コラム

「ボクサーエンジンのヤマハ」が大空を飛ぶ!ヤマハ発動機が新型ドローンのコンセプトを披露

2021年6月14日〜16日、千葉県の幕張メッセで「Japan Drone 2021 -Expo for Commercial UAS Market-」が開催された。
このイベントは無人航空機の新技術や新制御、水中ドローンなどが展示、紹介されるもの。バイクでおなじみのヤマハ発動機はドローン用シリーズハイブリットコア コンセプトなどを始め、30年以上の歴史をもつ無人ヘリコプターを出展した。

ヤマハ発動機「ドローン用シリーズハイブリットコア コンセプト SHEV」

今回初公開となった「ドローン用シリーズハイブリットコア コンセプト SHEV」は内蔵する水平対向エンジンで発電機を回し、その電気でモーターを駆動するための電源ユニット。
大雑把に言えば、ドローンに搭載できるポータブル発電機といってもいいだろう。エンジンを動力源ではなく、発電用としてのみ使う四輪の「レンジエクステンダー」に似ているかもしれない。

ヤマハ発動機「ドローン用シリーズハイブリットコア コンセプト SHEV」。

ガソリンエンジンを使うこの方式のメリットは燃料補給が簡単で連続飛行に向いていることだ。
大型電池や複数の電池を用意しなくていいし、組み合わせる機体性能を考慮しなくてはいけないが、航続距離を伸ばすことや積載重量を増やすことも容易となる。ヤマハとしては「現時点では可能性の提案」という位置付けでこのユニットを出展していて、機体設計や制御系などのノウハウを持つメーカーと組んで、運用してもらうこと想定している。
ヤマハが得意とするエンジン技術をドローンの世界で活かしていきたいという考えだ。

ヤマハが製造する唯一の水平対向エンジン

エンジンはすでに実績のある無人ヘリコプターから流用で、このエンジンが地味にすごい。
船外機やマリンジェット、スノーモビルなど、バイクやクルマ以外にもそれぞれの用途に合わせたエンジンをヤマハは作っているが、無人ヘリに使われ、SHEVに搭載されているのは排気量390cc・水冷4ストロークOHV水平対向2気筒で、無人航空機用のオリジナルユニットだ。

ヤマハの航空機用水平対向エンジン。バランサーを使わなくても理論上2次以上の振動が相殺され、低振動であることがこのレイアウトの採用理由。前後長の短さなども利点だ。

ヤマハが製造する唯一の水平対向エンジンでもある。この形式が選ばれたのは振動、大きさ、マスの集中化などに有利という点からで、BMW、スバルなどボクサーエンジンを製造するメーカーがその始まりは航空機メーカーだったということに通じるといえよう。
アルミ鍛造ピストン、クランクケース一体型のメッキシリンダー、チタン製の排気系など、二輪でなじみの技術が惜しみなく投入されていて、バイク好きなら興味津々のユニットだ。

航空機用エンジンは回転数を一定にして使われるのが基本で、このユニットは6000回転付近で運用することを想定。OHV形式の動弁系も高回転時のバルブ追従性が不要でカムシャフト数が少なく、シリンダーヘッド周りがシンプルになることから採用している。
軽さ重視、使用回転数の割り切り、高度での空燃比の問題などが地上で使うものと空を飛ぶもののエンジンの考え方の違いで、軽さに関してもバイクのエンジンで培ったヤマハの鋳造技術が投入され、必要強度に合わせた薄肉化が図られている。

バイク好きとしてはヤマハ既存の車体、例えばSRにこのボクサーエンジンを載せたら面白そう、乗ってみたいと思ってしまうが、それは夢想が過ぎるというものか(笑)。

「ドローン用シリーズハイブリッドコア コンセプト SHEV」主要諸元

エンジン定格出力(発電電力):20.6kW(17.1kW)
使用燃料:レギュラーガソリン
ユニット重量:約70kg
供給電圧:300V
連続飛行時間:4hr
ペイロード(燃料+積載物):最大約25kg
※数値は現時点での想定値

機能があれば外観は問わないというのドローン市場らしいが、ブルーのパーツ色など、ヤマハ製であることがきちんとデザインされたコンセプトモデル。
排気系なども含めて、機体に積みやすいようにほぼ真四角に仕上げられている。発電機、エンジンなどヤマハが持つ既存の製品技術を組み合わせた。
側面にある角張った青い突起部分が水平対向エンジンのシリンダーヘッド。
燃料キャップは二輪用を流用。そもそもこの平らなリッドはエアプレーン式というくらいなので、本来の用途とも言えるだろう。

