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スペック以上に理解できない「車体色名」が気になるッ!!
バイクに興味を持ち始めたころの若者は、カタログやメーカーサイトで車両情報を片っ端から眺めるものだ。世の中にはどんなバイクが存在するのかを知り、馬力や車重だけを見て「このバイク、すげー!どれくらいのスピードで高速道路をカッ飛ばせるんだろう?」なんて妄想に励む(妄想の中だけにしておきましょうね……)。スペックシートに書いてある項目のほとんどの意味を理解しないまま。それも若さであり、ある意味一番最初のバイクの楽しみ方かもしれない。
しかし、車両の情報にはスペック以上に一際理解できないものがあった。
車体色名である。
ホンダ・CB400SFならば「キャンディークロモスフィアレッド」(クロモスフィアってなんだよ!?)。ヤマハ・MT-09ならば「ディープパープリッシュブルーメタリックC」(紫なの?青なの?Cってナニ!?)。スズキ・Vストローム250ABSならば「パールネブラーブラック/ソリッドダズリンクールイエロー」(こんなに長いのに2つ並べんのかよ!)。そしてカワサキ・ZX-10Rならば「ライムグリーン」……といった具合。(あっ、カワサキの色はなんだか合点がいく。)
と、こんな具合だ。それもほとんどの車種でそんな名前なのだから驚きだ。これはバイクやクルマ特有の文化なのか……。
そこで気になって様々な色名を調べてみると、かなりはっちゃけていてもはや色名だと思えない代物も存在しているのである。
その一部を以下に紹介しよう。
キャンディーブレスレッドスペシャル
「アラ奥さま、いいブレスレットをお召しでいらっしゃるわねぇ」
「オホホ、ちょっとそこの三原堂でセールになっていたものですから~」
なんて会話が聞こえてきそうな、優雅な色名だ。
しかし間違えないでほしい、ブレスレットではなくブレスレッ“ド”である。
キャンディーは分かる。キャンディー塗装のことだ。下地にシルバーを塗ってその上のカラーをきらめかせる塗装方法だ。
しかし、ブレスレッドってなんだろう?それもスペシャルって……ノーマルもあるの?謎は深まるばかりである。
しかし、意味は分からなくとも「へー、お前バイク乗っとるんや。どんなの?何色なん?」などと聞かれたときに「キャンディーブレスレッドスペシャルだよ」と返せば、一目置かれることは間違いないだろう。
アズルパーラアトランティス
「こ…これが2万年前に失われた水底の都…」
アズル・パーラ・アトランティス
「蒼く輝く海底都市……!」
違う。土地の名前ではない。
アズール(アジュール)とはフランス語で青系の色を指し示す言葉。
最後のアトランティスは海をイメージをさせる修飾なのだろう(と思う)。
ホンダはスクーターのフュージョンやDIOなどに好んで「パールアトランティスブルー」という車体色を採用していたが、このアズルパーラアトランティスは最後が海をイメージさせる単語であるだけに、色名っぽくない。
さぁ、この色のバイクにまたがって、水の惑星・地球を股にかけた壮大な旅に出ようではないか。
パールロイヤルマゼンダー
「変形! 合体!」
「ウオオォォォ!」
「パールロイヤルマゼンダー、発進!!」
なんともロボットっぽい車体色。非常にデラックスなイメージである。
マゼンダーとはつまりマゼンタ、いわゆる赤系の色を指し示すものなので車体色名の構成としてはオーソドックスなのだが、マゼンダーという語感がどうにも水木一郎アニキの歌うあのロボットを彷彿させる。
しかもこのカラーが採用されたのはホンダが誇るクルーザーマシンのシャドウシリーズ、それも長兄となる1100㏄のモデルやホンダのフラッグシップモデルのひとつ「ゴールドウイング」の先祖、GL500。デカくて立派なバイクにぴったりの色名なのだ。
キャンディーインディーブルー
「危ない!街にダークエネルギーが降り注いでるわ!」
「私に任せて!」
「ブルー!どうにかできるの?」
「いくわよ〜……! キャンディー・インディー・ブルー!」パァァァァァァァ!!
女児向け魔法少女アニメに出てくる呪文みたい。もしくはかぼちゃの馬車を与えてくれるあの呪文か……。
キャンディーとインディーで韻を踏んでいることにも加え、最後のブルーにより3つの単語すべてで音引きが使われることとなり、軽快なリズム感に仕上がっているため、つい口に出したくなる。
この色はスズキのバンディット1250やハヤブサにも使われた、ある意味由緒正しき色。色合いはダークめであるため、あまり魔法少女感はないのだが……。
最後が色名であるにも関わらず色名っぽくない、稀有な例である。
アストロパープルメタリックカスタム
悪の組織の偉い人「フハハハ、もう終わりかアストロ戦隊!」
アストロレッド「くっ…もう…だめなのか…」
???「諦めるな!まだ俺がいるぜ!」
アストロレッド「!?」
悪の組織の偉い人「お、お前は確かに倒したはず…!?」
アストロパープル「アストロパープル復活だぜ!」
博士「ほっほっほ、復活させたついでにメタリックカスタムで防御力をアップさせといたぞい」
アストロパープル「サンキュー博士!」
アストロ軍団ってなに?
もともとの紫色がメタリックカスタムによりさらなる輝きと金属感をまとったかのような色名だ。
CB750Fourといえば近代における四気筒エンジン搭載車の祖としてバイク史に燦然とその名をきらめかせる偉大な車種だが、その時点ですでに「カスタム」の名が付けられるとは、紫は意外と歴史の深い色なのかも。
そういえば最近の車種は純正色に紫が採用されなくなった。上品に使えばとてもセクシーで魅力的なカラーなので、紫を採用した車種がもっと増えてほしいものだ。
レッドEスパークル
「ジョン・F・ケネディ」
「サミュエル・L・ジャクソン」
「ベン・E・キング」
「マイケル・J・フォックス」
「レッド・E・スパークル」
なぜだろう、こうして並べてみると色の名前には見えない。途中でアルファベットが入ってくると、海外の有名人の名前のようだ。
名前の響きはなんとも刺激的だが、実際の塗装色として見るとやや暗めの赤色であり、ホワイトのボディへの差し色としてまるで秋の深まった頃に見られる落ち着いた紅葉のよう。モーガン・フリーマン的な渋みを利かせたハリウッド俳優を彷彿させる。
言わずとしれたGPライダー、ヴァレンティーノ・ロッシの姓である「ロッシ」もイタリア語において赤を意味する「ロッソ」が語源。そう考えると色名と人名は意外と近い存在なのかも(こじつけが過ぎる?)
以上がお茶目な色名シリーズである。
こうして見てみると、冒頭のキャンディークロモスフィアレッドなど取るに足らない地味なな色名に思えてくる。
横文字が多いのでスルーしがちなバイクの色。少し目線を変えると、色とは無関係な全く違う世界が想像できるから不思議。
これからもメーカー各社にはド肝を抜かれるような色名を考えてもらいたいものです。
レポート●緒方誠一 写真●ホンダ・ヤマハ