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■道端でも安価なヘルメットが売られている。後頭部に……割れ目が見える。
ベトナムでもヘルメット装着は義務化されているが、低品質のものが多い
昭和後期のマンガでは堂々ノーヘルで原付を駆る主人公が描写されている。今でこそヘルメット装着は当たり前の日本でも、原付を含めたすべての二輪運転者に対して罰則ありの完全着用義務化になったのは1986年だ。まだ30年とちょっとしか歴史がない。
国の考え方や時代によって交通ルールは変わるもの。東南アジアは世帯収入がいまだ低いことや、そもそも日本や欧米とは違い高性能なヘルメットの製造技術がないことから、今もノーヘルや安価なヘルメットの着用が目立つ。日本人から人気が出始めている国ベトナムもそのひとつだ。
ベトナムでは日本から遅れること約20年、2007年12月にヘルメット着用が義務化された。ただ、筆者の感覚では、南部の都市ホーチミンだと2012年ごろまで、首都ハノイに至ってはここ数年まで着用率が90%超までは達していなかった。
着用していたとしても低性能のヘルメットが多い。ベトナムなど東南アジアで児童のヘルメット着用推進キャンペーンを行っているAIPアジア傷害予防基金は、2007年のベトナムにおけるヘルメット着用義務化当時、ベトナムのヘルメット市場の50~60%の製品が低品質と指摘していた。結局、「被ったところで……」という気持ちからか、なかなかベトナム人はヘルメットを着用する気にならなかったようだ。
そして、それは今も大きく変わらない。市中で見かけるベトナム人ライダーの90%以上はどう見ても低品質のヘルメットを使用している。最早、警察の取り締まりに遭わないために被っているだけで、まるで自身の身を守るつもりはなさそうである。
低価格のヘルメットを気軽に被る文化になってしまっている!?
先述のとおり、ベトナム・ブランドで高品質のメーカー品を見つけられず、高性能ヘルメットを求めるとなると地域的には日本・ブランドのヘルメットが最も入手しやすい。ただ、値段がかなり高い。
たとえばアライの『RX-7X』が日本では5.5万円前後で売られていたとすれば、ベトナムでは1700万ドン、つまり約10万円にもなる(1円≒170VNDで算出)。2020年の平均月収が423万ドン(約2.5万円)の国では高すぎる設定だ。
一般層が買える範囲で、そこそこの性能がありそうなヘルメットは23万~50万ドン(約1300~2950円)の価格帯になる。とはいえ、月収2.5万円からすればこれだって決して安くはない。
そのため、大半の人がとりあえず求めるのは13万ドン(約760円)くらいのヘルメットになってしまう。そうしてこういった低品質ヘルメットの需要の方が高くなり、結果、市場の大半を占めてしまうという悪循環に陥っている。
売価760円のヘルメットの原価はいくらなのか。とりあえず、いくらベトナムとはいえ、その価格でまともなヘルメットが作れるわけがない。中にはクッションになる発泡スチロールすら入ってなく、ただプラスチックでできた被り物を頭に載せるだけになるものすらある。
23万ドンからの価格帯だとフルフェイスやオープンフェイスなどもあるが、13万ドンのヘルメットはいわゆる半帽が主流だ。前につばがついているのでまるで野球帽のように被れ、商店街ではこれを被ったまま買い物をしていたりした。どこかにバイクを停めてバスに乗っている人を見かけるほどだ。
女性用ヘルメットにはうしろに割れ目がある
そんな安物ヘルメットにも、多少はデザイン性があったりする。色合いはもちろん、最近はビンテージ英国風の半帽や、やけに大きなシールドをつけたタイプもよく見かける。かなり前からあるデザインだが、女性向けのヘルメットだってある。すべてのヘルメットは男女兼用ではあるのだが、あるデザインだけは男性は被らないのだ。
それは、うしろが割れている半帽タイプのヘルメットだ。女性がポニーテールなどに髪をまとめたまま被れるように設計されている。東南アジアの女性は日本人女性ほどショートヘアーを好まず、多くがロング。そのため、そういった女性たちのため、ベトナムには髪を出せる女性用ヘルメットが存在するのである。
女性用バイク用品としては、日焼け防止のための全身を覆うスーツまである
ほかにも女性用のバイクグッズはいろいろとある。
現在は新型コロナウイルスでマスク着用が多くなっているが、ベトナムではずっと以前から、特にバイク乗りはマスクを着用していた。首都ハノイなどは排気ガスなどで空気があまりきれいとは言えない。
さらに、日射しも東南アジアなので強めである。ベトナムを始め東南アジア女性は日本人以上に美白肌を意識し、そして憧れる。中には医薬品に頼るなど、多少激しい方法でも徹底して白い肌を求める。そんな女性たちに向けたのが、薄手のスーツというか、ジャケットというか、上着である。
これもまた多種多様で、色や柄は無限にあり、かつ上着だけ、上着と下がセパレートになったもの、全身を覆うタイプの服などがある。上着だけの場合はほぼウインドブレーカーのようなもの。セパレートは上がウインドブレーカーで、下は巻きスカートになっている。全身タイプは、精密機械工場のクリーンルーム用の服を思わせるもので、つま先から頭までをすっぽりと覆う。
上着やセパレートならともかく、全身の場合は服の上にこれを着ていて、わざわざ乗降時に脱いだり着たりする。ツワモノはそのままの格好で日常生活を送るようである。
日本人からすると暑くて仕方がないようにも見えるし、見た目もいいものではないが、ベトナム人女性にとっては美のためには欠かせないアイテムなのである。排気ガスや紫外線からの防護のほか、転倒時にも多少は体を守ることもできるだろうから、ある意味では理にかなっているのかもしれない。ただ、男性目線では、「美のために見た目を捨てる」のは本末転倒のような気もするのだが。
レポート&写真●高田胤臣
- 高田 胤臣(たかだ たねおみ)
タイ在住の現地ライター。
1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。noteではタイにまつわる出来事を綴っている。