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数で言えば「多数派=キャスト、少数派スポーク」
新型スーパーカブ110シリーズが、キャストホイールを装備して話題となったのはつい最近のこと。同時にチューブレスタイヤとなり、パンク修理も楽になった。
タイヤの縁(ビード部)をリムから外し、中のチューブを引っ張り出して補修するのは確かに面倒ではある。けれど「カブにはスポークホイールが似合っていたよなぁ」とも「カブ程度の細さならタイヤチューブを外すのもさほど面倒でもないけど」とも思う。
とはいえ、バイクのキャストホイール化&チューブレスタイヤ化は今後も進むだろう。前述のパンク修理や通常使用での耐久性も含めて、手間がかからないからだ。そして、生産効率やコスト面でも、今日キャストホイールの優位性は高まってきたのではなかろうか。
ただし、現在買える新車(2022年時点)にもスポークホイール採用車は存在する。
一つは昔ながらの雰囲気を演出したネオクラシック系ロードモデル(例:カワサキ W800シリーズなど)、もう一つはオンオフ系やアドベンチャー系モデル(例:ホンダのCRF250やCRF1100Lアフリカツインシリーズなど)だ。
前車は車両のデザインにスポークホイールが似合っているからの採用。
後車はダート路面の通過などでスポークホイールの柔軟な衝撃吸収性にメリットがあるからの採用。現にモトクロッサーやエンデューロ、トライアルの競技モデルはほぼすべてスポークホイールだ。
つまり、キャストホイール採用車が増加中とはいえ、スポーク車が完全に消滅することは当分ないはずだ。
ちなみに、当記事で言うスポークホイールとは、ホイールリムと金属のワイヤースポークを組み合わせたホイールのこと。一方「キャストホイール」は、便宜上リムとスポーク部が一体となったホイールを総称して使うことをあらかじめお断りしておく。
というのも、厳密に言えばキャスト(CAST)は鋳造の意味で、鋳型に流し込んだ金属を成型したもの。一部高級車や高性能車に鍛造(FORGED=圧縮したり叩いたりして強度を高めて成型した金属)ホイールも存在するが、ここでは鋳造・鍛造ホイール含めて、キャストホイール(=一体成型ホイール)として紹介させていただく。
■キャストホイール+チューブレスタイヤ採用で話題となった2022年型のスーパーカブ110/クロスカブ110。同時にフロントのディスクブレーキ化+ABS装着により、安全性も磨かれた同車は、エンジンの進化も含めて評判は上々のようだ。
■ネオクラシックモデルのカワサキ W800は、昔ながらの雰囲気も重視してチューブ入りスポークホイールを装着する代表的機種。進化型のチューブレススポークホイールを採用しないのは、オーソドックスな組み方のスポークホイールがクラシックなイメージに合うからだろう。
70年代後半に生まれたキャストホイール
市販車にキャストホイールが採用され始めたのは、国産車では1970年代後半のことだが、当初は一部の輸出向け大排気量車のみに採用された。
カワサキ Z1300、スズキ GS1000、ヤマハ XS1100などがその代表例だが、いずれも1978~1979年にかけて登場した。国内ナンバーワンメーカーのホンダだけは、この時期キャストホイールではなく、リムと金属製のスポークプレートをリベットで止める独自構造のコムスターホイールを主力のオンロード車に採用(これについては機会があれば紹介したい)。
ともあれ初期のキャストホイールは高出力な重量級モデルにしか使われなかった。理由は、以下のような感じだろうか。
●高出力モデルへの採用のため十分な剛性が必要。ただし、量産品の安全面でのノウハウは当時発展途上だった。
●そのため、安全マージンを多めに取った結果としてホイールは重くなる。従来のスポークホイールのほうが、軽さで有利だった。
●相応に製造コストがかかるので、値を張れる高級車にしか使えない。
