目次
普通のガソリンが消えつつあるタイ
観光地として人気のあるタイだが、観光客も案外ガソリンとは無縁ではない。
タイ・バンコクは公共交通機関が発達しているので不要だが、地方に行く場合は移動にレンタカーやレンタルバイクを使う人も少なくはない。
特にクルマよりもバイクは安いし便利で、多くの観光客が利用する。タイは日本と同じ左側通行なので、日本人観光客も運転しやすいという側面もある。
タイでもレンタカーやレンタルバイクの返却時には、日本同様にガソリンを満タンにするのが基本だ。
そのため、ちょっと乗っても一度はガソリンスタンドに寄ることになる。しかし、タイのガソリンスタンドは日本より燃料の種類が多いので注意が必要だ。
そこで、ここではタイのガソリン事情について詳しく説明していきたい。
タイのクルマ・バイク用燃料の種類

まず、販売されている燃料の種類を見ていこう。
燃料の種類は給油機の前の柱などに表示されているので、行けば迷うことはないが、そもそもそれがなにを意味するのか知っていないといけない。
基本的にアルファベット表記になっているが、間違ったものを入れては大変だ。
そんなタイでは、11種類の燃料が販売されている。
・ベンジン91(あるいは「ベンジン」):オクタン価91のガソリン
・ベンジン95:オクタン価95のガソリン
・ガソホール91:オクタン価91相当のガソリンに10%ほどエタノールを混ぜた燃料
・ガソホール95:オクタン価95相当のガソリンに10%ほどエタノールを混ぜた燃料
・E20:オクタン価95相当のガソリンに20%ほどエタノールを混ぜた燃料
・E85:オクタン価95相当のガソリンに85%ものエタノールを混ぜた燃料
・ディーゼル:軽油
・ディーゼルB7:軽油にバイオディーゼルを最大7%混ぜた燃料
・ディーゼルB20:軽油にバイオディーゼルを最大20%混ぜた燃料
・NGV:天然ガス
・LPG:液化石油ガス
それぞれの燃料についてもう少し詳しく紹介していこう。
ベンジン91、ベンジン95

いわゆる日本でも見られる普通のガソリン。
タイではオクタン価(*)が製品名に表記されており、ベンジン91はオクタン価91(ガソリンスタンドによっては「ベンジン」という製品名のこともある)、ベンジン95はオクタン価95を意味する。
高性能な日本車やヨーロッパ車などは、基本的にベンジン95を入れる必要がある。
ベンジン95が日本でいうハイオクにあたるものだが、日本工業規格(JIS)によれば96以上がハイオクなので、タイでは若干オクタン価が低い。
逆に日本のレギュラーは「オクタン価89以上」なので、タイの方がやや高め。ただし、後述するガソホールが主流になった今、ベンジン95は都市部のバンコクでさえ見かけなくなってしまった。
*オクタン価とは、ガソリンの性能を示す数値。
ガソホール91、ガソホール95

いま、タイで主流の燃料がガソホール91、95だ。ガソリンにエタノールを10%(E10)ほど混ぜているので、「ベンジン」より安い。
20年くらい前はガソホールが原因でエンジンが壊れたというウワサがあったものの、最近はそんなことを言う人もいなくなった。
ボク自身もタイでクルマを所有しているが、ガソホールを使ったからといって故障したことはない。
レンタカーやレンタルバイク店で利用する一般的な車両なら、ガソホール91を入れておけば概ね問題ないだろう。
E20、E85
これがちょっとややこしい燃料だ。数字はエタノールの含有値で、まず見かけないが、つまりE10とガソホール系は同じということになる。
E85は85%もエタノールを混ぜているので、エタノール対応のエンジンならまだしも、ガソリンを想定したエンジンに入れた場合、正常に動作するのか心配な気がする……。
ディーゼル
日本と同じ軽油。バイクにはまず使わないし、ピックアップトラックをレンタルすることもほぼないので、普通に運転する分には観光客は無縁だろう。
ディーゼルB7、ディーゼルB20(B7、B20という表示だけの場合もある)
これもディーゼル同様、観光客にあまり関係ないだろう。「B」という文字はバイオディーゼルの略称で、生物由来の油を使ったディーゼル用燃料だ。
NGV、LPG
天然ガス仕様の車両用。
タイで製造・販売されるクルマは基本的にガソリンや軽油で動くが、購入後に近所の整備工場などで天然ガス用のタンクを取り付け、NGV・LPGガス仕様とするケースもある(つまりあと付けなので、ガソリンタンクは残ったまま)。
環境配慮よりも燃料費の節約目的で取りつける人の方が主流で、NGVが圧倒的に多く、LPGはあまり見かけない気がする。
タイのガソリン価格は一律

