白バイに並ぶ働くバイクの代表格! と言えば、日本郵便が郵便物の集配業務に使用する郵政カブことMDシリーズ(MDは「Mail Delivery」の略)。
外に出れば一日一回は見かけるであろう同車が、スーパーカブの改造車ではなく、実は郵便配達のために作られた“専用設計車”であることは意外と知られていない(と思う)。
ここではそんなMDの歴史と秘密をご紹介したい。
MDの登場は1971年
郵政仕様車として、改造が施されたカブは以前からあったが、専用設計車の「MD」として登場したのは1971年のこと。
正式名称は「スーパーカブ90デリバリー」で、フロントフォークはボトムリンクからテレスコピック方式へ、ハンドルもメーター別体のバーハンドルになるなど、現代のものに近いスタイルだった(ただしタイヤ径は17インチ)。
ちなみに、MD以外にもヤマハのメイトやスズキのバーディなど、郵政仕様のバイクはいくつかあるが、いずれも足まわりや装備品を交換しただけの改造機種で、専用設計車はホンダの「MD」だけである。


そして1972年には乗り降りのしやすさなどを考慮してタイヤ径が14インチとなり、さらにその翌年の1973年には50/70ccモデルが追加され、都合3モデルがラインナップされた。

その後1986年になると電装系が6V→12V化され、1999年にはMD70がモデル落ちして、50/90ccモデルの2台体制に。
そして2009年のスーパーカブのFI化に合わせて一時期生産を縮小し、2010年よりフルモデルチェンジして再登場。これを機に現在と同様の50/110ccの2機種体制となった。

現在のラインナップは2機種
ベースとなっているのは新聞を始めとした配達業務用モデルのスーパーカブ Proシリーズ。排気量は前述のとおり50cc/110ccの2機種である。白バイと同様にMDも「特殊車両扱い」になるので、詳細なところはわからないものの、ボディカラーのほかに見た目からわかる相違点としては下記の2点が挙げられる。

1.フロントキャリアの形状
(MDは集配カバンを置くため前端部が持ち上がっており、背の部分も高い。また側面に反射板も付いている)

2.リヤキャリヤのサイズ
(プロでは後端部を跳ね上げた大型キャリヤを搭載しているが、MDの場合集配用のリヤボックスを載せられるよう少し小さめ)

ほかにも、年式によってはライトガードが簡素化されているものもある(また、ちょっと余計な話かも知れないが、新しい機種になるとヘッドライトがハロゲンランプからLEDライトになっているモデルもある)。
ちなみに、現行モデルでも継承されているかは定かではないのだが、キャブレター車時代のコンロッドは耐久性向上のため肉厚でウェイトになる部分が大きくなっていたり、航続距離を伸ばすためタンク容量も5Lに増量されていたり、スピードメーターの形状が異なるなど、様々な違いがありさらに年式によっても微妙に違っている。

基本的に普通の人は「MD」に乗れない
前述のとおり郵政カブは「特殊車両扱い」となり、払い下げ車両も業者が一括で購入するので、市場に出回ることもない。ゆえにMDに乗るには、郵便局員になるか郵便局で短期バイトをする以外に方法はない。
……はずなのだが、中古車サイトや個人売買サイトなどを見てみると、なぜか車両の販売がされていることがある。

「昭和のおおらかな時代の地方郵便局では、個人でも払い下げ車両を買えるケースもあった」という話もあるので、その頃のものが出てきたのか、あるいは何らかの理由で業者からショップないし個人へ譲られたのか。推測はできるが真偽のほどは不明である。
なお、日本郵便に問い合わせたところ「防犯上の理由により、一般の方への再販売は認めていない」とのこと。どれほど「MD」に対して強い憧れがあるにせよ、無用なトラブルを避けるためにも購入しないほうが賢明なのだろう。
ちなみに、郵便バイクと言えば2020年1月17日から(一部地域で)電動バイクの導入が開始されたことが記憶に新しい。
将来的には「郵便屋さんのバイク=電動バイク」となる時代が来るかも知れないが、世代交代するその日まで(?)半世紀近く愛され続けた“MD”が変わらず走り続けるのだろう。
取材協力●日本郵便、郵政博物館
