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V型4気筒エンジンとは
世界の自動車業界は電動化に進んでいるが、まだまだクルマやバイクを走らせるパワートレインの主役はエンジンだ。
量産エンジンの多くはシリンダー内でピストンが往復するレシプロであり、シリンダーの数や配置によって並列(および直列)、V型、水平対向など分類される。もちろん、小型バイクにおいては単気筒も主流となっている。
当記事では、その中で「V4」ことV型4気筒エンジンに注目してみよう。
二輪用としては2気筒ごとにクランクシャフトを持つ2軸式V型エンジンも存在するが、一般的なV4エンジンというのは、4気筒ぶんのコンロッドが1本のクランクシャフトにつながっている構造で、シリンダーが互い違いに並んだレイアウトになっていることを示す。
典型的なV4エンジンにおいては2気筒を一組として片バンクと位置づけ、それを90度の角度でつないだ形状となっているが、直列4気筒エンジンのシリンダーを交互にオフセットして配置することでエンジン全長を短くする「狭角」というV4エンジンも存在する。
ちなみに、オーソドックスなV型エンジンの場合、4気筒と8気筒のバンク角は90度、6気筒と12気筒は60度、10気筒の場合は72度というのが振動バランスの点から基本となっている。
MotoGPマシンが「V4」を採用するワケ
さて、タイトルにあるように現在の四輪車ではV4エンジン搭載車は皆無といった状態だ。
一方、二輪ではMotoGPのワークスマシンでもホンダとドゥカティ、アプリリアがV4エンジンを採用するなど、パフォーマンスを重視した場合に選択されるエンジン形式となっている。
レーシングエンジンとして考えたときのメリットは、レイアウトの自由度とトラクション性能にある。
同じ4気筒エンジンで比べた場合、並列よりV型のほうが幅を狭くできるため車体をコンパクトかつ低重心にしやすいというのがパッケージにおけるメリットとなる。
ただし、ヘッド周りが2つに分かれることからカムを駆動する歯車やベルトなどの数が増えてしまい、必ずしも軽量にできるとは限らない。
編集部註:ただし、V4エンジンを搭載する際に泣き所となるのが車体レイアウトである。エンジン幅を抑えられるため車幅がコンパクトになるメリットはあるが(前面投影面積の縮小などに効く)、エンジン長は並列4気筒より長くなりパッケージングや重量配分などが大きな課題となる。また後ろバンク側の冷却が厳しいという問題もある。
さて、トラクション性能を高めるというのは4ストロークのV4エンジンは基本的に不等間隔燃焼になるからだ。
同じ4気筒でもオーソドックスな並列エンジンであれば燃焼間隔は一定となるため、並列エンジンと比べるとV4はトルクを感じやすい。
等間隔でトルクを発生するほうが、駆動の切れ目がないため速く走れるように思えるが、実際には不等間隔としたほうが「間」が生まれるためトラクション性能は高くなる。
実際、ヤマハがYZF-R1やMT-10の1000cc並列4気筒エンジンにクロスプレーン・クランクを採用しているのは、この間を生み出すための工夫といえる。
また、並列4気筒エンジンの場合、すべてのピストンが同時に停止する瞬間があるのに対して、V4ではどれかは必ず動いていることもあって高回転での伸びやかさにも有利と言われている。
もっともMotoGPにおいてヤマハとスズキは並列4気筒エンジンを採用していて、しっかりと結果を残していることからもわかるように「V4でなければ絶対勝負にならない」というほどの違いではないのも事実だ。
市販のV4エンジン搭載バイクは減っている
とはいえ、市販車においてV4エンジン搭載車は二輪においても少数派だ。MotoGPではV4を採用しているホンダにおいても、もはや量産ラインアップにおけるV4搭載モデルは「VFR800」シリーズだけとなっている。
これは国産バイクにおける唯一のV4エンジンでもある。
海外メーカーではドゥカティとアプリリアが1000ccクラスのスーパースポーツにV4を搭載しているが(ドゥカティ「パニガーレV4」シリーズ、アプリリア「RSV4」シリーズ)、どちらも市販車ベースのレース「スーパーバイク世界選手権」で戦闘力を得るための選択であり、MotoGPからの技術をフィードバックするというねらいもある。
また2社とも、V4スーパースポーツをベースとしたバリエーションモデルを生み出しているのも共通で、ドゥカティはネイキッドの「ストリートファイターV4」、アドベンチャーの「ムルティストラーダV4」、アプリリアは「トゥオーノV4」をラインアップしている。
新車で購入できるV4エンジンのバイク
ホンダ VFR800F
ホンダ VFR800X
ドゥカティ パニガーレV4 S
アプリリア RSV4ファクトリー
かつては400ccクラスでも見かけたV4がこのように減ってしまったのにはコストが主たる要因といえる。
エンジン幅がコンパクトになるとはいえ、カムシャフトが合計4本必要になるという点は市販車においてはコストアップ要因となってしまう。これは量産におけるV4エンジンのウィークポイントだ。
純粋なV4エンジン搭載四輪車は存在しない?
そして、V4エンジンがコスト高になってしまうということは、四輪車でほとんど見かけない大きな理由となっている。
4気筒エンジンを搭載する四輪車は、基本的に普及価格帯のモデルであり、コストが重視されるカテゴリーだからだ。
また、多くの乗用車においてFF(フロントエンジン・フロント駆動)が採用される現在において、FFと相性が良いフロント横置きエンジンでのパッケージを考えると、V4を採用するメリットはない。
居住スペースを考えると、1.5Lクラスでも1600~1700mm程度の車幅は必要であり、そうなると並列であっても余裕で収まる。さらにいえばV型よりもエンジンベイの前後長を短くしやすいためキャビンを広くすることが可能で、V型のメリットはほとんどないのだ。
とはいえ、かつてV4エンジンを搭載した四輪車がなかったわけではない。
有名どころでいえばイタリアのブランド・ランチアが採用していたV4エンジンだが、これはバンク角が12度前後となっており冒頭で記した狭角タイプのV型エンジンだ。その主たる狙いはエンジン全長を短くするためだ。
エンジンをフロントタイヤより前方に縦置きに搭載するFWD(前輪駆動)というパワートレインのパッケージを考えたときに、エンジンを短くするというのはメリットとなる。
1960年代にドイツ・フォードが生産していたV4エンジンも同様に縦置き&FWDを前提とした狭角エンジンで、直列4気筒を短くしたようなエンジンといえる。
一方、1970年代にイギリス・フォードで生産されたV4エンジンはバンク角が60度で、これはV6エンジンと基本設計を同じくしたモジュールユニットであることを示している。
このように四輪車においては「純粋に」V4エンジンとして量産された例はほとんどない。
唯一の例外といえるのが、旧ソ連で生まれたザポロジェッツZAZ965~968だ。このクルマはリヤエンジン・リヤ駆動となっており、ボディ後端にはバンク角90度の空冷V4エンジンが搭載されていた。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/ドゥカティ/アプリリア/八重洲出版 編集●上野茂岐
編集部註:一般に「直列エンジン」と呼ばれるものについて、当記事では縦置きエンジンを直列、横置きエンジンを並列と表記しています。