●当時2輪用タイヤでチューブレス仕様は存在せず、キャストホイールでもチューブ入りだった。しかも黎明期のキャストホイール自体、エアの密閉性に不安点があったとも想像する。つまり、キャスト=チューブレスタイヤ採用というメリットがまだなかった。
ただし、登場から40年以上を経てキャストホイールは進化し、上記の課題はクリア。
オンロードモデルに関して、キャストホイールの短所はほぼないだろう。そして性能面はもちろん、コスト面(一部高級鍛造品は例外)や重量面(タイヤやリムの太さにもよるが)、製品の工作精度でも、スポークホイールに対して劣る面はないだろう。
あとはクラシックな雰囲気の車体に似合うか否かの問題だ。W800などはそうした理由でスポーク仕様だし、ハーレーダビッドソンや国産のクラシックな雰囲気のクルーザーでもスポークホイールを採用した例は多かった。
■黎明期のキャストホイールを採用した一例がカワサキZ1300(1978年発表)。当時の国産車最大排気量車で水冷並列6気筒の搭載でも話題を集めたが、輸出専用モデル。高重量&高出力への対応として、カワサキではZ1-Rとともに初のキャストホイール装着車となったが、タイヤはチューブ入りだった。
■なお、国産車でチューブレスタイヤを初採用したのは1977年12月発売のホンダ ウイングGL500。ただし、同車のホイールはキャストではなく、ホンダ独自のコムスターホイールだった。当時のレーシングマシンRCB1000からのフィードバックで、アルミ製中空リムと高張力鋼板スポークプレートで構成される組み立て式ホイールだった。
スポークホイールはチューブレスタイヤ対応の進化版もある
では、モデル数的に劣勢のスポークホイールはどうかというと、コチラも実は進化しており、チューブレスタイヤが履けるスポークホイールが登場している。
BMW R1250GS、ホンダのCRF1100LアフリカツインやX-ADV、スズキ Vストローム1050と650のXTシリーズなどがそれに当たり、ホイールリム両側外縁にスポークを引っ掛ける「クロススポーク」というタイプだ。
もう一つ、セロー225WEや同250の後輪用チューブレス用スポークホイールは、リムの内周にリブを設けてそこにスポークを引っ掛けるタイプだった。
セローの例にせよ、クロススポークにせよ、スポークがリムへ貫通するためにタイヤのエアを密閉できないスポークホイールのネガを解消することで進化した構造と言える。
また一般的なスポークホイールの場合でも、パンク時に急激なエア抜けを抑止するパンク防止用充填剤を入れておく対策もある。ほかにも、リム内側のスポーク貫通面に特殊なテープを貼り付けてエアを密閉し、チューブレスタイヤを履けるようにするチューブレス化キットも存在する。完全にエア漏れを止めて使うには、相応の技量が必要とも言われるようだが……。
■チューブレス対応のスポークホイールを採用するのがBMW R1250GSやホンダ CRF1100Lアフリカツインなど。オン/オフ両路面での快適性、走破性も含めて採用された進化型のスポークホイールだが、難点はホイールの洗車のしづらさ。スポークがリムの両外縁に張り出すため、車輪を回転させてリム面を磨くことが困難。なお、BMW R1250GSにはキャストホイール仕様も存在する。
心配はパンク修理!?「キャスト、スポークそれぞれの対処法」
となると、一般的なチューブ入りスポークホイールで一番気になる点は、パンク時の手間ということになる。先にも記したように、チューブを引き出す(場合によっては車輪自体を外す)、エア漏れ箇所を見つけて漏れ止めのパッチを張って元に戻す。
こうしたパンク時の作業を面倒と考えるかどうかなのだ。
オフロードツーリングのエキスパートにはパンク修理など朝飯前で、実際車体を横倒しにして道端でチョチョイと作業してしまう人もいる。オフロード車は地面に横倒しにしたところで、気になる傷にはならないからだ。
ところが同じチューブ入りスポークホイールだとしても、オフロード車より車重のあるネオクラシック系のロードモデルや、クルーザーだとそう簡単ではない。まずタイヤもオフ車より太くなり、リムから外すだけで相応の体力も要る。
