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タイの首都バンコクから最も近いビーチ・リゾートはパタヤだ。
かつてこの地は小さな漁村だったが、ベトナム戦争時に米軍兵士の保養地として栄え、今もナイトクラブなどエンターテインメントが充実している。
主に外国人観光客のバカンス地として人気が高い場所である。
そんな観光地ではあるが、交通手段はバンコクほど充実しておらず、旅慣れた人はレンタカーやレンタルバイクで移動することが多い。
しかし、2020年からレンタルバイクに対しての取り締まりがパタヤで強化された。
無免許でもバイクを借りることができたパタヤ

パタヤ警察も莫大な観光収入を支えるためか、レンタルバイクの規制は緩かった。深夜に飲酒運転あるいは麻薬の検問をしていても、止めるのは車かタイ人のバイクのみ。外国人が乗るバイクはあまりチェックしていなかった。
ところが、2020年に入って事情が変わった。外国人によるバイク事故が増加しているからだ。背景としては、左側通行に不慣れであることや、飲酒運転が多い。
特に規制強化の要因になったのは、2020年に起きたアラブ人による無免許運転がきっかけだ。その交通事故では、ロシア人女性の歩行者が跳ね飛ばされ死亡した。
タイにも当然保険はあるが、飲酒運転は適用外。運転者が外国人の場合、そのまま逃走してしまえば、逮捕も賠償請求も困難だ。
パタヤはタイの玄関であるスワナプーム国際空港から高速道路1本で来られる立地で、数時間後には飛行機に乗って国外に逃げられてしまうことも考えられる。
そのためにレンタルバイクの規制が強化されたわけだ。
ここでピンとくる読者もいることだろう。どうして「無免許」でアラブ人は運転していたのか。
先述のとおり、パタヤのビーチ・リゾートでは外国人観光客ばかり。一部のレンタルバイク業者は盗難防止のために観光客のパスポートだけ預かり、免許証は確認していない。
競争が激しく、業者数も多いのでそこまで厳しくしていると客を取り逃がすという事情があったからだ。
タイのレンタルバイク相場は日本円で350~1050円程度

パタヤのレンタルバイクの相場は、1日あたり100~300バーツだ。日本円で350~1050円程度。
主流となるバイクは100~150ccで、スクーターもあれば、日本のカブをスポーティーにしたようなタイプまである。
さらに、外国人に注目されるためにと大型バイクを用意するレンタルショップもある。ハーレーダビッドソンなどの大型車も貸してくれるところがあるわけで、それを無免許の外国人が酔っぱらって運転するとなると凶器以外の何物でもない。
そこでパタヤ警察が打ち出した規制はごく初歩的なもので、運転免許証がないとバイクを借りることができないというものだ。
本来、外国人がタイでバイクレンタルをする場合はパスポートと、日本人なら日本で発行された国際運転免許証を持参する必要があった。
それをレンタルバイク業者に厳守させ、タイで発行された運転免許証か国際運転免許証を提示しないとバイクを借りることができなくなってきた。
それまでタイには二輪運転免許に区分はなかった。タイでは二輪運転免許を取得さえすれば、小型から大型まで運転することが可能だった。
つまり、日本人も普通自動二輪(昔でいう中免)以上の国際運転免許証があれば基本的にはどのバイクもレンタルできるということになる。
海外でバイクを運転するなら普通自動二輪も大型二輪も国際免許上は同じ区分A(*)だ。仮に普通自動車免許や原付免許だけ持っていても、区分Aにはスタンプが押されない。
*区分Aは、二輪の自動車(側車付きのものを含む)、身体障害者用車両及び空車状態における重量が400キログラム(900ポンド)をこえない三輪の自動車のこと。
詳しく記載されている愛知県警察のホームページを参照。
逆になぜ普通自動二輪以上かというと、そもそもタイには50ccバイク=原動機付自転車という区分がない上に、タイで流通するバイクは最低でも100ccからとなるためだ。
原付免許はある意味日本独特のもので、国際運転免許証にもカテゴリーがない。ここにスタンプがなければ免許が無効となるので注意したい。
とはいえ、無免許運転でも、現行の法令では「1ヶ月未満の懲役もしくは1000バーツ(約3500円)以下の罰金もしくはその両方」が科せられるに過ぎない。
2018年には「懲役3ヵ月未満もしくは罰金5万バーツ(約18万円)もしくはその両方」という厳罰化が検討されたようだが、施行には至っていない。
ここがタイの交通法規の怖いところでもある。被害者だけが損をする仕組みなのだ。
タイでも「大型バイク」の免許区分が作られたが……

