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アダム:2022年はマン島TTが開催されることに期待してるけど、そのときあなたのキャリアは有利に働く?それとも不利かな?
ジョン:いい質問だね。勝手な想像をすると、月曜日と火曜日に雨が降ってくれればいいかな。そうすれば水曜日と木曜日は僕のキャリアを生かせるチャンスがあるし、それで速いライダーたちを圧倒できれば完璧だ。でもそんな奇跡には期待できないだろうね。
というのは、数年前まで、国内選手権を走っていたライダーたちがTTコースを把握するには、それまでの経験から得たスキルをかなり修正していたはずなんだ。それには時間がかかったし、簡単なことではなかった。
でも最近のライダーは何をどうすればいいかを知っている。ヒッキー(*ピーター・ヒックマン。2014年TTデビューで5勝をあげ、2018年にはシニアTTで1時間43分08秒065の最速記録を樹立したTT最速ライダー)は3、4周も走ればすっかりとコース状況を把握してしまう。
TTデビューから間もなくて、最高位が10位あたりのライダーには難しいかもしれないけど、トップ10の常連たちは最初から130mphでラップするだろう。
(*1周60kmのコースを平均速度209km/hで走破する速さで、約17分で周回)
アダム:マイケル・ラッター(1994年TTデビューの48歳。TT勝利数7)やブルース・アンスティ(1996年TTデビューの51歳。TT勝利数12)のようなベテラン勢はどうだろう?アンスティは何年ものブランクがあるのに130mphのラップを記録している。
ジョン:ブルース・アンスティのDNAがあれば、誰でもスーパーマンになれるんじゃないかな。彼は魔法使いのような男だよ。ラッターはとても賢くて博識だし、レース経験も豊富だ。そのキャリアを存分に生かして常に上位を走っている。ジェイムス・ヒリアーも同じだよ。ハッチー(イアン・ハッチンソン)はすべてを知り尽くしているし、コース状況に合わせるのも巧みだ。ガリー・ジョンソン、マイケル・ダンロップ、ディーン・ハリソン。誰がトップ6に入ってもおかしくないライダーたちだ。
僕は49歳だし、転倒するときが来るかもしれないけど、それだけは避けたい。レースを続けていくことは非常にむずかしいね。それに今は2021年1月で、2022年6月に僕がどうなっているかに答えることもやはりむずかしいよ。今はまだトップレベルのTTライダーで、ブレイヒルを全速力で駆け下りる準備もできている。でもね……。
アダム:ショートサーキットだけで2年間レースしていたライダーたちが、ロードレース(公道)に戻るのはどれだけ大変なんだろう?
(*マン島TTなどに参戦するライダーたちが「ロード」ないしは「ロードレース」という場合は公道を用いたレースを指す)
ジョン:バイクはアップデートされるし、新型も登場するだろうから誰にも何もわからないよ。みんなが慎重に走り出すことを願うばかりだ。大きなプレッシャー、そして周囲の期待。今が苦境なぶん、みんなうきうきして飛び出していくだろうけど、それがいい結果を生むとは限らないからね。
アダム:君やブルース、ハッチーのようなライダーは、ショートサーキットからロードレースへと簡単に切り替えられるんだろうね。でもピーター・ヒックマンをはじめとするショートサーキットのトップライダーたちは、BSB(ブリティッシュスーパーバイク選手権)で3年間も激しいレースをしてきた。そんな彼らでも苦戦するのだろうか。
ジョン:僕にとってはそうあってほしいけど、彼らは勝利に貪欲だからそうはならないだろう。BSBで毎週走っていて、テストプログラムをきっちりとこなしていれば、すぐにTTに出られるよ。彼らにとってショートサーキットとロードレースでの修正はあまり必要ではないし、バイクの出来もいいからね。彼らが次のTTで最初の練習走行をするときにじっくりと観察したいと思ってるけど、みんなさっさと先へ行ってしまうだろうから、それも難しそうだね。
アダム:レースが中止になっている2年間で、コースが大きく変化することはあるのかな。2001年は口蹄疫蔓延のためにマン島TTが中止になったけど、そのときは何か変化はあった?
ジョン:とくに変わったことはなかった。僕は600ccでかっ飛ばしていたし、スーパーバイク選手権にも出てたから気にしたことはなかったね。2002年のレースではみんなかっ飛ばしてたよ。
アダム:2022年のマン島TTの全体的な見通しはどう?これまで以上に重要なものになる?それとも一部のライダーやチームがいなくなったりするかな?
