雑ネタ

「ちゃんと許可とってる?」 警察が個人宅敷地やコンビニ駐車場に隠れて取締りするのは合法?

個人宅やコンビニの駐車場など私有地で交通違反の取締りをしている警察官を見たとき、こんな疑問を感じたことはないでしょうか?

「ちゃんと許可もらって取り締まっているの?」と。

いくら警察といえど、もしその土地の所有者に許可も取らず、無断で立ち入っているのであれば「住居侵入罪(不法侵入)」の疑いがあるわけで……。
もし土地や施設の所有者から許可を得ているのだとしたら、警察は謝礼などを出しているのでしょうか?

そこで、さまざまな事件などに関わってきた元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんに真相を聞いてみました。


私有地で無許可の取締りは原則NG

まず前提として、個人宅やコンビニ駐車場など私有地で許可を得ずに取り締まりをするのは原則NGです。

窃盗などの不法な目的ではないので、刑法の住居侵入罪・建造物侵入罪にあたるわけではありませんが、少なくとも敷地所有者がもつ「勝手な立ち入りを許さない権利」を侵害してしまいます。

なので、無断で立ち入っている場合は警察も「交通安全のために取り締まっているんだ!」と言い訳をしても通用しません。

ただし、警察官やパトカーが停まっている位置が国・都道府県・市で管理している道路であれば許可は不要です。
また、交通違反の取締りや事故調査などの目的があれば駐車禁止の規制からも除外されるため、駐車違反にもなりません。

実は取締り場所の選定は警察も悩みの種のひとつ

そうはいっても、警察にとって交通違反の取締りをする場所の選定は悩みの種のひとつでもあります。

まず、違反を現認しやすい「視認性」が確保されている場所、周りから気づかれにくく、安全に違反車両が停止できるスペースも確保されている場所などが理想です。

しかし、こんな条件が揃っている場所は中々ないので、警察署の交通課の担当者は「どこかいい場所はないのかな……」と悩んでいます。

警察官に対する激励、慰問等を行うほか警察官の教養向上目的で協力をする民間人による団体「警察官友の会」や、地域住民などから警察への理解・協力を深めるために設置された「警察署協議会」の参加メンバーなど、関係各所へ働きかけたりもしますが、積極的に取締り場所を提供してくれる人は少ない。

そのため交通違反の取締り担当者は、管内をぐるっと回って条件にあった場所を探したり、交番のお巡りさんたちに聞いたりしているそうです。

おそらく「いつもこの場所で取締りをしているよね」と、地元で有名な取締りスポットがあったりするのは、条件のそろった場所が多くない事情も関係しているのでしょう。

もし警察に取締り場所を提供したら謝礼はもらえる?

つまり個人所有の空き地や駐車場、店舗の敷地などでパトカーが待機しているケースでは、警察が敷地所有者に許可を得ていることになります。

もし警察に取り締まり場所を提供したら、謝礼がもらえるのか気になる人もいるのではないでしょうか。
たとえば、電力会社では電柱の設置を許可したとき、土地の所有者に対し使用料を定期的に支払われますが、残念ながら警察の取締り活動に協力しても謝礼や施設使用料などが支払われるわけではありません。

取締り場所を提供しても、年に何回か、友好関係を維持するために茶菓子や小額の謝礼金が渡される程度のものです。
どちらも捜査員の裁量で執行できる「捜査諸雑費」から支払われるので、出せたとしてもせいぜい3000~5000円程度が限界。

わずかばかりの謝礼さえもらえないケースも多いので、もしあなたのもとに警察から「取締りのために場所を提供してほしい」と言われても、大した期待をしてはいけません。

警察が無断駐車していたら違反は「取り消し」になる?

もし、警察が私有地に無断で立ち入って交通違反の取締りをしていたら、取締りを受けた違反者としては「そもそも違法な取り締まり方法なのだから、そこで取り締まった違反は取り消しになるのでは?」と思う人がいるかもしれません。

残念ながら、この点については違反が取り消されることはありません。
その理由に、刑事事件では「違法収集証拠排除法則」があります。
「違法収集証拠排除法則」とは、違法な捜査だとしても、有罪の認定に重大な影響を与える場合は証拠能力が否定される刑事手続きについて定めたものです。

わずかでも違法性のある捜査は証拠にできないとすれば、真実を明らかにすることが困難となります。そのため、違法性のある捜査で入手した証拠が認められるケースがあるのです。

しかし、いくら捜査目的であっても私有地に無断で立ち入った行為そのものが問題になることもあります。
たとえば、2016年に大分県別府警察署の捜査員が選挙捜査の目的で私有地に侵入し、建物に出入りする人たちを撮るために、隠しカメラを設置したことが発覚して大きな問題になりました。

この事例では、警察署幹部ら4人が「建造物侵入罪」で書類送検されていますが、報道はされていないものの捜査の対象になった人も選挙違反で摘発されました。
そして、交通違反の取締りの際に警察官が無断で他人の敷地に立ち入ったことを理由に違反が取り消しとなった事例もありません。

「勝手に他人の敷地に入っているんだから、違反は帳消しでいいでしょ」といっても見逃してくれる可能性はゼロだと考えておいたほうがよいでしょう。

レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

鷹橋公宣 たかはし きみのり
鷹橋公宣

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。

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