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■写真説明:右がレギュラーガソリン(赤ガス)で、赤い着色。左がコールマンのホワイトガソリン(白ガス)で、薄く青い着色(青ガスと呼ぶ人もいる)。ガソリンはもともとは無色透明なため、混入されないよう着色で分けられている。ちなみにディーゼル用の軽油は黄色い着色だ。
白ガス=ホワイトガソリンの存在を知らない人も多いかも
自動車用ガソリン(レギュラー&ハイオク)を別名「赤ガス」と呼ぶのを知っていても、キャンプをしない人の多くは「白ガス」と呼ばれるホワイトガソリンというものの存在自体を知らないかもしれない。
レギュラーガソリンが赤く着色されているのはホワイトガソリンなど他の燃料との差別化のためなのだが(ちなみにキャンプ用品の有名メーカー、コールマンのホワイトガソリンには薄いブルーの着色が施されている)……まず、そもそもホワイトガソリンって何?何に使うもの?という話から。
白ガスは特殊なものではなく、洗浄作業に利用
日本では個人で機械のメンテナンスをする人はあまり多くないが、最寄りの農耕器具のディーラーやカーディーラーまで100km以上離れているのが当たり前のアメリカやヨーロッパの田舎では、機械のメンテナンスはほとんど自分で行ない、グリースがベッタリ付いた歯車の洗浄や、パーツの組み直しには、錆止めを兼ねてホワイトガソリンで洗浄するのがセオリーとなっている。
そのため田舎のガソリンスタンドではレギュラーガソリンと同じようにホワイトガソリンを普通に売っている。価格もレギュラーガソリンと同じ程度だ。欧米ではホワイトガソリンはなくてはならない存在であり、日本とは違って生活の中に当たり前にあるもののひとつなのだ。
アメリカでは白ガスとレギュラーは同程度の価格
とは言え2022年7月現在のアメリカのガソリンの平均価格はリッター170円となっていて、日本とほとんど変わらない。アメリカでは現在、ニューヨーク、サンフランシスコ、サンディエゴの順に物価が高く、先日サンディエゴから帰ってきていた友人の話では1Lが日本円換算で200円以上とのことで、ニューヨークでは250円近いと言っていた。日本のガソリン価格の比ではない状態といえる。これでは大排気量のアメ車ではなく、燃費の良い日本のハイブリッド車が売れるワケである!?
ホワイトガソリンの価格も同様に上がっているようだが、後述する日本でのホワイトガソリンの価格を聞くとビックリするに違いない。
話は少しそれるが、「男組」「傷追い人」「クライングフリーマン」で有名な小池一夫原作、池上遼一作画の1973年からの漫画「I・飢男(アイウエオボーイ)」には、主人公、暮海猛夫がガソリンスタンドで「エンジンが止まるからホワイトガソリンを入れないでくれ」と言うシーンが出てきて、スタンドの給油機のノズルからで普通にホワイトガソリンが給油できることが描かれている。1970年代のはじめにアメリカ文化をここまでリアルに描く漫画があるのかと驚いたものだ。
白ガスにはオクタン価を上げる添加物などが入っていないから、エンジンには使えない
自動車用ガソリンとホワイトガソリンの違いはその精製度で、レギュラーガソリンやハイオクガソリン(プレミアムガソリン)にはオクタン価を上げるため様々な添加物が入っているが、ホワイトガソリンはその逆で添加物をできる限り除去してある。
そのためホワイトガソリンは劣化(ガム化)しにくいが、クルマやバイクの燃料として使うことはできない。「I・飢男」のところでも書いたようにエンジンが止まってしまうのだ。言い方を変えれば、自動車の燃料としてではなく、洗浄剤としての需要が普通にある。自分の機械は自分でメンテナンスするのが当たり前という文化がある国なので、どちらも売られているわけだ。
