コラム

電動バイクに暖機は必要? 映画『AKIRA』の「モーターのコイルが温まってきたところだぜ」は有り得るのか──。

AKIRA 金田のバイク

二輪の電動化は確実に進んでいく

カーボンニュートラル、ゼロエミッションといったカタカナ用語を見聞きする機会も増えている。実際、CO2に関して言えばモビリティからの排出量は多く、自動車メーカーの多くは2030~2040年の完全電動化を宣言している。

二輪においてトップシェアを誇るホンダも同様。少なくとも四輪製品については2040年までにエンジン搭載車はハイブリッドを含めてゼロになるというロードマップを示した。また2025年にはパワートレインユニット製造部(栃木県真岡市)が四輪車のエンジンやミッションの部品を生産終了すると発表している。

さすがに二輪についてはエンジンの完全廃止についてホンダは言及していないが、四輪のエンジン搭載車が消えていく未来に、今のような「ガソリンインフラ」が維持されていると考えるほうが不自然。二輪も自然淘汰的にガソリンエンジン車が消えていくと考えられる。

実際、現時点ではビジネスモデルに限定して電動バイクを展開しているホンダにしても近い将来にファン領域の電動バイク(イメージイラストによるとフルカウルタイプのようだ)をローンチすることがアナウンスされている。

2021年04月23日に社長就任会見を行った本田技研工業株式会社・代表取締役社長の三部敏宏氏。
本田技研工業株式会社・三部社長の就任会見で説明された「電動二輪車ラインアップ拡充」の図。ビジネスモデルのベンリィe:、ジャイロe:は発売済。「2024年までに3機種の新型EV投入」の中にはFUNモデルのシルエットが見えるほか、フルカウルモデルを予感させるシルエットも。

電動二輪といえば「金田のバイク」をイメージする人も多いのでは?

1988年に公開された映画『AKIRA』。作中の舞台と時を同じくする2020年にはドルビーシネマで劇場公開が行われたほか、35mmマスターポジフィルムの4Kスキャン、HDR化などを行った「AKIRA 4Kリマスターセット」が発売された。4K ULTRA HD Blu-ray、BD、特典ディスクBD、特製ブックレット、特製スリーブのセットで1万780円。©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

さて、電動バイクといえば『AKIRA』の世界を思い出すという二輪ファンも少なくないだろう。
2019年、東京オリンピックを翌年に控えたネオ・トーキョーを舞台にした大友克洋氏のコミックであり、アニメーション映画は伝説となっている。その作中で主人公といえる金田が駆る赤いバイクは「金田のバイク」として映画のアイコン的存在だった。

そして、作品内で「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」と言い放つ、印象的な赤いバイクは電動だった。
金田の名ゼリフ「やっとモーターのコイルが温まってきたところだぜ」をそらんじることができるという人も多いのではないだろうか。

主人公・金田正太郎のバイク。「乗りたいか、鉄雄。俺用に改良したバイクだ!ピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ」という台詞はあまりにも有名。作中の設定では、両輪駆動で200馬力ということになっている。©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会
2020年を舞台とした『AKIRA』の世界では電動バイクが当たり前の存在となっていた。©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

「熱減磁」モーターは熱を持つと性能が落ちる

とはいえ、このセリフには長らく間違いを指摘する声もある。
たしかに内燃機関は「暖機」をすることでその性能を引き出せるのだが、ことモーターに関しては温度が上がると性能が下がる傾向にある。
仮に金田のバイクが、現在主流の希土類磁石を使ったモーターを搭載しているとすれば、モーターの温度が上がると磁力が落ちてしまい、モーター自体の出力も低下するはずだからだ。

これを専門用語では「熱減磁」という。これから電動バイクが増えてくると、その対策が重要になるだろうから、憶えておいて損はない言葉だ。

電気自動車の日産 リーフ(写真はマイナーチェンジ前の2017年登場モデル)。車体底面にあるのはバッテリー。
日産 リーフのモーター。モーターは水冷式で、2017年登場モデルでは従来型より冷却効率のさらなる追求が行われた。

さらに一定以上の温度になると冷えても磁力は失われたままになってしまうほどで、永久磁石を使っているモーターにおいて温度管理は重要なのだ。
そこで多くの電気自動車(四輪)ではモーターは水冷となっていて、しっかりと冷却をするようになっている。

バッテリーやインバーターも適温がある

電動パワートレインにおいて温度管理が重要なのはモーターだけではない。
バッテリーやインバーターも、それぞれに適温がある。バッテリーは冷えすぎていても、温度が上がりすぎていてもNGで、適温を外れると出力は絞られるし、充電にかかる時間も長くなってしまう。

そのため、こうしたパーツも水冷とするのが電気自動車のトレンドだが、電動バイクではユニットの水冷化はスペースの関係もあって難しく、どうしても空冷にならざるを得ない。
そのあたりは電動バイクが増えてくると課題となるであろうし、ハイパフォーマンス系モデルでは水冷であることが高性能のキーワードとなってくるかもしれない。

そして、インホイールモーターというのはスペース的に水冷化が難しい。
一時期は未来のモビリティはインホイールモーターが主流になるというムードもあったが、こうした理由から高出力モーターが必要なモビリティではインホイールモーターの採用は難しく、低出力なモビリティ限定の技術となりつつあるのが現在のトレンドだ。

では、金田の「やっとモーターのコイルが温まってきたところだぜ」というセリフはSF考証担当や脚本家の誤解に基づくミスなのだろうか。
「コイルが暖まってきた」というのをインバーターやバッテリーなども含めた「システム全体」が適温になってきたと捉えれば、あながち間違いともいえない。

EVユーザーとしての経験から言うと潤滑油は暖めるが吉

そして日常的に電気自動車に乗っていると、コイルの温度は別として電動車両でも暖機が必要というのは感じる。

なぜなら、固定変速機の電気自動車であっても、いくつかの歯車を介してモーター出力をタイヤに伝えているわけで、その駆動系には潤滑油が使われている。
いわゆるミッションオイルが暖まってくるとシフトがスムースになるように、電気自動車でも駆動系のオイルが暖まるとスムースさが増すのだ。

特に冬場はそうしたフィーリングが実感できる。
拡大解釈になるかもしれないが、電気自動車オーナーとしては金田のセリフは完全に間違っているとは言い切れないのだ。

©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

レポート●山本晋也 画像&写真●バンダイナムコアーツ(©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会)/ホンダ/日産 編集●上野茂岐

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■『AKIRA』4Kリマスター特設サイト

http://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/

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