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■雨が降ればさっと雨具を取り出し、着用するのがベトナム流バイク乗りの心得。
ベトナムには雨期がある。それも集中豪雨に見舞われる。
東南アジアはクルマよりもバイクの方が多く走っているイメージがあり、ベトナムはまさにその典型だ。公共交通機関が未発達だから、生活の足にクルマは必須ではあるものの、高額だ。そのため多少安価なバイクが主流になる。仕事でも欠かせない。載せられる限りに巨大な荷物を積み込んで走る、アグレッシブな使い方が少なくない。
そんなバイク大国なのに、ベトナムは案外バイク乗りには優しくない環境にある。それは、雨だ。東南アジアは日本の春の終わりくらいから秋の半ばの時期が雨季になる。年間の半分が雨の季節というわけだ。
ただ、日本の梅雨のようにシトシトと延々降っているというわけではない。わりと集中豪雨になる。日本ではあまり見ないが、雨の境というのにもよく遭遇するほどだ。局地的で、極端にいえば、道路のこちら側は降っていないのに、向こう側は豪雨という感じである。

ベトナムのバイク乗りは、雨で濡れるのを極端に嫌う
これだけ雨がよく降る国であっても不思議なことに、ベトナム人は雨で体が濡れることを極端に嫌う傾向にある。そのため、バイク乗りはみな雨具を常備している。ヘルメットケースにヘルメットを入れず、雨具を入れていることもある。その場合、ヘルメットは被らないか、駐車中にはミラーにかけているだけなので、まるで雨具の方が大切なようにすら見える。
局地的な雨が一般的なので、つまり天気予報が当てにならないというよりは機能しないので、雨具は基本常備しているという具合だ。
そんなベトナム人が愛用する、バイク用の雨具とは主にカッパである。レインコート、レインウェアだ。もちろん日本のバイク乗りも防水ウェアやレインウェアを用意しているだろう。だがそれは大体、視認性の高い色合いで、上下が分かれているようなカッパではないか。

バイクカバーのような雨具……で、人も、大事なバイクも濡らさない!
ベトナムのカッパは違う。日本にもあるようなレインウェアもあって、それを愛用する人もいるが、中には日本にはない、というか日本なら完全に違法なカッパが存在する。それは、バイクも一緒に覆ってしまう雨具である。「なにをいっているの?」という声が聞こえてきそうだが、日本人の発想では絶対に出てこない商品なので、わかるわけがない。
簡単にいえば、駐車時に使用するバイクカバーをイメージしてほしい。座席の辺りの生地を人型に盛り上げ、そこに入り込んで運転する。そんな雨具なのだ。
日本人だとレインコートは人間を雨から守ると発想するが、ベトナム人は大切な愛車も一緒に雨から守ろうというわけである。クルマよりは安いとはいえ、平均月収から考えればバイクもそれなりの資産なので、大切にする人が多い。だからこそこんな製品が誕生したのかもしれない。
ちゃんとしたタイプだと、ライトの部分に透明の生地を当て、ちゃんと夜間でも使用できるようになっている。もっと発達したバージョンとしては、頭を出す部分が2つあって、タンデム仕様になっているタイプもある。

バイクカバー型は便利に使えて安価で合理的!……事故を考えなければだが。
これらが普及しているのは、あるいは普及しているからこそなのか、値段設定もまたある意味常識外れだ。というのは、たとえば普通の傘はベトナムではだいたい4万ドン前後(約230円)(1円≒174ドンで計算)、折り畳み傘は5万ドン(約290円)くらい、上下セパレートの一般的なレインウェアは6万~20万ドン(約345~1150円)くらいが相場のイメージだ。
一方、バイクカバー型のカッパは4万ドンから買え、やや高めでも10万ドンあたりが価格帯だ。傘と同じくらい、そしてレインウェアの半額くらいで買えてしまう。
しかも、バイクカバー型は実際、バイクカバーとしても利用しようと思えばできる。使用後にバイクにかけて干すことも可能なわけで、一石二鳥とはまさにこのことだ。
普通に考えると、転倒したときに生地とバイクに挟まって体を持っていかれそうな気がする。しかし、事故の確率と雨を防げるメリットを天秤にかけると、ベトナム人は雨天時の機能を採っているようだ。
とはいえ、親子の場合はそのカバー型カッパの中で小さな子どもが親にしがみついて乗っているは微笑ましい光景だし、ある意味「ホント合理的だな」と感じざるを得ない。

レポート&写真●高田胤臣
●高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住の現地ライター。1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。noteではタイにまつわる出来事を綴っている。今回のようにベトナム出張でレポートすることも。