添加物が入っていないということは、燃焼時にススも出にくいということで、アウトドア用品の燃料として使った場合はメンテナンスもしやすく、欧米の野外用ストーブ(バーナーとも呼ぶ調理用燃焼器具のこと。いわゆる暖房器具のことではない)やランタンに多用されている。有名なのはコールマンのツーバーナーストーブとランタンで、オートキャンプの定番品のひとつだ。山岳用のストーブではMSRやオプティマスなどにもホワイトガソリンを使うモデルが存在する。
白ガスは、売れないから置かれない。置かれないから売れない……そして高額
メンテナンスのしやすさもあるのだが、それよりも海外で作られたストーブ類にホワイトガソリン使用のものが多いことの大きな要因は、前述したように海外ではホワイトガソリンの価格がレギュラーガソリンと変わらないという点にあるだろう。
日本ではコールマンのホワイトガソリンが1ガロン(約3.8L)で約4000円。なんと1Lあたり1000円のガソリンである。いくらレギュラーガソリンの値段が上がったと言っても5倍以上だ。日本でも田舎のガソリンスタンドでは一斗缶(18L)でホワイトガソリンを扱っているところもあるが、それでも7500円以上の値段になっている。理由は販売量の少なさと管理の問題で、つまりはレギュラーガソリンと比べて圧倒的に売れない商品であるためだ。
日本ではホワイトガソリンよりも灯油の方がポピュラーな燃料だから、自衛隊の野外用炊飯器具の燃料は灯油だし、自衛隊の使うコールマンのランタンも灯油仕様になっている。日本でホワイトガソリン使用の機器が一般化しない理由は第一にこの価格の問題がある。ガスカートリッジ使用の道具に人が流れてしまっても仕方がないと言えるだろう。
アウトドア用品でも赤ガスを使用できる製品は……あるにはある
アウトドア用のストーブやランタンにはホワイトガソリン専用のモデルとレギュラーガソリンも使えるモデルの2種類があって、コールマンのストーブやランタンでレギュラーガソリンも使えるタイプは「アンレデッド(無鉛のこと。一般的にはレギュラーガソリンの意)」と呼ばれ、シルバーグレイの燃料タンクが目印だった(日本では廃番)。
コールマンの現行ストーブで唯一レギュラーガソリンが使えるモデルはシングルストーブのフェザーストーブだが、これも「非常時は使用可能」としていて常時の使用は推奨していない。やはり添加物によるジェネレーターの詰まりのためである。
またMSRの分離型シングルストーブ、ウィスパーライトにもレギュラーガソリンが使えるタイプ、ウィスパーライトインターナショナルが、新富士バーナーではSOTO/MUKAストーブ、オプティマスではNOVAが存在している。この話はまた別の機会に。
■「コールマン アンレデッドシリーズ」。コールマンのレギュラーガソリンも使える製品群。アンレデッドは無鉛つまりレギュラーガソリンのこと。ここに紹介したものだけでなく、シングルバーナーなどさまざまなモデルが存在した。小型のランタンは山岳用として開発されたもので、バイクで使うにもいいサイズ。僕のはバイクで揺られても割れないようにガラス製のホヤを同サイズの金属メッシュのものに交換してある。
赤ガスを入れたアウトドア用品は、燃料系が詰まったり、不完全燃焼だったり
では、実際にホワイトガソリン専用モデルでレギュラーガソリンを使うとどうなるか、というと、まずはススが出て鍋の底が真っ黒になる、完全燃焼しにくくなる(完全燃焼時の青い炎にならず赤い炎になることで分かる)、ジェネレーター、ノズル、フィルターが詰まりやすくなる、などの問題がある。
しかし、経験から言うと「絶対に使えない」ということではなく、短時間であれば使えるし、ホワイトガソリンに少々のレギュラーガソリンを混ぜても大きな問題はない。レギュラーガソリンを使ってしまった後はジェネレーターをガストーチなどであぶって、中のカーボンを焼き切るなどのメンテナンスを行なうといいだろう。
レポート●鈴木アキラ 写真●鈴木アキラ/モーサイ編集部