しかし、2020年8月にタイも大型バイクの免許区分(400cc〜)が新設された。
タイはこれまで一般の二輪免許で排気量制限なしでバイクを運転できたのだが、近年ビッグバイクが人気になっているのに比例してバイク事故も増加。そのため、新区分ができたのだ。
タイでは法令の解釈が警察官ひとりひとりにゆだねられている部分がある。
法令的には国際運転免許証のA区分にスタンプがあれば問題ないが、パタヤ在住の日本人によると「日本の普通自動二輪免許で大型バイクを運転していると無免許運転扱いになる可能性がある」と、言っている。
警察官によっては記載事項の読み方を理解している人もいて、わざわざ日本の運転免許証を提示させ、普通自動二輪しかないのに大型バイクで運転していることを突いてくるんだとか。
タイでは交通違反をするとその場で免許証を取り上げられ、警察官が警察署に戻るタイミングを見計らって出向き、罰金を払って免許証を返してもらう。
その際、パタヤ警察署窓口では担当者がバイクや現場すら見てもいないのに、さまざまな違反を言い渡してくる。
パタヤ警察は交通違反者から賄賂を受け取り、見逃すということがあまりない。その一方で、適当に違反理由を積み上げて金額を吊り上げようとする傾向にある。
ある日本人観光客はパタヤの路地で一方通行違反をした。本来は最大でも罰金400バーツ(約1400円)程度だ。
ところが、無保険、無車検、無灯火などを勝手に上乗せして2000バーツ(約7000円)超の罰金を請求された。
抗議した結果、1000バーツ(約3500円)まで下がったものの、本来の倍以上の罰金を払わされている。
タイ国内に大型バイクの区分ができたことで、「日本の免許との違いを指摘して罰金を巻き上げられることも今後考えられる」と先のパタヤに暮らす日本人が言っていた。
タイの法令やショップのルールを知ってからバイクを借りること

現地の報道では、レンタルバイクの規制が厳しくなっているのはパタヤだけのようである。
同じビーチリゾートであるタイ南部のプーケットもレンタルバイク店が多く、今後同じようなことになるかもしれない。北部の山岳エリアにあるチェンマイもおそらくそうだ。特にチェンマイは大型バイクのレンタルショップがパタヤ以上にある。
タイは海、山と、日本にも負けないくらい自然が豊かだ。ワインディングロードもたくさんあるので、日本人ライダーも魅力がある土地だ。
しかし、タイも昔のような東南アジアらしい緩さがなくなってきているので、自分が乗るバイクに該当する二輪免許はちゃんと持ってきておきたいところだ。
ちなみに、タイもヘルメット着用は義務付けられている。
また、レンタルの際に加入する保険で概ね問題ないが、仮に免責になる事故や故障の場合はレンタルショップに支払う賠償金が高額になってしまう。
タイではバイクが物価的に安くはないので、法令やショップのルールをしっかりと把握してバイクを借りるようにしよう。
とはいえ、現在はコロナ禍で、パタヤを始め外国人向けリゾートはゴーストタウン化している。
外国人観光客が戻ってくるころには、また取り締まりが緩くなっているかもしれないが、安全に楽しくタイのバイク旅を満喫したければ、この厳しい法令が当たり前だと思っていた方がいいだろう。
レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉
追記6月11日21時:文中の表現やバーツと日本円の換算で一部誤っていた箇所があったため、訂正を行いました。
■高田 胤臣(たかだ たねおみ)
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。