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方言のように、クルマの走らせ方にも地域ごとのクセがあるといいます。
それを表すかのような、「地域名を冠した走り方」を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか?
たとえば令和3年8月に茨城県警がTwitter公式アカウントで取り上げ、話題となった「茨城ダッシュ」のようなもの……。
その地域では許されている地元ルールのようにも聞こえますが、そういった「地元走り」の正体は単なる危険運転や交通違反。
そう、なぜ茨城県警が取り上げたかというと、「危ないから」なんです!
ほか地域の人から見て危ないというだけでなく、地元の人にとっても実際危ないからなんです。
では、具体的に「茨城ダッシュ」とはどんな走り方なのか、なぜ危ないのかについて見ていきましょう。
茨城県警がSNSで「茨城ダッシュは違反です」と発信した理由とは
茨城県警の公式アカウントのツイートによると「茨城ダッシュ」とは、青色信号に変わった瞬間に猛ダッシュで対向直進車よりも先に右折する行為。
「(茨城ダッシュは)違反です」というからには、なんらかの交通違反に該当するわけですが、茨城県警ではケースによって3つの違反にあたる可能性を示唆しています。
- 交差点右左折方法違反
- 交差点優先車妨害違反
- 信号無視(赤色等)
それまで人々の間で語られるものでしかなかった「茨城ダッシュ」という呼び名ですが、県警公式アカウントにまで登場してしまったことで、茨城の名を冠した悪しき習慣を茨城県警が公認したともいえるでしょう。
しかし、SNSやネット上では「公式が言うな!」、「自虐ネームもどうかと思う」「右折信号を増やせ」といった厳しい声が多数でした。
ただ現実問題として、茨城県は交通死亡事故の死者数がほかの県と比べ多い傾向にあります。
このツイートの直前(令和3年7月末)時点での死者数は37人、前年比ではマイナス7人ですが、全国的に見ても決して褒められた数字ではありません。
ほかにも飲酒運転による死亡事故の件数・死者数が2年連続で全国ワースト1位になるなど、茨城県は不名誉な話題ばかり。
このような状況を打開するために、県民にとって悪い意味でもなじみ深い「茨城ダッシュ」を話題に取り上げて交通安全を呼びかけたものだと推察されます。
茨城県警の公式アカウントのフォロワー数は2021年8月時点で約6.8万ですが、日々のツイートに寄せられるリプライはおおむね10~20件程度。
ところが、茨城ダッシュに関するツイートは2000を超えるいいね数と、3000弱のリツイート・引用ツイート数を獲得しています。
厳しい意見が多いとはいえ、公式アカウントによるツイートに多くのいいねや、リプライが寄せられたことが茨城県の汚名返上に一役買うのかもしれません。
茨城ダッシュのほかにも危険な「地元走り」は各地に存在
危険な「地元走り」は「茨城ダッシュ」だけではありません。
他の地域にも「茨城ダッシュ」のごとく、「その地域では許されている地元ルール」のような呼び名がつけられているものがあります。
伊予の早曲がり(愛媛県)
「茨城ダッシュ」と同じで、対向する直進・左折車よりも先に右折する行為のことです。
愛媛県内各所では、警察や周辺団体が「禁止!伊予の早曲がり」といった立て看板を設置しており、こちらも「県警公認」となっています。
もちろん、交差点における右左折の方法や優先車妨害、信号無視などは違反につながる危険行為なので許されるものではありません。
名古屋走り(愛知県)
「名古屋走り」は特定の違反行為というよりもさまざまな悪習の総称です。
信号が黄色や赤色の場合でも突進する、右左折や車線変更ではウインカーを出さない、右折レーンに並んでいる車の前に割り込むなど、ルール・マナーを無視したあらゆる悪質な運転が当たり前になっているようです。
また、愛知県の交通事故発生件数は東京・大阪に次いで全国3位。
令和2年には、ウインカーを出さずに進路変更をしたために起きた事故で「名古屋走り 不起訴から一転起訴へ」という見出しで報道されるなど、全国的に認知度が高い「地元走り」なのではないでしょうか。
そのうち茨城県警同様、愛知県警の公式アカウントでも「名古屋走りは危険!」と書かれたツイートが発信される日がくるのかもしれませんね。
播磨道交法(兵庫県)
「茨城ダッシュ」のように特定の行為を示したものではなく、右左折時のノーウインカー、歩行者妨害、路線バスの発進妨害など、さまざまな違反行為の総称的なものです。
まるで「播磨には独自の道交法がある」とでも言うかのような名称ですが、もともとは地元の「神戸新聞」で読者投稿をもとに交通マナーの悪さを指摘するコーナーの題名でした。
つまり、皮肉な意味合いから「神戸新聞」で名付けられたはずなのに、いつの間にか「ウチの地域ではこれが普通だから」というような意味合いに……。
余談ですが、警察内部では知られた話の中に「野下道交法」というものが存在します。
これは、わかりにくい道路交通法の解釈を実務に照らしてまとめた解説書の別称で、元警察官の野下文生氏の著書であるから「野下道交法」と呼ばれるようになりました。
交通取り締まりのバイブル的な著書なので、「地元走り」とはなんの関係もありませんが……。
最悪の事態を起こさないために交通ルールを守って運転を!
名前はなくとも、同じような「危険なローカルルール」が様々な地域にあるのではないかと推測します。
茨城県警のツイートもきっかけのひとつでしょうが、ここ最近、さまざまなメディアで「地元走り」に関する話題が増えています。
急に流行りだしたものではなく、長らくあった慣習なのに、なぜ改めて──?
それには「悪質な違反を許してはいけない」という市民の声が強く関係しているからだと思います。たとえば、令和2年6月には危険なあおり運転について「妨害運転罪」が新設されたことが大きな話題となりました。
従来は「マナー違反」や「乱暴な運転」といわれる程度で済まされるだけだったかもしれませんが、「おおり運転」による事故などもきっかけとなり、悪質なパッシング・クラクションなども犯罪となる時代になりました。
それらをふまえつつ、さらなる事故防止・マナー向上にむけて「地元走り」にも白羽の矢が立ったのではないでしょうか。
特に、危険な交通事故につながりやすい交差点関連の違反への取り締まりは強化されています。
「みんなやっているから」「ウチの地元じゃこれが当たり前」「交通インフラが整備されていないから仕方がない」なんて思っている人……取り締まりを受けるだけならまだしも、他人の命を奪ってしまう危険性があります。
今一度、ローカルルールではなく「全国共通の交通規則」に立ち返って、正しい運転を心がけておきましょう。
レポート●鷹橋 公宣 編集●小泉元暉
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。