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2015年にWHOが公表した資料によると、タイの交通事故死亡者数は10万人あたり36.2人で世界2位となった。2015年時点の交通事故死亡者数1位はアフリカ・リビアで10万人あたり73.4人だ。ちなみに日本は10万人あたり4.7人だった。
2016年では10万人あたり32.7人と、世界9位にまで改善しているものの、タイで交通事故に遭遇するリスクは日本と比較してもかなり高い。つまり、観光旅行中に交通事故に遭うことだって十分あり得るのだ。
タイでは日本と同じくバイクによる事故は車線変更時やスピードの出し過ぎによる単独事故が多いが「こんなこと本当にあるの?」と思わずビックリするような事故もあったりする。当記事では、そんなタイで起こっているバイク事故を紹介していく。
乗客が開けたドアにバイクが衝突する!?
日本のタクシーだと運転手が路肩まで寄せて、後ろを確認してから自動でドアを開けてくれるが、タイでは客自らがドアを開け閉めする必要がある。これがいけないのか、乗客は後方確認もせずにドアを突然開けるため、バイクに乗ったライダーがそのドアにぶつかってしまうケースも少なくないのだ。
運転手もできるだけ端に寄せて乗客を降ろせばいい話なのだが、タイでは基本的に先を予測して走らない人が多いので運転手も路肩まで寄せないし、ライダーも似たような事故が多発しているにも関わらずスピードを落とさない。
タイの首都・バンコクではバイクタクシーが普及していることもあって、乗用車のタクシーに乗った客が開けたドアに、日本人観光客を乗せたバイクタクシーがぶつかる事故もたまに起こっている。
またバンコクは交通渋滞がひどいため、諦めて途中下車をする人が稀にいるのだが、その際に追い越し車線にいるタクシーのドアが急に開くことがある。似たような事故状況の例だと、渋滞で進めなくなった路線バスが走行車線で乗客を下ろした際にバイクと降車した客が衝突する事故もあった。
ちなみにタクシー運転手やバスの車掌さんが乗客に向けて事前に注意喚起してくれることもあるのだが、当然ながら事故が起きるときはそういった注意もなく、乗客側やライダー側も往々にして前方・後方を確認しないため、バイクとタクシーとの衝突事故が起きる。
つまり、タイでは路肩に限らず車線の中央寄りでも交通事故に巻き込まれる危険が潜んでいるのだ。
タイの道路は水はけが悪くスリップ事故が多い
タイでは乗客が開けたドアに衝突する事故のほか、日本同様、スリップ事故も頻繁に起きている。雨の降り始めは砂やほこり、泥などがタイヤの凸凹部分に入ってしまって滑りやすいと言うが、タイの場合はザッーと雨が降ったあとも怖い。
というのもタイの道路は水はけが非常に悪いので、晴れているときでさえ滑ってしまう危険性があるからだ。雨天時ではまっすぐ直線を走っていても急に滑ることだってある。
また、タイでは毎年5月から10月にかけて雨季が続くので、年間の半分近くがスリップ事故に見舞われる危険性も持ち合わせている。
ちなみに、晴れているときは自治体などが洗剤を使って道路を清掃することもあって、筆者はクルマを運転中に自治体によって撒かれた洗剤が原因で反対車線までスリップし、タクシーと正面衝突したことがある。
とはいえ、直線道路で単独スリップした場合はやや長めの距離を滑る程度なので意外とかすり傷がひとつも付かないのだ。
ただし、運転者の意思で動かすことができず制御不能になる……もしくは転倒したライダーに驚いたドライバーが急なブレーキによってスリップをしたら、鉄の塊がライダーや歩行者に突っ込んでくるわけなので、想像するだけでもゾッとするだろう。
だが、バンコクでは交通渋滞がひどいので慎重に運転する人が多く、そもそもスリップ事故が起こらないのだ。その一方、バンコク郊外は直線道路が多く交通量も少ないため、過度なスピードを出す人も多くスリップ事故も起こりやすい。
また、バンコクと北側の隣県の境にある数十kmも直線道路が続くところでは、雨が降ると500メートルおきに転覆、転落事故などが発生する魔のエリアもあったりするので現地の人も注意が必要だ。
タイの交通事故死者数の約10%がたった10日間に起こる
タイでは「水かけ祭り」として有名な旧正月「ソンクラーン」(タイの旧暦でのお正月を意味する)が毎年4月13日~15日に行われる。この3日間はタイ人にとって最も嬉しい連休だ。バンコクに出稼ぎに来ていた地方出身者が一斉に帰郷し、バンコクの交通渋滞も完全解消される3日間となるからだ。
しかし、現地の人たちが楽しむ行事であると同時にタイ全土で交通事故が多発する時期でも知られている。
タイ王国国家警察庁が公表した資料によれば、2017年の交通事故死亡者数は8746人。このうち、旧正月の3日間だけで死者数は390人だ。故郷に帰れる喜びから過度なスピードを出したり、お祭り気分で飲酒運転も増加したりする結果によるものだ。しかし、これでもタイ政府や警察などの啓蒙活動で少し減ったほうだ。
また、最近は日本や欧米と同じようにタイでは新年を迎える1月1日も盛大に祝うことになっているため、一般企業でも年末年始は休暇が出るようになった。12月28日から1月3日ほどは休みなのだが、2017年時点のデータによると年末年始の1週間だけで478人が事故死している。
「ソンクラーン」の時期も合わせると8746人中868人。実に約10%がこの10日間だけで交通事故が原因で亡くなっていることになる。その中には楽しむことに夢中になった結果、走っているバイクに気付かずにバケツの水をかけてしまい、バイクが転倒した事例も少なくない。
タイではバイクによる交通事故が80%超占めているので、ライダーにとっても危険な10日間となるだろう。普段は交通量が多いバンコクでも、年末年始になると交通量が少なくなるのでスピードを出し過ぎてしまう人も多いと聞く。
そのため、もし観光目的でタイに訪れる際は交通事故に遭う危険性も考えて慎重に行動してみてほしい。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。