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クルマもバイクも車体すべてが水に浸かって、いわゆる「水没」状態になってしまったらそのまま走ることはできなくなります。
さらにエンジンがかかった状態で水没すれば、吸気経路からエンジン内に水が侵入するため、エンジン全バラ修理が必要となり、再生には多大な費用と時間がかかります。
その場合、多くが「廃車」という乗り物としての“死”が選択されることになるのではないでしょうか。
では、日常の雨の場合はどうでしょうか。
雨ざらし保管でバイクは“死ぬ”のか?
クルマは青空駐車が一般的ですが、バイクの場合、屋根の下やカバーをかけた保管が推奨されています。
それは盗難防止のためでもありますが、雨からバイクを護るのも重要な目的です。
運転席もエンジンもサスペンションもすべてボディに覆われているクルマに対し、スクーターを除くバイクは基本的に機関や足周りが露出状態にあります。
そのため「濡れたらまずいのでは?」と、感覚的に理解することができるのではないでしょうか。
そこで雨ざらしにされ続けたバイクにどんな不具合が訪れるのか考えてみることにしました。
サビによって足周りがおぼつかなくなる!
雨ざらしで最も心配されるのがサビの発生です。
中でも走りに直結するのが、バイクの前後サスペンションに発生するサビでしょう。
クロームメッキされているフロントフォークのインナーチューブやリアショックのダンパーロッドは、サスペンションオイルを漏らすことなくスムーズに作動するための平滑さが命。
ところがここにサビが発生すると、サビの凹凸がゴム製のオイルシールを傷付け、オイル漏れが発生してしまいます。
また、ディスクブレーキのキャリパーピストンもバイクの場合は、露出状態なので雨水由来のサビが発生することがあります。
この場合もブレーキフルード漏れに繋がることもあるので非常に危険です。
つまり、雨ざらしにすることでバイクの足周りはダメージを受け、足元がおぼつかなくなってしまうのです。
接点不良による電装系トラブルが出てくるかも?
サビといえば、バイクの電装にも悪影響が心配されます。
基本的にバイクの電装系は水に濡れにくいようにカバーされていますが、完全に防ぐことはできません。電装ハーネス接続部の端子にサビが発生すれば、サビが抵抗となって電気が流れにくくなります。抵抗のある部分は熱を持つので、カプラーが焦げることもあります。
さらに、完全に電気が流れなくなればライトが点かないなどの電装部品の不作動を招き、それが点火系に起こればエンジン不動となります。
さらにスイッチ接点がサビれば、ホーンが鳴らないなどの不具合が出てくることになります。
つまりは、神経伝達がうまくいかなくなってしまうわけです。
燃料タンクに水が混入することも……
燃料タンクのキャップは防水構造となっており、燃料タンク内に雨水が侵入しないようになっているのですが、雨水が侵入するケースもあります。
タンクから出っ張っていないデザインのタンクキャップの場合、キャップ周辺にはたいてい水抜きのためのブリーザーが設けられており、ホースが車体下へと伸びていて、キャップ周辺に溜まった雨水を排出する構造になっています。
しかし、このホースが折れていたり、マフラーで溶けて塞がっていたりすると、雨水の排出ができなくなり、溜まった雨水がタンクキャップを開けるたびにタンク内に入ってしまうことになります。
ガソリンと水は混ざらず、水はタンクの底に溜まっていき、長い期間が経てば腐食を発生させることになります。
タンクの底がサビて穴が開けば、絶対に漏らしてはいけないものが漏れることになるのは想像に難しくないでしょう。
外装(見た目)がひたすら劣化する……
野天保管のノーガード駐車で最も劣化が心配されるのが、バイクの見た目です。
それは太陽光の紫外線によるものも大きいですが、塗装の色抜けやクリア層の劣化を招いて、樹脂カウルの場合は素材まで劣化します。
さらに憂慮されるのはエンジン表面の腐食です。未塗装アルミ地エンジンの場合、クリアの下からサビが発生してきて、エンジンの見た目が著しく悪化します。
このサビを落とすために研磨すると、その部分だけ光って目立ってしまうので、もしサビの痕跡を完全に消すならエンジンを分解してすべての部品にサンドブラストをかけるというようなレストアに近い作業が必要となるので、とても現実的ではありません。
その他にも金属部品はマフラーからスタンドからハンドルから何から何まで雨で腐食していきます。
また、シートの美観も損なわれます。劣化が進めば表皮が硬化しますし、表皮表面のシボと呼ばれる細かな溝にカビが生えて染みになったりすることもあります。この染みを落とすのは至難の業です。
雨ざらしでバイクは死なず!でも、死に向かってハイスピードに劣化進行する……
ここで挙げた以外にも雨ざらし保管によるダメージは多々あります。
つまり、常に雨にさらすような愛車ネグレクトを行うと、すぐには死なないのですが、バイクは足元がおぼつかず、神経の反応が鈍くなり、漏らしてはいけないものを漏らし、シミ・シワが増えて外見の劣化が著しくなるという、老いが加速していきます。
即時に死には至らないものの、まるで人間でいうところの、暴飲暴食・飲酒喫煙・睡眠不足に運動不足のストレス過多生活のような健康リスクとなって、死へ向かって一直線に進んでしまうことになるでしょう。
ただ、バイクは部品交換や修理で再び若さを取り戻すことが可能ではあります。
しかし、その場合お財布が死ぬことになるのを忘れてはなりません。
レポート/写真●丸山淳大 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実