燃料コックのポジション、「ON」「OFF」「RES」の意味と使い方
多くの現行モデルの燃料供給方式は、FI(フューエルインジェクション・電子制御燃料噴射)だ。
言うまでもなく、燃焼効率、環境性能の向上になくてはならない必然の機構として普及したから、キャブレターならではの味わいを回顧するのはおっさんのエゴなのかもしれない。だが、当記事ではそれを承知でアナログな機構を振り返ってみたい。キャブレター車の魅力については以前書いたことがあるのでそれに譲るとして、当記事では燃料コックについての話を──。
キャブレターと同時に消滅したこのアナログな機構は、燃料タンクからキャブレターに送り込まれるガソリンの「開閉門」だ。
ここにON(流入)、OFF(流入止め)、RES(リザーブ・燃料が残り少ないときの切り替え)の各位置を選べるレバーが付き、その都度切り替えて使用するものだ。
ベテランのオヤジライダーには「何を今さら……」の説明だが、使いこなすと便利だと思うのは、やはりおっさんのノスタルジーか。
RES=リザーブは実際どのくらい走れるのか?
通常の走行時はONに入れる。これで走行し続けて燃料が無くなるとエンジンが止まる。だが、まだ走れる。
RESに切り替えると再度ガソリンが送り込まれ、エンジンがかかる。タンクから燃料コックを外してみればわかるが、ON位置用の流入パイプが少し高い位置(油面)にあり、RES用の燃料通路は燃料タンクのほぼ底面についているのがわかる。
つまり、ガソリンを送り込む油面の高さ(ONで吸えなくなる位置)で燃料残量を警告し、リザーブになったら給油しなさいと教えてくれる仕組み。落下式燃料コックとも言い、非常にわかりやすい機構だ。
このRES=リザーブのことを「予備タンク」などと言う人もいるが、燃料タンク内に実際「予備タンク」として仕切りで区切られた別室があるわけではない。
ただし注意すべきは、RES位置で使ったコックの給油後の戻し忘れだ。
ちゃんとON位置に戻さずにRES位置のまま使い続けると、次は完全なカラ状態でパニくることになるのだ。
さて、RES位置からの残り燃料はどれくらいあるか(=残りの走行可能距離)だが、これは排気量や車両の燃費性能によってまちまちだ。しかし大概の国産車は、最低でも50km程度走れるように設定されている印象だ。
例えば自分が所有したモデルでは、ナナハンクラス(タンク容量22L、平均燃費17〜19km/L)の場合で、リザーブ容量は5L弱。軽二輪のオフロードバイク(タンク容量10L、平均燃費30〜33km/L)でリザーブは約2Lだった。
最低50kmは走行可能を裏付ける設定だ。
2ストオフロード車などはリザーブがかなり少ないものも
とはいえ、例外もあった。
これまで筆者自身が乗ったことのあるモデルでいうと、ホンダの2スト原付二種オフロードバイク・CRM80(絶版車)は、元々タンク容量が少なく5.2Lで、リザーブ容量は0.7L。
そのくせ、燃費は4ストの軽二輪よりよくない(20km/Lを切ることもある)。これでは山中の長めのダートに入り込むのは不安……と引き返したことがある。
また外国車でも例外があり、2スト400ccの公道走行可能なエンデューロバイクではリザーブが0.5L(!)というのがあった。ともあれ、ON位置でガス欠になったら早めに給油するに越したことはないのだが、このアナログな燃料コック。何がいいかというと……こんなことを筆者は思う。
- ガス欠になった時期(走行距離)で、その回の燃費の良し悪しが大体わかること。
- すなわち、自分の走り方(操作の仕方)がわかる。
- 操作がいつもと変わらないならば、バイク自体の調子の好悪を知るきっかけになる。
「プリ」って何だ? 負圧式燃料コックの登場で現れた新参者
二輪車が誕生してから長く使われてきた前述の自然落下式燃料コックだが、その間にはわずかな進化もあった。ひとつが負圧式燃料コックの登場だ。国産車では1970年代後半に登場した同機構だが、自然落下式燃料コックと異なり、OFFの位置がない。
「PRI」=プライマリーは自動で燃料の流れをカットする
走行時のON、RESはあるが、OFFの代わりにPRI(プライマリー)が加わる。負圧式の特徴は、名前のとおりエンジン始動時のインテークマニホールドからの負圧でガソリンが流れるようコック内に弁(ダイヤフラム)が設けられている。エンジンがかかった時はキャブレターにガソリンが送り込まれる一方、エンジン停止時は燃料供給もストップ。
よってON、RES位置で燃料コックにつながるホースを外してもタンクから燃料は落ちて来ない。弁がストッパーになっているからだ。一方で、整備時にガソリンを強制的に排出したい時などは、PRI位置にすると自然落下式と同じように燃料が流れる。
いわばこの仕組みによってOFF位置を必要としない。停止時のOFF位置への切り替えの手間を省くことができるわけだ。
筆者の感覚だと、負圧式はキャブレター時代の70年代後半以降の多気筒モデルに採用例が多く、以前に所有していた空冷4気筒のカワサキGPz750も負圧式だった。
だが、燃料コック内のダイヤフラムなど、ゴム部品の経年劣化によりこのストッパーが機能しないこともあり、「メンテナンスフリー」というわけではない。
なお、細かいことだが、負圧式コックの場合、エンジン稼働時の負圧で機能するため、自然落下式のようにOFF位置でエンジンを回し続けてキャブレターフロート室内の燃料を空にしたい(長期に不動保管したい時などに行う)という芸当ができない。
負圧用ホースに栓をするという裏技はあるが……。
とうとうと「失われた機構」である燃料コックの話を述べてきたが、話の展開が腑に落ちないという方もいるかもしれない。
今のFI車なら平均燃費も瞬間燃費も出るし、燃料警告のランプが点灯して(リザーブ警告と同じ役目をする)、その後の走行可能距離を表示したりもする。
言わば、FI車にも十分な表示機能があるし、キャブ+燃料コックの時代よりもはるかに情報は充実している。
だが、おっさんはこう思うのだ。自分でガス欠を体感し「能動的に」燃料コック位置を切り替えることと、たくさんある情報を受動的に見るFIとの間にある、乗り手側のセンサーの働き具合の差みたいなものを……。
以上、こんなおっさんの戯言に、皆さんはどんなお考えを持つでしょうか。
レポート●阪本一史(『別冊モーターサイクリスト』元編集長) 写真●モーサイ編集部 編集●上野茂岐
12月5日追記:本文に誤りがあった点を修正いたしました。
(RES位置になる前に給油しなさい→修正:リザーブになったら給油しなさい)