東京消防庁の特殊救急車両「スーパーアンビュランス」とは?
2021年10月31日、私鉄・京王線の電車の中で17人を負傷させ、放火を行なった、いわゆる「京王ジョーカー事件」が起きたが、その際に「スーパーアンビュランス」という特殊車両が出動した。
「スーパーアンビュランス」というのは、名前の通り特別な救急車(「アンビュランス」とは英語で救急車を意味する)。荷台部分が左右にスライドして拡幅することで、移動型の病室を作ることができる特殊車両だ。
では「スーパーアンビュランス」とはどのような場合に出動する車両なのか、車両の中はどうなっているのか。運用を行っている東京消防庁に話を聞いた。
まず、「スーパーアンビュランス」のボディサイズなどを見てみよう。
ボディサイズは全長11.00m、全幅2.50m、全高3.78m。車両総重量は1万9000kgで、乗車定員は10名。救命救急士の資格を持った職員など精鋭の隊員が乗車している。
「スーパーアンビュランス」は大規模災害および多数傷病者発生時等に、現場救護所として救急活動の拠点となることを目的とした車両だ。
「スーパーアンビュランス」自体が救急車として患者搬送を行うほか、救護所としての機能も有している。ボディを左右に拡張することにより、最大約40平方メートルのフラットな床面になり、最大8床のベッド数を確保できるという。
そのほか、傷病者搬送のためにメーンストレッチャー(傷病者搬送時に使われる資機材)も2基積載されている。
とはいえ、さすがに「スーパーアンビュランス」だけでは対応できないケースもある。
そういった場合は現場の状況を踏まえ、「スーパーアンビュランス」を活用しその場で傷病者の管理をするのか、カバーできない患者を優先して病院に搬送するべきかを判断しているそうだ。
なお、車室を広げた状態ではそれぞれジャッキで支える構造となっているので走行することはできない。どちらかというと「移動型拠点」という風に捉えるべき特殊車両だ。
初代は1994年に誕生、現在は4代目スーパーアンビュランスが活動中
さて、東京消防庁が所有する「スーパーアンビュランス」は、実は現行で4代目となる。初代の誕生は平成6年(1994年)で、現行型の導入は平成29年(2017年)ということだから、大体7~8年ごとに新造しているということになる。
クルマとしての寿命はもちろん、より優れた機能の車両を採用するためにも定期的に入れ替えをしているのではないだろうか。
「スーパーアンビュランス」については、競争入札によって製造している車両なので、世代によってベースモデルや架装メーカーが異なっている。現在の「スーパーアンビュランス」のベースとなっているのは、いすゞの「ギガ」。架装メーカーは福島県にあるヨコハマモーターセールス社である。
ヨコハマモーターセールス社は、こうした拡幅タイプの特殊車両の架装においては豊富な経験を持つメーカーで、消防向けの拡幅型支援車を多数製造している。拡幅部を支えるジャッキレスの仕様(特許申請中)など、高い技術力を持っている企業だ。
ちなみにミニカーなどホビーの世界では、昔から「スーパーアンビュランス」は人気の車両となっている。車室部分が左右にスライドして拡張するなどのギミックや、実車がなかなか見られないことなどがファンの多い理由だろうか。トミカでもその機構は緻密に再現されている。
しかし、「スーパーアンビュランス」の実車をめったに見ない世の中の方が本来はいいのだ。それはつまり、大規模災害が起きていない=平和な日常の証なのだから。
レポート●山本晋也 写真提供●東京消防庁 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
東京消防庁 ホームページ
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/ts/soubi/car/01_02.htm