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「カーボンパーツ」とは何なのか
カスタムパーツなどを選ぶ際、ついつい魅力的に感じてしまうのが「カーボン製」という表記ではないだろうか。ヘルメットやカウルなどの樹脂製アイテムだけでなく、サイレンサーカバーのようなもともとは金属製の部分もカーボンに置き換えたパーツを見かけることは多い。
そうしたアイテムが増えているのは、アフターパーツ市場では、カーボン製というだけで付加価値があると見なされているからだ。カーボン製であること自体がその商品の意義となっている。
そもそも、カーボン製パーツとはどのようなものを指しているのだろうか。
ご存知のように、英語でカーボン(carbon)は「炭」という意味だ。
最近ではカーボンニュートラルといった使われ方をする事も多く、カーボン=二酸化炭素というイメージも強くなっているが、いわゆるアフターパーツの場合は、CFRP(カーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチック)によって成形されているパーツを「カーボン製」といった表記をしていることがほとんどだ。
そして、「CFRP」を日本語表記すると炭素繊維強化プラスチックとなる。文字通り、樹脂製品の強度を上げるために炭素繊維(カーボンファイバー)を混ぜたプラスチックと理解すればいい。大筋で表現すると、カーボンファイバーを骨組として使うことで強度を上げたプラスチックということになる。
ガラス繊維を骨組に使っている場合はFRP(繊維強化プラスチック)と呼ばれるが、これも本来はGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)と表記するのが正しい。繊維強化プラスチックにおいてコスト面から主流なのがGFRPのため、FRP=GFRPという風に慣習的に使われるようになっているのだ。
CFRPは主に2種類!!「ドライカーボン」と「ウェットカーボン」の違いとは
プラスチックには「熱硬化性樹脂」と「熱可塑性樹脂」とある。前者は熱によって固まるタイプで、後者は熱を加えることで柔らかくなり、冷やすと固まるタイプ。リサイクル性に優れるのは熱可塑性樹脂の方だが、現時点ではCFRPのほとんどすべてが熱硬化性樹脂を使っている。
さて、カーボンパーツというと、その製法によって「ドライカーボン」、「ウェットカーボン」という表現を使うこともある。これはあくまで俗称で正しい言い方ではないが、広まっているので、ここでは「ドライ」と「ウェット」という言葉を使って、その製法の違いを説明しよう。
「ウェット」の製法は、型に繊維シートを押し付け、そこに樹脂を塗っていくというものがほとんどだ。繊維を何層にも重ねながら、樹脂を塗り、ローラーで脱泡(空気を抜く作業)するという手作業で製造されるため、この作り方を「ハンドレイアップ」と呼んでいる。
そして、カーボンシートは表側から見える部分だけに使い、ほかの層はコスト的に有利なガラス繊維シートを使っていることも多い。そのため、機能的にはFRPと変わらず、見た目だけカーボンになっているというケースも多い。メカニズムに詳しい人が「ウェットカーボンは『なんちゃて』カーボンだよ」というのは、そのためだ。
もちろん、ハンドレイアップでもすべての層にカーボンシートを使っているケースはある。しかし、それでも、いわゆる「ドライカーボン」には強度と軽さの面では敵わない。
なぜなら、ドライカーボンというのは型にはめた状態で、高圧をかけることにより樹脂を最小限に減らすという製法によって生まれているからだ。
「ドライカーボンはお釜で焼いているんだ」という話をする人もいるが、その釜を正しく記すと「オートクレーブ」といい、日本語に訳すと「圧力容器」となる。前述のように熱硬化性樹脂を使っているので、温度を上げて固めているのは事実だが、処理の目的としては高圧よって無駄な樹脂を除いていると理解すべきだ。
このように根本から製法が異なるため、素材の状態も異なっている。ハンドレイアップによって作られるウェットカーボンの場合、薄いカーボンシートと樹脂が材料となるが、オートクレーブを用いるドライカーボンでは、カーボンシートに樹脂を含浸させた「プリプレグ」と呼ばれる材料を使っている。
言ってしまえば、ウェットカーボンとドライカーボンは、最初の段階から違いが明確なのだ。そして、圧倒的に軽くて丈夫なのはドライカーボンのほうになる。
そのためレーシングマシンなどで使われているカーボンパーツは、基本的にドライカーボンと呼ばれるものとなっている。ドライカーボンこそ本物のカーボンパーツと言われる所以だ。
フレームにもカーボンを使ったバイクが!!
初めてカーボン製メインフレームを採用した市販量産車、BMW HP4レース。
2017年4月に発表された世界限定750台で販売されたサーキット専用車で。フレームに加え、前後ホイールもカーボン製となっている。
乾燥重量は146kg、燃料満タンでの装備重量でも171kgという数値。ベース車両といえるS1000RR(2017年モデル)の装備重量は208kg〜なので、保安部品は無いとはいえ驚異的な軽さだ。
エンジンは999ccの水冷並列4気筒DOHC4バルブ。最高出力は158kW (214ps)/1万3900rpmで、発売当時の価格は1000万円。


一方、公道走行が可能な市販量産車の中で初めてフレーム、スイングアームをすべてカーボン製としたのは、2020年2月に500台限定で販売されたドゥカティ スーパーレッジェーラV4だ。
乾燥重量は159kgで、ベース車両となっているパニガーレV4R(2020年型)の乾燥重量は172kgなので、かなり軽量化されていることが分かる。
エンジンは998ccの水冷V型4気筒DOHC4バルブ。最高出力は165kW (224ps)/1万5250rpm。



量産に向いたカーボン製法「SMC」(シートモールディングコンパウンド)
なお、カーボンパーツの製法はほかにもある。
一例として、四輪で採用されているケースを紹介すると、トヨタのラリーウェポンといえるGRヤリスのルーフは全車がカーボン製となっているが、このルーフにはSMC(シートモールディングコンパウンド)と呼ばれるカーボン素材が使われている。
通常イメージするカーボンパーツは、長いカーボン繊維がシート状に編み込まれているが、SMCの場合は短く切ったカーボン繊維を樹脂に混ぜたもので、そのメリットは量産性と成型性にある。いわゆるドライカーボンでは生産が難しい複雑な形状も実現できるのが特徴だが、軽さと強度という点では、ドライカーボンが上なのは言うまでもない。


レポート●山本晋也 写真●ドゥカティ/BMW/トヨタ/タナックス
編集●モーサイ編集部・中牟田歩実