くわえて横倒しにすれば車体は傷つくはずだし、道端でのパンク修理はハードルが高い。
一方、チューブレスタイヤのパンク修理がなぜ簡単かと言えば、車輪を外さなくていいし、タイヤの外側からパンク箇所を探してそこの穴を埋めればいいからだ。チューブレスタイヤ用のパンク修理キットは、バイク用品店に行けば、穴を埋めるプラグ(ゴム状のキャップ)+ラバーセメント+穴の大きさを整えてプラグを差し込むツールなどがセットで2000~3000円台で入手可能だ。そして前述の手間だけだから、自分でも修理しやすい。
また、万一修理キットを携行していなくても大きな問題はない。極論、ガソリンスタンドで頼めるからだ。4輪車タイヤ(チューブレス)のパンク修理が可能な大概のスタンドは、バイク用チューブレスも修理可能なのだ。
注意点はパンクへの備えと心がけ「見た目と走りの好みで選べばOK」
キャストホイール車とチューブ入りスポークホイール車。もし同じ機種で両方が選べるとすれば(過去にはゼファー1100と750に、スポークホイール仕様のRSがあった)、走りに違いは感じられるだろう。
実際過去にゼファーの標準仕様とRSを比較した際、走りのキレやダイレクト感で標準の方が素直に感じたし、RSは若干の重ったるさはあるもスポークならではの柔らかさを感じた。
だが、それも許容範囲での差だった記憶がある。軽快かつシャープに走りたいスポーツモデルならば、キャストホイールに利点が多いはずだが、一方でゆったり走らせて楽しむオンロード車なら、キャストである必要もない。
要は、自分のお目当てのバイクがスポークホイール車なら、前述したようにパンク時の対処を考えておけばいいのだ。
なお、センタースタンドを装備しないスポークホイール(チューブ入り)のクルーザーなどの場合、たとえ修理キットを携行していても自分で行うのはハードルが高い。ロードサービスに頼るのが現実的手段であり、その備えは必要だろう。
キャストホイールvsスポークホイール、最後はパンク修理の対処法の話になってしまったが、要は気にする点はそれだけ、あとは見た目と好みで自由に選べばいいのだと思う。
だが実際は、パンクってそんなに頻繁に起こらない
最後に筆者の所有車セロー225WEの話を少し。同車はフロントがチューブ入りスポーク仕様の21インチ、リヤがチューブレス用スポークの18インチという組み合わせだ。パンクした場合はチューブ用とチューブレス用、それぞれのパンク補修キットが必要だ。
なぜセロー225WEやセロー250が前にチューブ入り、リヤにチューブレス仕様なのかと言えば(ホンダのSL230などもこの仕様だった)、前輪の跳ね上げた鋭利な突起物がリヤに刺さってパンクする場合が多いとの判断で、リヤのパンク修理の簡易化を狙ったのだという。一方前輪は、大径の細いリムなのでチューブレスタイプ化しにくいという理由もある。
だが所有から20年以上(走行6万km弱)、実は前後輪ともパンクの経験がない。
使い方は街中移動とたまのオンロードツーリングがメインだが、年に2~3回はダートの林道へ走りにも行く。日本の道のコンディションが昔に比べてよくなったのか、もしくはタイヤ(ないしチューブ)の耐パンク性がよくなったのか定かではないが、実はそれくらいパンクは頻繁に起こるものではないということ。
また最後にも話は脱線するが、パンクの心配をする前に、日頃のタイヤの空気圧管理をするというのがより重要(2~3週間に一度くらいは空気圧を見て、少なければ補充)。
まとめると、今の時代、ホイールは実質「見た目と好み」で選んでもいいということだ。メリット・デメリットをあまり深く考えず、バイクライフを楽しんでほしい。
■筆者のヤマハセロー225WE。セロー225は「WE」から後輪がチューブレスのスポークホイールになったが、こちらはリム内周に立てられた出っ張りにスポークを引っ掛けて組まれているタイプ。前出の重量級アドベンチャーモデルのような洗車のしにくさはないが、その構造上、大型アドベンチャー系の高出力と重量には対応しにくい。
レポート●阪本一史 写真●ホンダ/カワサキ/BMW/八重洲出版