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ホンダの電動バイク用交換型バッテリーが進化「バイク以外にも建設機械やロボット、海外での活用も!」

着脱式可搬型バッテリーが進化、「モバイルパワーパックe:」に

2018年に限定的にリース販売された「PCXエレクトリック」、2019年に登場したビジネス用フル電動二輪車「ベンリィe:」シリーズ、そして2021年に登場したフル電動スリーター「ジャイロe:」シリーズに共通しているのは、着脱式可搬バッテリー「モバイルパワーパック」を使っていることです。

いずれも約10kgのバッテリーパックを車体に2個セットすることで原付もしくは原付二種相当のパフォーマンスと日常的に使える航続距離を実現。
しかも「モバイルパワーパック」は交換による運用を前提としているため、電動車両にありがちな充電待ちという時間が不要で、バッテリーステーションにおいて満充電されたバッテリーに交換すれば、すぐさま運用できるというのがメリット。

特に出発・帰着の地点が決まっていて、充電済みバッテリーをプールしておけばスムーズな運用ができるということもあり、ベンリィe:は郵便配達などの業務用として広まりつつあるのはご存知の通りです。

日本郵便に採用されているベンリィe:。
ベンリィe:はシート下に「モバイルパワーパック」を2個搭載。

編集部註・将来的には郵便局をバッテリー交換ステーションにする計画もあるという。

そんなホンダの着脱式可搬型バッテリーが「モバイルパワーパックe:」に進化しました。従来のバッテリーと互換性を持たせるために、幅177.3mm・高さ298mm・奥行き156.3mmという筐体サイズや50Vを基本とする定格出力は変わっていませんが、定格容量が1314Wh(25%増)、重量は10.3kg(6%減)とアップデートされています。

しかも価格は一個8万8000円と、バッテリーの性能からするとかなりリーズナブルな設定となることも発表されています。このことからもホンダは本気で「モバイルパワーパックe:」を普及させようということがわかるのではないでしょうか。

なお、ホンダは国内ではヤマハ、スズキ、カワサキと、海外でもKTMやピアッジオと交換型バッテリーについてのコンソーシアムを組んでいますが、今回の「モバイルパワーパックe:」がそのまま各社で利用されるというわけではないそうです。あくまでも、ホンダが自社の着脱式可搬型バッテリーを進化させたというスタンスです。

「モバイルパワーパック」の強化版として登場した「モバイルパワーパックe:」。後ろにあるのはバッテリーステーション。
「モバイルパワーパックe:」(右)と「モバイルパワーパック」シリーズの専用充電器(左)。

コマツや楽天も共同利用「モバイルパワーパックe:を使った未来」

とはいえ「モバイルパワーパックe:」についても同社だけのビジネスに終わらせるつもりはありません。すでに建機大手のコマツが、このバッテリーを使った小型パワーショベルを試作していますし、ネット通販の雄である楽天と共同で進めている配達ロボットにも使われています。

さらに、ホンダとしても二輪だけが使うバッテリーとは考えていないようです。

具体的にはインドではリキシャと呼ばれる3輪タクシーの電源として活用するビジネスを2022年にはスタートさせる予定となっています。この場合は、バッテリー搭載量を4個として必要な出力や航続距離を確保するということで、そうした順応性があるのも「モバイルパワーパックe:」の特徴といえるでしょう。

「モバイルパワーパックe:」で動くインドの3輪電動タクシー「E-AUTOリキシャ」。
「E-AUTOリキシャ」の背面には4個の「モバイルパワーパックe:」が搭載される。
ホンダとコマツが共同開発した電動マイクロショベル「PC01」。「モバイルパワーパック」を2個を動力源とする。
電動マイクロショベル「PC01」は座席後部に「モバイルパワーパック」を2個搭載する。

また、ホンダとしてはバッテリービジネスについては売り切りではなく、リースを基本とすることを考えているといいます。それはバッテリーを有効的に二次活用するためです。

「モバイルパワーパックe:」は21700という規格のリチウムイオン電池を使ったバッテリーパックですが、リチウムイオン電池というのはどうしても劣化します。しかし、モビリティ用のバッテリーとしては厳しいコンディションになったとしても、たとえば家庭用の太陽光発電とつなげたストレージとしては使えるレベルにはあるといいます。

そうしてバッテリーの状態に合わせて適材適所に展開することまで含めてホンダではビジネス化を想定しています。
そのため、頭脳といえるバッテリーマネージメントシステムとバッテリーステーションでの充電時にサーバーにデータをアップロードし、個々のバッテリーパックをしっかりとトレーサビリティ(管理)するシステムに対応するよう設計されている点もポイントでしょう。

ホンダと楽天が共同で実証実験を行っている、「モバイルパワーパック」で稼働する自動配送ロボット。
「モバイルパワーパックe:」のバッテリーステーションとして量産が予定されている「モバイルパワーパックエクスチェンジャーイー」。
バッテリーステーションの「モバイルパワーパックエクスチェンジャーイー」は、夜間の余剰電力を利用して効率よく充電を行うことも想定されている。
「モバイルパワーパック」を家庭用蓄電池として使う「パワーストレージ―イー」。

新型「モバイルパワーパックe:」で電動バイクの航続距離が伸びる

ところで、「モバイルパワーパックe:」への進化はユーザーメリットとして何があるか気になるところでしょう。
前述したように互換性は確保していますから、従来の「モバイルパワーパック」を使っていたBENLY e:などに新しい「モバイルパワーパックe:」を使うことは可能です。むしろ、それは大前提です。

そして「モバイルパワーパックe:」は定格容量が従来比30%も増えていますから、それは航続距離の延伸につながります。ホンダの検証によると、同条件で一充電走行距離が65kmから77kmまで延びているということです。
これは非常に注目すべきポイントです。今後も互換性を保ちながらバッテリーが進化することで電動バイクの使い勝手がどんどん向上する可能性があるということを意味するからです。

ジャイロキャノピーe:に搭載された「モバイルパワーパックe:」。

ジャイロキャノピーe:が71.5万円で登場

2021年10月29日より法人向けに発売されたジャイロキャノピーe:。車体色は白と赤の2種類が用意されている。

そして「モバイルパワーパックe:」の登場にあわせて、ジャイロe:シリーズに屋根付きモデルのジャイロキャノピーe:が追加され、10月29日より新発売されています。

法人向けということで一台71万5000円という高価な電動3輪スクーターとなっていますが、もちろん従来のバッテリーパックも、そして新しい「モバイルパワーパックe:」も両方に対応しています。

編集部註・車両価格は高価だが、電動バイクに対しては自治体や国による補助金制度があり、なるべく従来までのガソリン車と同等の価格で購入できるようなサポートが行われている。例えば東京都では18万円〜48万円(車種による)の補助を受けることができる。

まったく新しい電動三輪モビリティにも大注目

ところで「モバイルパワーパックe:」を使うモビリティはビジネス向けばかりを考えているわけではありません。まだプロトタイプですが、このバッテリーを1個だけ使う小さなスリーター「ESMOコンセプト」が提案されています。

いわゆる高齢者向けの電動車椅子とも違う、近所の移動に使えるパーソナルモビリティは未来の移動体験として高い可能性を感じます。

太陽光発電で作った電気を溜め、こうしてモビリティを動かす「地産地消」ならぬ「家産家消」もまた、「モバイルパワーパックe:」が描く未来像といえるのかもしれません。

「モバイルパワーパックe:」1個を動力源とする新しい電動3輪モビリティの「ESMOコンセプト」。

レポート●山本晋也 写真●山本晋也/ホンダ/八重洲出版 編集●上野茂岐

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