アドレスV125Sは馬10頭が引く馬車?
突然ですが、筆者の愛車はスズキの原付二種スクーター、スズキ・アドレスV125Sです。
小回りがきいて乗りやすいうえ燃費もよく、自分ひとりの移動手段としては“最高の乗り物”と気に入っています。
ただし、このアドレスV125Sの最大の魅力はその「走り」にあると思っています。排気量は124㏄なので高速道路は走行できませんが、一般の道路を走る分には十分過ぎるほどパワフルです。スタートダッシュも、加速も、キビキビした気持ちいい走りを見せてくれます。流れの速いバイパスにも余裕で対応できます。
そんなアドレスV125Sのエンジンのスペックはカタログ上、9.9馬力となっています。
「馬力」はクルマやバイクのエンジンパワーを表す単位として使われていますが、「馬の力」と書きますので、「1馬力=馬1頭のパワー」と考えている人が多いのではないでしょうか?
私もそう思っていたひとりなのですが、ある疑問が湧きました。
アドレスV125Sのエンジンが9.9馬力ということは、馬10頭分と同じぐらいのパワーがあるのかと考えてみると……つまり、アドレスV125と馬10頭で左右から引っ張りあう勝負をしたらどちらが勝つのか、と。
リーバイスのジーンズのパッチに描かれている絵のような力くらべをすれば、馬10頭のほうがゼッタイ勝つ気がします。
「1馬力」は人間ひとりでも発揮できる!?
実際のところ、馬1頭が発生する力を馬力に換算すると、どのぐらいになるのでしょうか。
馬力とは仕事率を表す単位で、その定義は「75kgの物体を毎秒1メートル動かす仕事率」となっています。このぐらいの仕事ならば、力に自信のある成人男性が気合を入れて「えい!」と頑張れば、瞬間的には「1馬力」を発生させることもできます。
また、一言に馬といってもさまざまな種類があります。
なかでも競走馬として活躍する「トップアスリート」ことサラブレッドの体重は450〜500kg程度。この巨体がレース中、平均速度50〜60km/hで駆け抜け、トップスピードは70km/h以上に達するといいます。
450kgのサラブレッドがスタートから数秒間、毎秒3メートルずつ加速していく時に発生している馬力について、計算を単純化してみると「450kg/75kg×毎秒3m」=「18馬力」になります。
アドレスV125Sと馬が引っ張り合いをしたならば、瞬間的な一発勝負であれば(どちらも「最高出力」をいきなり発揮すれば、と言ってもいいかもしれません)、馬10頭どころか、サラブレッドなら1頭でも馬の圧勝です。
ただ、競走馬がレース中に「継続的に発生している馬力」は2〜3馬力とされていますので、綱引きのような1分間ぐらいの長期戦ならば、もしかするとアドレスV125も馬2〜3頭を相手にソコソコ勝負できるかもしれません。もっとも、馬の体重などを考慮すれば引きずるだけでも容易ではありませんね……。
仏馬力に英馬力……国によって定義が違う馬力
ちなみに、この「馬力」という単位はなかなか曲者です。国によって馬力の定義が異なるのです。
馬力には、日本やドイツなどを中心に使われている仏馬力こと「PS」(*)と、アメリカやイギリスで使われている英馬力こと「HP」(Horse Power)、「bhp」(brake horse power)があって、厳密には1PSと1HPのパワーが異なります(1PS=0.986HP)。
*メートル法の発祥がフランスであることから「仏馬力」と呼ばれますが、表記のPSはドイツ語の馬の力「Pferdestarke」(「a」の文字にはウムラウトが付く)の略に由来します。英馬力は考え方自体は仏馬力を参考としていますが、ポンド・フィートを算出の基準にしているため差異が発生します。
そのため、そうしたバラつきのある単位ではなく、もっと国際的に共通した単位で表そうということで、日本では1999年、仕事率を表す単位として「ワット」(W)の使用を義務付ける「計量法」が施行されました。バイクやクルマの出力は大きいので、キロワット(kW)が単位になっています。(1PS=0.7355kW)。
とはいえ、エンジン出力のキロワット表記に対し、まだまだ多くの人にとってピンとこない実情もあります(「馬力」表示の歴史は長かったですしね)。300馬力のエンジンを「最高出力220キロワット」といわれても、実際ちょっとイメージわきませんよね。
計量法でもエンジンなどの内燃機関、蒸気機関、タービンなどに限り、暫定的に馬力での表示を認めています。カタログなどにもキロワットと共に、カッコ書きなどで馬力が示されているケースがほとんどです。
まとめ●紺野陽平