ヤマハ発動機「FAZER R G2」:多目的に使われる産業用無人ヘリコプター

ハイブリッドシステムコア システムのほか、ヤマハは産業用無人ヘリコプター「FAZER R G2」とマルチロータータイプの「YMR-08AP」をブースに展示。
バイクと同じ名称のFAZER(フェーザー)は1983年から開発が続くヤマハの内燃機搭載型無人ヘリの最新タイプだ。

白、青、赤に塗られた機体はYZR500などヤマハレーシングマシンを連想させる色使い。もちろんこれは飛行時の視認性を考えた配色で、テール部分を赤く塗るのは機体の向きがわかりやすいようにとのこと。

1983年の開発当初は農薬散布用として研究が始まり、操縦も無線送信機を持つ地上の人間に委ねられてきたが、姿勢制御装置や高精度GPSの搭載など、機体やシステムは代を重ねるごとに進化し、可視外のところでも運用できる自動飛行も可能になっていった。2000年の北海道・有珠山噴火のときは建設省の依頼で火口観測に使われるなど、無人ヘリの新たな可能性を示した。

また、2013年に始まった小笠原諸島・西之島で起きた海底火山の噴火、その後の陸地形成の際には依頼により専用の改造を施し、火山灰のサンプル採取、貴重な映像の撮影に成功。その観測映像はNHKスペシャルとして放送されたので覚えている人も多いだろう。現在は開発のきっかけであった農薬散布のほか、送電線の点検、物資の運搬、森林計測など多方面で活躍している。

無人航空機用に開発された390cc・水冷4サイクル水平対向エンジンを搭載。FAZERの基本モデルは2013年に登場。前モデル「R MAX」は246cc・水冷2サイクル水平対向エンジンを搭載していた。

「FAZER R G2」主要諸元

全長×全幅×全高:3665mx734mm×1226mm
メインローター径:3115mm
テールローター径:550m
総装備重量:81kg
エンジン形式:水冷4ストローク水平対向2気筒OHV2バルブ
総排気量:390cc
ボア・ストローク:66.0mm×57.0mm
最高出力:20.6kW/6000rpm
燃料種類/燃料タンク容量:レギュラーガソリン/12L
運用高度:2800m
積載重量:35kg/20℃、1気圧
最高速度:20m/s
上昇速度、下降速度:20m/s、3m/s
運用距離:30km
航続距離:90km
航続時間:100分

ヤマハ発動機「YMR-08AP」:農家を支えるマルチローター型ドローン

YMR-08APはFAZERとは違い電気を動力とするマルチローター型ドローン。
農薬散布性能に特化した機種で、エンジンに比較した場合の静粛性や、機体重量の軽さによる扱いやすさ、無人ヘリ同様の農薬散布品質(ムラのない散布)を狙った製品だ。

騒音に気を使わなければならない都市部に近い農地や、作付面積の少ない農家向けに造られていて、計測データに基づいたオートパイロット機能を備え、散布作業者の負担を軽減させている。
デザインのヤマハらしく、軽量、高剛性のカーボンモノコックボディはスタイリッシュに仕上げられ、内部電装パーツを冷却するためのダブルインテークは生き物の眼を想起させる。2018年グッドデザイン賞を授賞。日本の食糧自給を影で支える製品だ。

「産業用オートパイロットマルチローター YMR-08 AP」主要諸元

フライト時最大全幅:2161mm
フライト時最大全長:1923mm
全高:702mm
収納時最小全幅:1799mm
収納時最小全長:559mm(フレーム)/573mm(スキッド部)
ローター径:26インチ
ローター形式:ハイブリッドローター
ローター枚数:8枚
ローター配置:4×サイド二重反転
バッテリー定格容量:852Wh
バッテリー定格電圧:44.4V
バッテリーサイズ:L360m/W149mm/H166mm
パッテリーマネージメントシステム:HBMS-SL1
平均消費電力:2.95kW
最大離陸重量:27.0kg以下
フレーム型式:モノコックシェル
アーム収納形式:ストレート
メーカー希望小売価格 206万2500円
*機体、送信機、送信機用バッテリー、送信機用充電器、基地局モジュールを含む
【機体用バッテリー、充電器、充電ケーブル、測量モジュール、液剤散布装置などは別売】

レポート●飯田康博 写真●飯田康博/ヤマハ発動機 編集●上野茂岐

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