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タイではクルマが異様に高すぎる!?
首都・バンコクでは走っているバイクの台数が尋常ではないことが挙げられる。歩いている最中でも、そこかしこにバイクが走っていて、当たり前のように3人・4人乗りをしている(実はタイでも違法な行為なのだが……)。
その中には、バイクで客を目的地まで運ぶ「バイクタクシー」がいれば、歩道をすり抜けていくとんでもないライダーもいるのだ。
これだけバイクが多いのは様々な要因があるものの、一番大きな理由はクルマと比べてバイクが安いからだ。庶民でも比較的購入しやすい価格帯で、公共交通施設が十分に整備されていないタイにおいてバイクは欠かせない足となっている。「ならば自転車でもいいのでは?」と思うかもしれないが、タイは高温多湿で年中蒸し暑いこともあって、自転車はあまり普及しないのだ。
また、タイ国内で新興メーカーも増えてはいるが、いまだに絶大な人気を誇っているのはホンダだ。ホンダは日本のみならず東南アジア内でも人気のメーカーだ。
もちろんヤマハ、スズキ、カワサキもタイで販売されているが、その中で最もメジャーな二輪メーカであるホンダに焦点を当てつつ、タイと日本のバイクの販売価格を見てみようと思う。
※当記事では、日本円換算は1バーツを3.5円(2022年1月時点)で計算しています。
タイは他の国と比べて物価が安いと思われがちだが、すべてにおいて物価が安いわけではない。クルマに関しては日本よりずーっと高いのだ。
その一例として、日本でも販売されている1972年に発売されてから2021年に至るまで49年間の歴史をもつ ホンダ シビックと世界に誇る日産のスポーツカー GT-Rを見てみよう。
ホンダ シビック
タイの販売価格:964,900パーツ(約337万円)
日本の販売価格:319万円(税込)
日産 GT-R Tスペック
タイの販売価格:12,200,000バーツ(約4270万円)
日本の販売価格:1590万4900円(税込)
タイは自動車の輸入関税が輸送費込みの輸入価格に対して80%くらいかかる。さらに、タイ国内で物品税など諸々の税金が輸入価格+関税など、計算方法によっては仕入れ値のほうが高くなるのだ。
そういった背景もあって、GT-R Tスペックの販売価格は日本の約2.6倍もする。これは輸入車であることがひとつの理由でもあるが、タイ生産のシビックは販売価格が日本の約1.1倍ほどに留まる。
ちなみにシビックは日本やアメリカ、カナダなど現地で製造・販売が行われているが、タイで作られている車両なら人件費などの分、日本よりも安くなりそうな気もするが……輸入部品にも同じように関税などが掛かるため、日本とほぼ同じような価格になってしまう。
タイ国家統計局によればタイの平均月収は2.6万バーツ程度。日本円換算で約9万1000円と考えると、タイではクルマがいかに高価な存在か分かるだろうか。
次にタイと日本のバイクの販売価格を見てみよう。
ホンダ PCX160
タイの販売価格:86,900バーツ(約30万4150円)
日本の販売価格:40万7000円(税込)
ホンダ ADV150
タイの販売価格:98,500パーツ(約34万4750円)
日本の販売価格:45万1000円(税込)
ホンダ CRF1100L アフリカツイン アドベンチャースポーツ<DCT>
タイの販売価格:699,000バーツ(約244万6500円)
日本の販売価格:191万4000円(税込)
タイでは現地生産の大型バイクはなく、ほとんどが輸入車になる。そのため、大型バイクは日本と比べ、やや高めの販売価格となっている。
タイ生産車あるいはベトナム生産の中型車は日本よりもずっと安いが、CRF1100L アフリカツイン アドベンチャースポーツ<DCT>は約1.1倍もタイの方が高い。輸入経費だけでなく為替レートの影響などがあるにしても、これはタイ人にとっても大きな差だ。こんな価格では中流層のバイク好きにとっては中々手が出せない。
しかし、大型バイク流行の黎明期にはとんでもない裏技でバイクを入手する方法もあった。それは、海外の中古車を現地(タイ)でバラバラにし、複数のコンテナで分けて産業廃棄物として輸入。それをタイで組み上げると、様々な税金を回避できたのだ。
現在、その手口はタイ税関がしっかり把握して監視している。そのため、昨今この方法が取り締まられるようになったが、税関が不正輸入した車両を差し押さえ、たまにそれらをオークションにかけることがある。それを狙って少しでも安く買おうという人もいる。
いずれにしても、PCXなどを日本円換算して見ると「意外とタイ現地のバイクは安くないぞ」という疑問が出てくる。しかし、タイは2010年以降から大きく物価が上がってきているので仕方がない部分もあるし、そもそも物の価値観が日本とは全然違う。
なぜなら、タイ人はわりと絶対的に金額を見る傾向にあるからだ。ジャンルはどうであれ「性能や見た目よりも安い物がいい」と考えるのだ。だから、クルマよりバイクの方が安い。乗り物を買うならバイクにしよう、となるわけだ。
新車価格が安いのはタイの平均月収に影響している?
今回、比較した車両は新車かつ有名メーカーばかりなので、相場的にはやや高めの部類に入る。ほかのメーカー……あるいは中国メーカー、新興のタイメーカー、中古車であったり、性能・装備・耐久性などを無視すればもっと安いバイクはある。
とはいえ、PCX160やADV150などの新車価格が安いのはタイの平均月収が影響している理由もあって、先に述べたようにタイ国家統計局によればタイの平均月収は2.6万バーツ程度。
ただ、あくまで平均月収なので地方ごとに見ると2.6万バーツすら稼げていない地域もあるし、バンコクだけだと平均月収4.2万バーツ(約14万7000円)と、富裕層と一般層にも大きな差がある。
実際は地域格差というより、富裕層の収入が異様に高いことがタイが格差社会と呼ばれる要因だ。極端な話「100万円の所得者と1万円の所得者を並べて平均月収は50万円くらいですね」と言っているようなもの。
しかし、大型バイクなどを購入する人が中流層にも見られる。年収よりも高いバイクを手にするために彼らはどうしているのか。
答えは簡単で、近年はローンで購入する人も増えているに過ぎない。バイクの価格と頭金、年利を大きく掲示するバイクショップも増えてきたし、頭金ゼロのバイクショップまである。
大昔はバイクでさえ輸入品しかなかったため高かった感覚が今も残っているのか、タイ国民の平均月収から考えてみると決して安くはないものの、クルマと比べればバイクはリーズナブルな乗り物であるとタイ人は考える。
当然ローンにすれば支払総額は大きくなるが、利息を含めたトータル金額をあまり考えない人が多く、結果的にタイ国内でバイクの台数が増えていく一方なのである。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
*追記2022年1月30日・シビックの価格比較に誤りがあったので、修正を行いました。
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。