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WMTCモードは導入から約10年!! 比較的新しい規格だった
バイクやクルマのカタログ、メーカー公式ウェブサイトに掲載されている「燃料消費率」の項目をみるとすべての国産車と多くの外国車では「定地燃費値」と「WMTCモード値」の2つが掲載されています。
国土交通省に届け出ている、いわゆる正規の燃費といえるのは「定地燃費値」です。こちらは文字通りに平たい道(舗装路)を、乗車定員がいっぱいに乗った状態で、一定速で走ったときの燃費になります。第一種原動機付自転車(いわゆる50cc)は制限速度の30km/hで測定しますが、それ以外は60km/hでの測定となります。
よく、スーパーカブについて「1Lのガソリンで105kmも走れるんだぜ」というのは、この「定地燃費値」によるものです。正規のデータですから、その表現自体に間違いはありませんが、一定速で平な道を走るという測定方法が現実に即していないのは、言うまでもありません。
そこで、より現実に近い燃費の参考になるようにと、国内の二輪4メーカーが自主的に掲載するように決めているのが「WMTCモード値」となります。
WMTCモード値がカタログに記載されるようになったのは2012年10月以降。つまり、2022年はWMTCモードの10周年というわけですが、どのような方法で計測しているのか、よく分かっていないというライダーもいるのではないでしょうか。
あらためてWMTCモードの生まれた背景や、測定方法について整理してみましょう。

WMTCモードは「世界基準の排ガス試験」
国内二輪4メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)も加入している自動車工業会の説明よると、『WMTCモードとは、国連自動車基準調和世界フォーラム(UN/ECE/WP29)にて作成されたGTR(グローバル・テクニカル・レギュレーション=世界統一基準)』にもとづいた排ガス測定法のことです。
世界統一した排ガス試験の手法を決めることで、世界共通の環境仕様とすることができ、厳しくなる一方の排ガス規制への対応を一本化するのが狙いといえます。
その策定活動が始まったのは2000年で、日本、北米、ヨーロッパ、中国、インドにおいて走行実態の調査がされ、そこから測定モードの走らせ方が導かれました。WMTCというのはWorldwide-harmonized Motorcycle Test Cycleの略称ですが、まさに世界がハーモナイズ(調和)した測定方法というわけです。
また、近年の燃費測定モードでは常識的ですが、燃料消費量を計測するのではなく、排ガス試験結果のうち、一酸化炭素、二酸化炭素、ハイドロカーボン(炭化水素)それぞれの排出量に係数をかけて計算することで導き出すという手法が採られています。
最高速度や排気量を基準に分かれる5つの測り方
世界共通の統一された測定モードですが、WMTCモードは大きく分けて3クラス、細かくいうと5つの測定モードを持っています。それは二輪の特性上、排気量による性能差、とくに最高速度の違いが大きいからです。
そこで最高速度や排気量を基準に、次のようにクラス分類がされています。

具体的な測定モードについては発表されている図版を見ていただくとして、クラス1は最高速度50km/hまでの範囲で加減速する市街地モードのみで計測するようになっています。
クラス2になると、そこに郊外路モードが加わり、さらにクラス3では高速道路モードが足されるというイメージで捉えるとわかりやすいでしょう。
また、すべての計測モードにおいて実際に公道走行をする際に起こる、信号待ちによる発進停止や、交通状況に応じた加速、減速を想定し、頻繁に加減速を行いながら計測しています。
ちなみに、WMTCモードは基本的に1名乗車を想定した負荷での計測となります。
ですから原付二種など排気量の小さいモデルでは2名乗車で計測する定地燃費とWMTCモード燃費の数値を比べると、後者のほうが優秀なケースも出てきます。
たとえば、2022年で販売終了となるカワサキの原付二種バイクZ125PROのカタログをみると、定地燃費は50.0km/Lですが、WMTCモード燃費(クラス1)は56.0km/Lとなっていたりするのです。
もっとも、二人乗りできる小排気量車だと影響が大きいわけで、一般にはWMTCモード燃費は定地燃費の7掛けくらいのイメージになります。
軽二輪クラスの例を挙げると、ヤマハ YZF-R25の場合で定地燃費が37.5km/L、WMTCモード燃費(クラス3-2)は25.8kmLという具合です。
WMTCモードがクラス2-1となるスズキ ジクサー150の燃費は、定地燃費が55.3km/L、WMTCモード燃費が51.0km/Lと近い数字になっているのは、やはり定地走行では2名乗車、WMTCモードでは1名乗車という乗車定員負荷の影響が、小排気量車ゆえに大きく出ているからと考えられます。
原付一種の場合は乗車定員が1名なので、定地燃費もWMTCモード燃費もひとり乗りで計測することになり、定地燃費を2人乗りで計測する原付二種(いわゆる125cc)と比べると、同じような車格でも定地燃費が段違いに良く出てしまいます。
例えば、ホンダ スーパーカブ50の場合、定地燃費が105.0km/Lに対して、WMTCモード燃費(クラス1)は69.4km/Lと大きな差がありますが、スーパーカブ110の場合には、定地燃費が62.0km/Lに対して、WMTCモード燃費(クラス1)は67.40km/Lと、その差は小さなものになっています。



WMTCモード燃費は実燃費の参考になるのか?
では、現実に即した数値を表記するという鳴り物入りで導入されたWMTCモード燃費は、どれほど実態に近いのでしょうか。
燃費については、乗り方やルートといった個人差が大きいので一般論にするのは非常に難しいのですが、筆者の経験でいうとWMTCモード燃費の数値はそれなりに実燃費の参考になると感じます。
上記で、原付二種の例として挙げたZ125 PROで多少は燃費を意識しながら満タン法で燃費計測してみたところ約42km/Lという結果になりました。カタログ燃費の達成率75%というのは、四輪のカタログ燃費においてもよく言われる「目安」となる数値です。
さらにいえば、WMTCモードというのは、前述したようにかなり加減速をしていますから、排気量に余裕があって低回転で高速道路を巡行できるような大型バイクであれば、WMTCモード超えの実燃費を出すこともけっして難しくはないでしょう。
その意味では定地燃費のように、通常の使用ではほとんど到達することのできない「不可能な」数字ではなく、ある程度参考になるのがWMTCモード燃費といえそうです。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/ヤマハ/カワサキ