ジョン:いやいや、それはない。今まで以上になるよ。TTには多くの人や企業が関わっている。僕のレース活動の中心はTTだし、それはデイビー・トッドもジェイムス・ヒリアーもダボ・ジョンソンも同じだ。
ライダーたちはTTに支えられているし、TTがなくなってしまえばスポンサーシップも価値も意欲も、すべてなくなってしまう。だから誰もが必死になってTTに出場しようとする。もしもTTがなくなったら、みんな途方に暮れてしまうよ。スーパーバイクでブレイヒルを全開で駆け下りることができるのは、世界でここだけなんだから。
アダム:実力あるチームだったり、あるいはトップ20以下のライダーが戻ってこないのではないか。僕はそんな心配をしているけど、それは杞憂かな?
ジョン:ファクトリーチームはその前からすでにいないよ。今やTTの主力は、シリコンエンジニアリング(カワサキ)、パジェッツ(ホンダ)のような、技術力も資金も、そして優秀な人材もいて実力あるプライベーターだ。ボーンマスカワサキもそうだよ。
アダム:ところで君が最後にマン島へ行ったのはいつ?こんなに長い間、マン島へ行かないなんてことはあったのかな。
ジョン:2019年のクラシックTT(マン島TTの後、8月下旬に開催されるクラシックバイクのレース)が最後だよ。初めてマン島へ行ったのは1982年で、僕は10歳。父が連れていってくれたんだ。それからは毎年マン島へ行っているし、多いときは年に2度、いや4度はマン島へ行く生活だった。だからさびしいよ。
マン島の人たちや友達と会えないこと、彼らとレースの話をすることすべてが恋しい。これ以上予期せぬ出来事が起きないといいな。
アダム:TTはマン島にとって重要だからやめることはないだろうけど……。
ジョン:安全と衛生管理がしっかりと施行されることを願ってるよ。
アダム:今年、クラシックTTが開催されたら、君は出場するのかな?
(*インタビューが行われた段階では開催予定だったが、2021年3月10日にマン島政府は中止を発表した)
ジョン:そうだね。パトン(500cc2気筒エンジンを搭載する、1950〜1960年代に活躍したイタリアのレーシングマシン)を持ってるし、カワサキの旧車も考えてるよ。僕にとってもスポンサーにとってもプラス材料だ。マン島TTはプレッシャーが強いけど、クラシックTTは楽しいよ。
アダム:BSBと併催されるドゥカティ・トリオプションズカップ(ドゥカティUKが主催するパニガーレV2のレース)には今年も出場するの?
ジョン:もちろん。感覚を研ぎ澄ませておくためにね。
アダム:いろいろ話してくれてありがとう。僕はそろそろ寝るよ。おっと、お辞儀をしなくちゃいけないかな、殿下(笑)。
ジョン:ああ、そうだな(笑)。話せてよかったよ、相棒。
ジョン・マクギネス選手のマン島TT優勝記録
マン島TTにおけるジョン・マクギネス選手はマン島TTで47回表彰台に上り、23回の優勝をあげ、2007年には同レースで史上初となる平均速度130mph(約209km/h)の記録を出した。
- 1999年 TT Lightweight 250優勝 (Vimto Honda)
- 2000年 TT Single優勝(Chrysalis AMDM 720)
- 2003年 Lightweight 400優勝(Honda)
- 2004年 Junior 600優勝(Yamaha YZF-R6)
- 2004年 Lightweight 400優勝(Honda)
- 2004年 Formular 1優勝(Yamaha YZF-R1)
- 2005年 Senior優勝(Yamaha YZF-R1)
- 2005年 Superbike優勝(Yamaha YZF-R1)
- 2006年 Senior優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2006年 Supersport優勝(Honda CBR600RR)
- 2006年 Superbike優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2007年 Senior優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2007年 Superbike優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2008年 Senior優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2009年 Superbike優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2011年 Senior優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2011年 Superbike優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2012年 Superstock優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2012年 Superbike優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2013年 Senior優勝(Honda CBR1000RR Fireblade)
- 2014年 TT Zero優勝(Mugen Shinden)
- 2015年 Senior優勝(Honda Fireblade)
- 2015年 TT Zero優勝(Mugen Shinden)
レポート●アダム・チャイルド まとめ●山下 剛
写真提供●アダム・チャイルド/山下 剛 編集●上野茂岐
追記8月30日:「パトン」の説明について、「カワサキ製650cc並列2気筒エンジンを搭載するイタリアのネオクラシックスポーツマシン」(現在のパトン)と記述していましたが、クラシックTTに出場できるのは「500cc2気筒エンジンを搭載する、1950〜1960年代に活躍したイタリアのレーシングマシン」でした。その点について修正を行いました。
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