コラム

「カタナ狩り」「ナナハンキラー」「中免」昭和生まれライダーが懐かしさに涙するバイク用語5選

時代と共に言葉は変化していきますし、新しい言葉は生まれるのと反対に、使われなくなった言葉も出てきます。ここでは1960年代生まれの筆者が、かつてはよく使ったはずなのに、最近とんと耳にしなくなった懐かしいバイク用語を振り返りたいと思います。

エンジンが止まっちゃう「エンコ」

まず、現在50代の筆者でもあまり使った記憶がなく、主に上の世代の諸先輩が使っていた言葉が「エンコ」です。エンジンが止まってしまった状態を示すものです。

現在でも、クラッチ操作を失敗するなどしてエンジンを止めてしまうと「エンストした」などと言いますが、「エンコ」が主に示すのはそうしたミスによるエンジン停止ではなく、故障によってエンジンが動かなくなってしまった状態です。燃料がなくなった場合は「ガス欠」という言葉を使いますから、「エンコした」といえばエンジンが故障したという意味です。

その語源は、「エンジン故障」を縮めたという説と、「座る」の幼児言葉で、ぐずった幼児などが動かなくなることを示す「えんこ」に由来するという説がありますが、いずれにしてもエンジンの故障が頻発していた時代だからこそよく耳にした言葉といえるでしょう。

技術の進歩によりめったにエンジンが壊れることがなくなった現在では、そもそも使う機会が少なくなり、結果として死語状態となったといえるのではないでしょうか。

RZ350が当時の国内最高排気量750ccを追う「ナナハンキラー」

そんな「エンコ」という言葉が現役バリバリだった1980年代にヤングライダーが憧れた、とあるモデルの枕詞として使われたのが「ナナハンキラー」という言葉です。

当時、国内で正規販売される二輪の最大排気量は750ccに制限されていたこともあり、750ccのエンジンを積んだバイクのことを、敬意を込めて「ナナハン」と呼んでいました。ナナハンキラーというのは、そうした最高峰バイクを抜かしてしまうほどのポテンシャルを期待させる言葉の響きを持っていました。

そして「ナナハンキラー」と呼ばれたモデルこそ、ヤマハ スポーツRZ350でした。名前の通り、総排気量347ccの2ストローク水冷並列2気筒エンジンを積んだモデルで、1981年にデビューしています。その最高出力は45馬力となっていました。

1984年にはフルカウルを装備したヤマハ RZ350RRへと進化、そのエンジンは55馬力にまでパワーアップします。このパワースペック自体は、当時のナナハンモデルに届くものではなかったのですが、軽量なボディや2サイクルエンジンならではの爆発的な加速力が「ナナハン」さえも追い抜けるのではないかという期待感を当時のヤングライダー達に抱かせ、「ナナハンキラー」という称号を得るにふさわしいとされたのです。

1969年に発売されたホンダ ドリーム CB750FOUR。1970年代「ナナハンブーム」を盛り上げた人気車のひとつ。エンジンは736ccの空冷4ストロークOHC並列4気筒で、最高出力67馬力、乾燥重量220kg。
1973年に発売されたカワサキ 750RS(通称Z2)。Z1の国内版と言える存在で、エンジンは746ccの空冷4ストロークDOHC並列4気筒。最高出力は69馬力、乾燥重量230kg。
1981年に発売されたヤマハ スポーツRZ350。「ナナハンキラー」の愛称で親しまれました。エンジンは347ccの水冷2ストローク並列2気筒で、最高出力は45馬力、乾燥重量162kg。

警察が違法改造車を「カタナ狩り」

そんな1980年代前半、多くのライダーが憧れた最新のナナハンモデルといえばスズキ GSX750S、いわゆる「カタナ」(国内仕様ではカタナの名が外されていました)です。現在も、そのヘリテージを受け継いだKATANAが新車ラインナップにありますが、初代カタナのスタイリングは非常にインパクトがあるものでした。

ただし、前述した「国内向けモデルの排気量上限は750cc」という規制は、カタナ本来のパフォーマンスを制限するものでした。欧州向けとしては1100ccエンジンを積んでいたところが750ccとなり、さらに本来はセパレートハンドル(セパハン)やメーターカウルを前提としていたデザインにも関わらず、当時の日本国内の保安基準に適合しなかったために、国内仕様はアップハンドル(アップハン)のカウルなしとされてしまったのです。

