目次
車を運転する機会がなくなった高齢者の中には「顔写真つきの身分証明書」という理由だけで運転免許を持っている人もいるのではないでしょうか。
しかし、免許更新の際に70歳以上では高齢者講習、75歳以上なら認知機能検査が必要になったことや、身分証明書としてマイナンバーカードが普及していることなどから、運転免許を手放す人も徐々に増えているかと思います。
また、昨今は高齢者の運転事故が増加傾向にあるため、各都道府県警察や公安委員会が「自主返納」をさまざまな機会を通じて広報しています。
ここで気になるのが、「運転免許を返納したけど必要になった」場合、再交付は可能なのかという疑問です。長年運転してきた人が多いでしょうし、ましてや交通事故や違反などで免許が取り消されたわけではありません。
自主返納後、「仕事でクルマが必要になった」「趣味でバイクに乗りたくなった」など、なにかしらの事情で運転免許が必要になっても、簡単に再交付できるような特別措置はあるのでしょうか?
運転免許の自主返納、令和2年は55万件
2019年に運転免許を自主返納した人の数は55万2381人(警察庁のデータより)
警察庁が公開している「令和2年版 運転免許統計」によると、2019年に運転免許を自主返納した人の数は55万2381人でした。
2019年に起きた池袋暴走事故をきっかけに免許返納者が急増。令和元年には過去最高の60万人を記録し、運転免許を自主返納した人のほとんどが65歳以上の高齢者となっています。
そんな運転免許の返納には「一部取り消し」や「下位免許の取得」という2つの方法があります。一部取り消しとは、普通免許と自動二輪免許を持っている人が、片方のみを自主返納すること(バイクにはもう乗らないので二輪免許は取り消すけど、クルマは引き続き乗るので普通免許だけは残したいというような場合)。
下位免許の取得とは、免許の取り消しを申請する際に、その免許の種類に応じて一定の免許を受けることができるものです(仕事を辞めて大型トラックに乗ることはなくなったので、大型免許は不要だが、マイカーは乗り続けるので普通免許にダウングレードするようなイメージ)。
返納したけど運転免許が必要になった場合、再交付できる?
過去に警察庁が実施したアンケートによると、自主返納をした理由トップ3は次の通りです。
1位:家族などに勧められた(33.0%)
2位:運転する必要がなくなったと感じた(29.4%)
3位:運転に自信がなくなった(19.2%)
その一方で、返納をためらう理由のトップは「車がないと生活が不便(68.5%)」と、やはり車を手放すことに強い不安を感じている人が多い結果となりました。
では、自主返納したあとで運転免許が必要になった場合はどうなるのでしょうか。自ら返納したのであれば、ある程度の優遇措置があってもいいような気がします。せめて実技試験くらいは免除して、学科試験だけで再交付してくれればいいのに……なんて思う人も多いでしょう。
残念ながら、自主返納は申請による「取り消し」として扱われるため、再び運転免許の交付を受けるためには一から免許を取り直さなくてはいけません。
つまり、もう一度自動車学校や教習所に通い、実技試験と学科試験に合格する必要があります(公認自動車学校の場合は仮免許の実技・学科、本試験の実技試験が免除されます)
各都道府県警察のホームページなどでも「自主返納するとその時点でクルマやバイクなどが運転できません」と注意喚起している程度で、丁寧な説明をしてくれていないので注意が必要です。
実はお得?免許を返納した人がもらえる特典とは?
警察や公安委員会、自治体はこぞって「運転免許の返納を!」と高齢者に呼びかけていますが、自主返納をすれば二度とクルマやバイクが運転できない上に、再び免許を取得するには運転未経験者と同じコースを辿らなければいけないのですから、たまったものではないでしょう。
免許を返納するときのメリットがないと、「大切な運転免許を手放すわけにはいかない!」と考えるのが当然です。そんな方に知っておいていただきたいのが、運転免許を自主返納した人への特典制度。
運転免許を返納すると、公共交通機関の割引や飲食代金の割引、旅行代金の割引、電動車いすの代金割引、メガネや靴の割引、自宅警備システムの割引など、様々な特典を受け取ることができます。
また、全国でスーパーマーケットを展開してくれるイオングループでは、当日中に購入した商品を自宅へと配送してくれるサービスを無料で利用できます(店舗によっては有料の場合もある)。
うまく活用すれば、長らくクルマを運転していないのにクルマを保有していたときよりもずっと便利に、お得に買い物ができるかもしれません。しかし、自主返納をしてしまうと取り消しはできませんから、自身のライフスタイルやライディングスキルなど客観的に考えて、自主返納をすることをおすすめします。
レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。