タイ国内にはガソリンスタンドのブランドがいくつかあり、「エッソ」や「シェル」といった日本でも見かける企業のほか、「PTT」(ポートートー)というガソリンスタンドも少なくない。「PTT」とはタイ石油公社のことで、公社直営のガソリンスタンドが各地にある。
ちなみに、タイではガソリンスタンドは低賃金の働き口だ。労働力が安価だからか、セルフスタンドはほとんどない。ただ、そこにはもしかしたら犯罪防止の意味もあるのかもしれない。
基本的にポリタンクなどに入れる形ではガソリンを売ってくれない。その一方、地方の農村などは雑貨屋の軒先に給油機があって、その場合はセルフになる。
タイでは、タイ石油公社であるPTTのガソリン価格は政府が決めているが、ほかのガソリンスタンドも基本的には同じ値段だ。
また、ガソリンは石油の輸入時点あるいは販売時点の国際相場が基準となっているはずだが、経済が不況になったときには国内市場価格をタイ政府は下げてくれるので、案外家計に優しいクルマ社会だ。
たとえば、2020年の新型コロナウィルスのための非常事態宣言下では、たとえばガソホール91は下記(2021年)の現状価格よりもリッターあたり10バーツ(約34円)も安かった。
そんなタイの燃料価格の基準となるのが「PTT」の価格だ。執筆時点の価格は下記になっている。
タイのクルマ・バイク用燃料の単価(2021/10/11)
・ベンジン91:38.56THB(約128.79円)
・ガソホール91:30.88THB(約103.14円)
・ガソホール95:31.15THB(約104.04円)
・E20:29.64THB(約99.00円)
・E85:23.44THB(約78.29円)
・ディーゼル:28.29THB(約94.49円)
・ディーゼルB7:28.29THB(約94.49円)
・ディーゼルB20:28.04THB(約93.65円)
・NGV:15.80THB(約52.77円)
※日本円は1バーツ3.34円で計算
※NGVのみ2021年9月16日時点の情報
※参照リンク:pttor.com
これはバンコクと首都圏の価格だ。バンコクに到着したガソリンはタンクローリーで各地に輸送されるので、地方に行くほど輸送コストが加わり高くなる。
たとえば、タイ北側にある隣国・ラオスとメコン川で接するノーンカーイ県においては、ベンジン91は39.16バーツ(130.79円)、ガソホール91で31.48バーツ(105.14円)と、それぞれ0.6バーツ(約2円)ほど輸送費が上乗せされている。
そのため、バンコク居住者が地方に行くときはとりあえず都市部で燃料を満タンにしてから向かうことが多い。
タイは日本でいう高速道路が首都圏にしかないが、地方は国道の幹線道路がその代わりとなる(アメリカのフリーウェイのような一般道とは分離された道路のイメージ)。
そして、その幹線道路の脇にあるガソリンスタンドがサービスエリアのような役目を果たす。
タイでは日本のようにコンビニエンスストアでトイレを貸してくれることはない一方、ガソリンスタンド=休憩所が常識なため、バンコクでもガソリンスタンドのトイレは自由に使える。
クルマを運転をしない観光客もこれだけ憶えておけば、トイレに困ることもないだろう。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。