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そもそも「幼児等通行妨害」の違反とは何か?
警察に取り締まりを受けたとき「そんなの聞いたこともないよ!」「理不尽だ」と、疑問を抱くことがあるかもしれません。そもそも、運転免許の学科試験では満点を求められていないので、公道に出てから、警察官に違反で検挙されて初めて知る違反も少なくないのが現実です。
「歩行者妨害」という違反は聞いたことがある人も多いはず。なぜなら、2011年から2020年に至るまで歩行者妨害で取り締まりを受けた人が約4倍近く増え、最近では警察などが注意喚起に力を入れています。
歩行者妨害とは、横断歩道を渡っている歩行者いるのに、一時停止をせずに通行しようとしたときに取り締まられる違反。
ちなみに、2015年から2020年までの過去5年間で、自動車と歩行者が衝突した交通死亡事故は5451件。その約7割が歩行者が横断歩道を渡っているときに起きた事故というデータもあるほどです。


つまり、2022年以降も「歩行者妨害」は多くの人が検挙されるであろう違反のひとつですが、「歩行者妨害」に誤解されがちな違反があります。それは「幼児等通行妨害」というものです。妨害してしまった相手が大人か幼児で、反則金や違反点数に違いがあるのでしょうか?
まず「幼児等通行妨害」とは、道路交通法第71条第2号~2の3号にあるルールに違反したときに成立するものです。どんな違反が該当するのか確認しておきましょう。
- 道路交通法第71条第2号:身体障害者用の車椅子、杖を携えた目・耳が不自由な人、盲導犬を従えた目が見えない人、監護者が付き添っていない児童・幼児が歩行しているときは、一時停止し、または徐行して、その通行や歩行を妨げないようにすること
- 道路交通法第71条第2号の2:高齢者・身体障害者などが通行しているときは、一時停止し、または徐行して、その通行を妨げないようにすること
- 道路交通法第71条第2号の3:児童・幼児などを乗降させるために停止している通学通園バスの側方を通行するときは、徐行して安全を確認すること
これらのルールは身体の不自由な人、親や保護者を連れ添っていない子どもなど、交通弱者を保護するために設けられています。違反した場合の罰則は違反点数2点、大型車9000円、普通車7000円、二輪車6000円、小型特殊自動車5000円、原付5000円となります。
なお、切符処理を拒んで反則金も納付しなかった場合は刑事事件として処理されます。有罪になると、3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられるので、甘く見ずに「最悪の場合、懲役もあり得る」と覚えておきましょう。
「幼児等通行妨害」と「歩行者妨害」の違い
では、「歩行者妨害」と「幼児等通行妨害」は一体なにが違うのでしょうか?
まず、前提として歩行者や自転車が横断歩道などで通行している場合、クルマやバイクは停止線や横断歩道の直前で停止して、その通行を妨げないようにしなければなりません。そこで、横断歩道などを横断しようとしている歩行者・自転車がいるのに停止しないまま通過すると「歩行者妨害」となります。
つまり、歩行者妨害とは「横断歩道などを横断しようとする歩行者」を保護するために作られたものです。その一方、「幼児等通行妨害」は身体の不自由な人が通行していたり、親や保護者を連れ添っていない子どもが歩いていたりするだけで保護の対象となります。
たとえば、身体が不自由な人が横断歩道のない道を横断している場合は一時停止をして道を譲らないといけないし、子どもが車道と歩道の区別がつきずらい道路を歩いていたらすぐに止まれる速度でゆっくり通過しないと違反です。
なお、歩行者妨害の違反点数も同じく2点ですが、大型車1万2000円、普通車9000円、二輪車7000円、小型特殊自動車6000円、原付6000円と、反則金は異なります。各県警などでも、横断歩道は「歩行者の聖域」と呼ばれているので、反則金は高く設定されているのです。
子どもが急に飛び出してきた場合でも、幼児等通行妨害になる?
どのようなシチュエーションでも「幼児等通行妨害」が成立するのでしょうか。たとえば、過度なスピードを出さずに走っていたのにもかかわらず、急に横から子どもが飛び出してきた場合でも違反になるのか気になるのではないでしょうか。
親や保護者がそばにいない子ども、通園や通学中の歩いている子どもがいるのにスピードを出して素早く通り抜けようとすると、不意の飛び出しにも対応できないため、「幼児等通行妨害」として検挙される可能性があります。
しかし、ガードレールやガードパイプなどによって歩道・車道が物理的に区別されている場合や、子どもの急な動きにも対応できるように十分な間隔を取って走っていたら、「幼児等通行妨害」に問われることはないでしょう。
これは教習所などで教わったはずですが、子どもが悪ふざけでガードレールを乗り越えようとしていたり、集団で下校している子どもたちが周囲を気にせず遊んでいたりする場合は「飛び出してくるかもしれない」という危険予知が運転者に求められます。
危険予知が可能な場面だったのに子どもが飛び出してきて危険な目に遭った……といったケースでは、「幼児等通行妨害」が成立しやすくなるので注意しておきたいところです。
とはいえ、子どもの飛び出しよりも注意すべきは「通園や通学バスの側方通過」でしょう。通園・通学バスの側方を徐行しなかった場合は、たとえ飛び出しなどの危険な状況がなかったとしても違反となります。
「幼児等通行妨害」が成立しやすい場面ですので、乗降のために停止している通園や通学バスのそばを通過するときは、なるべく徐行しておきましょう。
レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。