国内仕様に装備されたアップハンはいかにも後付け的でスタイリングにマッチしていなかったため、一部のライダーからは「耕運機みたい」と笑われていました。そこで多くのカタナのオーナーは欧州仕様と同じくセパハンに「戻す」のですが、そもそも当時の保安基準ではNGだったためにセパハンがアップハンに変更されたので、セパハンに「戻す」のも当然違法改造となります。そうしたカタナ特有の違法改造を取り締まる警察の行為を、豊臣秀吉が武士以外から刀剣を取り上げた「刀狩」になぞらえて「カタナ狩り」と呼んだのです。

1982年に発売されたスズキ GSX750S。1981年に欧米向けに発売されたGSX 1100S KATANAと比べると「KATANA」の名が外され、スポイラーやスクリーンはなく、アップハンドルとされていました。
1981年に輸出専用車として発売されたスズキ GSX 1100S KATANA。ただし逆輸入車として国内でもそれなりの数が流通しました。
国内仕様のGSX750Sにはアップハンドルが装着されていましたが、欧米版であるGSX 1100S KATANAのハンドルは写真のようにセパレートハンドルでした。
日本刀をモチーフにしたカタナのデザインスケッチ。実車では高速域での風圧を低減すべくスクリーンが追加され、シート形状も変更するなどの修正が加えられました。
カタナのデザインはドイツのターゲットデザイン社によるもの。1980年にドイツで行われたモーターサイクルショー「ケルンショー」で発表されて大反響を呼び、「ケルンの衝撃」といわれました。
現行型のKATANA。歴代「カタナ」のデザインコンセプトを受け継ぎながらも、電子制御システムやトラクションコントロールシステムなどの最新機能を備え、価格は160万6000円となっています。

厳しかった「限定解除」と現在で言う普通自動二輪免許「中免」

ところで、1980年代にナナハンのバイクが神格化されたのは、いまでいう大型二輪に乗ることが非常に難しく、大型二輪に乗れることがライダーにとってステイタスだったからです。

その理由が「限定解除」の難しさにありました。大型車に乗るライダーの暴走などを受けて1975年に運転免許のルールが改正され、教習所で取得できる自動二輪免許は「中型限定」が上限となり、400cc以下のバイクまでしか乗れなくなったのです。

そして大型二輪に乗るための「限定解除」は、いまの免許センターで行われる警察による一発試験に通る必要がありました。非常に低い合格率で、限定解除しているライダーは少数派だったのです。

その後、海外メーカーの意向を踏まえた外圧もあって教習所(自動車学校)で大型二輪免許が取得できるようになってからは「限定解除」という言葉に、当時のステイタスを感じることは減っています。現在ではAT限定免許からMTも乗れるようになったときに使うくらいでしょうか。

そして、同時期には中型限定自動二輪免許のことは「中免」と呼ばれていました。今でも400cc以下しか乗れないライダーのことを中免ライダーなどと呼んだりすることもあるようですが、かつての中型限定自動二輪免許は「普通自動二輪免許」となっていますから「中免」と呼ぶのは不適切でしょう。

ちなみに、中型限定自動二輪免許でナナハンバイクに乗るのは「条件違反」でしたが、現在の普通自動二輪免許で大型二輪を運転してしまうと「無免許運転」となり、免許取消となってしまいます。乗れるバイクは同等でも、中型限定自動二輪免許と普通自動二輪免許はまったく異なる免許といえますし、普通自動二輪免許所持者が大型自動二輪免許を取得するのは「限定解除」と呼ぶのはふさわしくないのです。

1974年発売のホンダ ドリームCB400FOUR。排気量が408ccだったため、「ヨンヒャク」でありながら、発売翌年1975年からは排気量制限のない「自動二輪免許」(今で言う「大型二輪」)でないと乗れない車両となってしまいました。発売当時の価格は32万7000円。
1975年の免許法改正に合わせ、1976年に排気量を398ccとした「CB400 FOUR-I」と「CB400 FOUR-II」が発売されました。写真はCB400FOUR−I。IとIIはハンドル形状が異なります。発売当時の価格はIとIIとも32万7000円。

レポート●山本晋也 写真●ホンダ/スズキ/ヤマハ/八重洲出版 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実

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