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バイクに乗っていると「これいくらするの?」「このバイク何ccなの?ナナハン?」と話しかけてくる人に遭遇したことはないでしょうか?
彼らは通称ナンシーさん(中年男性の場合はナンシーおじさん)、イクラちゃんなどとwebやSNSでは呼ばれています。
その由来は、排気量が何ccなのか聞いてくるためナンシーさん(自分より上の世代から聞かれることが多いからさん付けなのか?)といい、バイクの値段がいくらか聞いてくるからイクラちゃんと言われています(サザエさんで登場するイクラちゃんから?)。
たとえば、SAやPAエリアで休憩をしているときに、おじさんから「このバイク何ccなの?」と聞かれたあと「○○ccですよ」と答えますよね。
そうすると、おじさんは喜びながら「そうなんだ!ボクも昔は○○ccのバイクに乗っていたんだけど……」と勝手に「自分語り」をし始めることもあります。
ライダーとしては「バイクに乗って早く立ち去りたい」という思いがあるでしょうが、中々その場を離れられそうな雰囲気がないのでヤキモキしたり……。
そこで当記事では、そんな「ナンシーおじさん」がなぜ見知らぬ相手に突然声を掛けるのか、その場をうまく立ち去る方法などについて心理学者のひなたあきらさんに聞いてみました。
ナンシーおじさんは「孤独な人」なのかもしれない
──なぜ「ナンシーおじさん」と呼ばれる人たちは見知らぬ相手に自分の思い出話などを突然語ってしまうのでしょうか?
気軽というかズケズケと話してくる人はバイクに乗っていることを誰にも認めてもらっていない、「すごいね」と言われることもない、孤独な人です。
でも「寂しい」なんて口が裂けても言えない、というか気付いてないのです。
──ということは、逆に私たちも「ナンシーおじさん」のような行動をいつの間にかやってしまう可能性があるのでしょうか?
ナンシーおじさんは「孤独」です。仕事は上手くいっておらず、家族からもロクに相手をされることがない……そんな誰もが経験しそうなことなので、孤独な立場に置かれたときにナンシーおじさんのような存在になる可能性があります。
──知らずのうちに自分語りをする人たちは、心理学的にはどのように呼ばれている存在なのでしょうか?
こういった人々を「自己愛性人格障害」と呼びます。
成功に恵まれず、自分を特別だと思いたいけれども、叶わない。相手を自尊心のために利用して嫉妬深く傲慢な態度を取ることがあります。
──そう聞くと、かなり印象が悪い「ナンシーおじさん」ですが、彼らにもいいところはないのでしょうか?
ナンシーおじさんにもいいところはあります。
子どもっぽくて無邪気、ほめられると機嫌が良くなるので、言い方を変えればチャーミングで可愛いのです。
「じゃ、用事があるんで」と立ち去るのがベストな対処方法
──ちなみに「何ccなの?」と聞いたあとに「昔は(自分も)○○に乗っていたよ」と話を広げながらマウントを取る人もいるそうです。なぜそのような行動を取ってしまうのでしょうか?
マウントを取りたがるのは誰もマウントを取らせてくれる相手がいないから。だから見知らぬ人に「何ccなのか」聞いてしまうのです。
本音ではとてもコンプレックスが強くて劣等感のある人です。ナンシーおじさんは「○○さんが乗っていたバイクは何ccですか?」と言われたい人なんですね。
──ついつい知識をひけらかしたいナンシーおじさんですが、気を悪くさせないまま上手く立ち去る方法などはありますか?
自分自身を認めて欲しい人なので放っておくと「このバイクすごいね、でも俺が乗っていたのは○○ccなんだ〜」と言い出してしまうわけです。
言われた側としては「はいはい、そうですか」と思ってしまうわけですが、なにぶん自己顕示欲が強くてそれを認めてもらえなかった人なので、話をちゃちゃっと終わらせたかったら「すごいですねえ、さすがですねえ」とほめ殺しにして「じゃ、用事があるんで」とその場を立ち去るのが一番無難です。
彼らもまた次の獲物をきっと探すでしょうけど……。
とはいっても、そんなナンシーおじさんたちに一度冷静に振り返ってもらう方法があります。それは地に足をつけて、いま社会の中でどんな地位にあって、家族の中でどんな扱いを受けているのか直面化させるのです。
ナンシーおじさんは会社では冴えないオヤジで、家に帰っても家族から相手にされず口を聞く相手もいない……だから仕事のことや家族のことを聞かれると黙り込んでしまうことが多い傾向にあります。
おじさん同士だった場合「最近、色々つらいことが多い時代だけど……お互い頑張りましょうよ」とポンと肩を叩くと「見知らぬ相手に自分語りをしている場合じゃなくて、俺もちゃんとしないとなあ」と、ふと我に返るかと思われます。
また、仕事や家族のことを聞かれるとその場を立ち去ってしまう可能性もありますが「あんちゃん、聞いてくれよ」と語り始めてくれる人が中にはいるかもしれません。
そうしたら「うんうん」と言って共感して聞いてあげましょう。感動のあまり泣き出してしまう人がいるかもしれません。
あれっ?しかし、これはこれで立ち去れなくなる可能性が……?
監修●ひなたあきら まとめ●モーサイ編集部・小泉元暉
■ひなたあきら
臨床心理士、公認心理師の資格を保有。
都内大学院心理学科卒業後、国家公務員総合職という職員のマネジメントなどを行う。
精神科病院、精神保健福祉センター、福祉施設や労働局等を経て、現在は社産業保健管理室の心理カウンセラーとして勤務のほか、ブログにて心理学やカウンセリングに関することを発信している。