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「30年以上経てば」アラ還を前に、人間の性能は徐々に退行する……
話は再び映画の主人公マーヴェリック=トム・クルーズのことに戻る。1962年生まれの彼は、1作目の1986年は気力も体力も充実の24歳だったが、今年(2022年)ちょうど60歳。ただしトムさん、元々大の車・バイク好きで、スタントマンを極力立てずにアクションをこなすという。
別の映画『ミッションインポッシブル』シリーズでのバイクアクションも有名だが、『トップガン・マーヴェリック』ではニンジャH2カーボンで滑走路を派手に疾走するシーンも見せた。また、他にも共演者ともども実際の戦闘機後部に乗り、曲芸的な飛行での身体にかかる強烈なGを実感しつつ作品に臨んだとか。
そういう意味ではトムさん、並の還暦オヤジじゃなく、バイクの腕前も人並みの遥か上だろう(当然、トレーニングだって欠かしていないはず)。だが、たとえ彼の腕前と体力でも、36年前と同じように操れるかどうかは怪しい。ABSやトラクションコントロールといった電子制御技術が入り、30年前より安全性が進化してもである。
その一つにして重要なものが、認知に重要な役割を果たす動体視力と視野角ではなかろうか。運転の基本な流れは認知し判断し、操作することだが、その最初の関門が視る力。視力検査で測るのが静止視力なのに対し、動体視力は文字通り動くものを視認する能力だが、20歳前後のピークに0.8前後あったものが40代から急激に低下し、平均的な70歳以上では0.1前後まで低下するとも言われる。
そして、広角にものを視る能力の視野角も衰える。一般成人のそれが約200度なのに対して、高齢者では約160度まで狭まり、加えて視野角では見えていても意識が行き届かない……いわば周辺視野が認識しづらくなるのだという。体力の維持や強化に対し、この視る能力が一番鍛えにくいと、きっとトムさんも感じているだろうし、市井の中高年ライダーは尚更実感しているはず。
もし実感がないというなら要注意かもしれない。昔取った杵柄で、今の高性能スポーツ車を走らせている時、そのシャープな運動性能に、本当に自分の視野が追っついて操作しているかどうか、そこが怖いところなのだ。
というわけで、映画『トップガン』とバイクの進化の36年の間に横たわるのは、実は乗り手の問題という側面も……。56歳の一般ライダーである筆者を含め、今一度その辺りも意識しつつ、マーヴェリック宜しくスマートに流していきたいものである。
レポート●阪本一史 写真●カワサキ 編集●上野茂岐
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