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スポーツモデル以外でも輸入車は「ハイオク」指定のイメージが強い
ガソリンにはハイオク(プレミアム)とレギュラーがある。
ユーザーが自由にどちらかを選ぶために2種類が用意されているわけではなく、エンジンによってハイオクもしくはレギュラーに使用燃料が指定されているからだ。
そして、国産車、輸入車を問わずスポーツモデルはハイオク指定となっている傾向にある。たとえばスーパースポーツモデルのホンダCBR600RRは無鉛プレミアム(ハイオク)が指定されている。
同じCBRでも軽二輪のCBR250RRになるとレギュラーガソリンが指定されている。このクラスでは維持費の安さなどの経済性も重視されるほか、東南アジアなどの発展途上国も主要市場としていることが影響しているだろう。燃料代を抑えるためには燃費を良くするだけでなくレギュラーガソリン仕様でエンジンを作り込む必要がある。
とはいえ、欧米系メーカーの輸入車になると話は変わってくる。同じように経済性と実用性が重視される軽二輪でいえばKTM 250DUKEはハイオクが指定されている。さらに驚くのは街乗りのイメージの強いベスパ プリマベーラ50〜150のようなスクーターでさえハイオク指定となっているのだ。
なぜ欧米系メーカーの輸入車や、欧米販売を視野に入れたモデルはハイオク指定となることが多いのだろうか。
ハイオクの「オク」とはオクタン価のこと
それを知るために、まずは「ハイオク」が何を示しているかを知る必要がある。ご存知の方も多いだろうが、ハイオクとは「ハイ・オクタン価」の略称で、オクタン価はガソリンの自己着火のしやすさを示す指標だ。
言い方を変えると燃えやすいのがレギュラーで、燃えづらいのがハイオクとなる。
なぜオクタン価=自己着火にしやすさが重要視されるのかといえば、それが異常燃焼につながるからだ。スパークプラグの着火とは無関係に熱や圧力によって自己着火する状態は異常であり、それを異常燃焼(ノッキングともいう)と呼んでいる。
一般論として異常燃焼は、エンジンにギリギリの性能を求めていくと起きやすくなる。高性能エンジンでは自ずとハイオクを前提に開発するようになり、経済性が重視されるエンジンでは安価なレギュラーで異常燃焼が起きないようセッティングされる傾向にある。
ガソリン・オクタン価は国ごとに基準が異なる
このようにレギュラー仕様とハイオク仕様がラインアップされるのは、そもそもガソリンの規格が2種類あるからだ。日本でガソリンの規格を定めているのはJIS K2202。自動車用ガソリンは1号と2号の2種類が定められている。それぞれのオクタン価は、1号=ハイオクが96.0以上、2号=レギュラーは89.0以上と定められている。
海外のオクタン価基準はどうなっている?
しかしこの規格は万国共通というわけではない。
たとえば、欧州のガソリン規格は3種類あり、それぞれオクタン価は91、95、98となっている。ちなみに、日本と欧州は同じオクタン価の計測方法(RON=リサーチ・オクタン・ナンバー)を用いているが、北米ではAKI(アンチ・ノック・インデックス)という異なる指標によってオクタン価を示している。
わかりづらいので、RONとAKIの詳細な違いについては割愛するが、おおよそのイメージとしてRONでいう100オクタンが、AKIでは95オクタンになると理解しておけばいいだろう。そして、アメリカで売られているガソリンは87~93のオクタン価(AKI)となっている。単純計算で換算すると、アメリカで一般的に売られているガソリンのオクタン価はRON91~98となり、ほぼ欧州で売られているガソリンと同等のラインアップとなっている。
本国では「レギュラー」指定のモデルでも、オクタン価基準の違いから日本では「ハイオク」指定になる
アメリカでAKI87のガソリン指定であれば、日本のレギュラーガソリン(市場でのオクタン価はRON90)で問題なく走れるケースもあるが、アメリカでAKI89(RON94相当)のガソリンを指定して売られているモデルについては、日本ではハイオクを使わないとノッキングが起きやすくなってしまう。
さらに欧州では3種類のガソリンのうち、真ん中のRON95のガソリンが、日本でいうところのレギュラー仕様に使われるガソリンとして認識されている。
日本のレギュラーガソリンのオクタン価はRON89となっているのでオクタン価が足りず、欧州ではレギュラー指定のエンジンでも、そのまま日本に持ってくると、その多くがハイオク仕様にならざるを得ないのだ。
「レギュラー」と「ハイオク」を半々に入れてオクタン価を調整するのはアリ?
ところで、日本のハイオクはJIS規格ではオクタン価RON96以上と定められているが、実際にはRON98~100オクタンとなっていることが多い。欧州でレギュラー=RON95オクタン指定のクルマにRON100オクタン近いガソリンを使うのはオーバースペックであるといえる。
そのため、欧州でRON95オクタンが指定されているエンジンについては、日本のレギュラー(RON90オクタン)とハイオク(RON100オクタン)を半々に混ぜることでエンジンを正しく回すのに十分なオクタン価にすることができるという、ガソリン代の節約ハックが知られている。
これは、かつて『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)を執筆していた高名な自動車評論家の徳大寺有恒氏が提唱していた方法で、その方法を真似した読者は多かったようだが、だからといってエンジンが壊れたと問題になったという話も聞かない。
実際、筆者も欧州でRON95オクタンのガソリンが指定されているクルマを所有していたときにハイオクとレギュラーを交互に給油した時期もあるが、エンジンの回り方がヘンになったり、燃費が悪化したりといったことは起きなかった。ただし、ノッキングからエンジンを守るための制御が組み込まれているから気付かなかっただけで、体感できる差がなかったからといって指定外のガソリンを使っても大丈夫というわけではない。あくまで自己責任の範囲で試してみた、というレベルの話だ。
たしかに、高回転まで回さないような実用型エンジンであれば問題が顕在化しないかもしれない。しかし、常に高回転を多用するようなスポーツモデルであれば、ノッキングによるトラブルは致命傷につながることもある。まして、スーパースポーツでは欧州での98オクタンが指定されているケースもある。その場合、レギュラーを混ぜるのは設計値よりオクタン価を下げてしまう危険な行為だ。
いずれにしても、指定されているガソリンを給油することがエンジンの性能を引き出すことにつながる。ハイオク仕様にレギュラーを入れるのは基本的にNGであるし、レギュラー仕様にハイオクを入れてもほとんど意味はないと理解しておくべきだろう。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/KTM/ピアッジオジャパン 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実