレードの高い日本車のセダンがやって来る。これは、タイ警察の中でも幹部クラスの人しか乗れないパトカーだ。
現地の警察官の中には、乗ることのできないパトカーに乗れるので、そこもまた利用者の優越感をくすぐってくれる。
こういった日本にはないサービスが料金さえ払えば利用できるのもまた、タイ観光の見どころでもあるのだ。
※1 現在、タイでは新型コロナウィルスの対策のため、外国人観光客の入国を制限している。「BKKシューティング」では4月を目処にVIP送迎サービス再開の予定だが、タイ政府の対策方針変更は急なため、状況によっては利用できない場合がある。
※2 タイ政府の新型コロナウィルス対策の一環で、国際空港ではすべての出入国者に対する審査および検査が強化され、関係者以外の空港内立ち入りを厳しく制限している。そのため、取材時点ではターミナル内送迎サービスの再開のめどは立っていない。平常時に戻り次第、再開を検討するとのこと。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。