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走行中のバイクからモノを落とすなんて言語道断。一歩間違えれば後続車や歩行者、あるいは自分自身を危険にさらす行為……なのですが、世の中にはつい笑っちゃうようなツーリング中の落とし物もあるようです。「こうならないように!」という自戒の念を込めつつ、実際にあった「バイクの落とし物」エピソードをいくつか紹介しましょう。
速さはお金で買う!? バイクショップの社長が落としたのは……
いまから30年近く前。バイクに乗りはじめて1年ほどが経ち、めきめきライディングが上達中だった筆者は、とあるバイクショップ主催のツーリングに参加していました。「今日こそ、社長にぴったり付いていってやる……」。公道でバイクの追いかけっこなんて、まるで褒められた行為ではありませんし、現代ならすぐにドライブレコーダーで記録されてインターネット上のさらし者となり、地位や名誉まで落としかねません。それどころか、警察に摘発されて免許の持ち点数を減らすかもしれません。まあしかし、あの頃はまだまだ世間がおおらかで、逆にバイク乗りのモラルが低かった時代でした。
その社長はバイクに乗るのがとてもうまく、いつもショップのお客さんやスタッフを先導しつつも、峠道をいいペースで走っていました。社長のスピードについていくことは、あのころはまだたくさんいた20歳くらいの若い参加者にとっては目標であり、「あわよくば抜いてやろう」とさえ考えていたわけです。ツーリングの行先も次の休憩場所も知らぬまま参加しているのに、先導を抜いてどうするんだ……という話なんですけどね。
そしてその日、私は彼の後ろにピタリとついて走っていました。「今日こそイケる。これは抜けそうだ……」と、血気盛んな20歳のガキは色めきだっていました。と、そのときです。バイクを深くバンクさせて走る社長のイン側脇腹あたりから、何かがピラピラ~と私に向かって飛来。当時、視力が両眼とも2.0で動体視力にも優れていた私は、すぐに気づきました。「あ、千円札!」。そう前から舞い飛んできた物体は、社長がジャケットのポケットに入れていた千円札だったのです。当然、私はそれを拾うために停車。路肩の草にうまく挟まっていた千円札を、走って近づき慌てて回収したのです。その間に社長はどんどん先行。結局、休憩場所まで二度と追いつくことはありませんでした。
「今日こそ抜いてやろうと思ったら、ポケットから千円札が落ちたので、止まって拾ってあげましたよ」。パーキングに到着して、社長に千円札を手渡すと、彼はこう言ったのです。「フッ、これがオトナの力だ。千円ごときに目がくらんで遅れるなんて、甘いな」と……。しかしそういうワリには、しっかり千円札は回収されたのでした。
まああの当時、開けっ放しにしていたポケットからお札や小銭を落としてしまったというのは、よくある話でした。まだETCなどない時代。ツーリングのときは、お札や小銭をむき出しでポケットに入れておくというのが、料金所をスムーズに通過するひとつの「テクニック」だったのです。
空に舞う1万円札を、茫然と眺める悲しさよ……
お金を落としたということでは、私もやらかしたことがあります。あれは、まだ1万円が超大金だった20歳のころ。神奈川県の西湘バイパスを走っているときに、それは起きました。その日はとても暑く、あまりの耐えがたさに私はつい、ジャケットのフロントファスナーを全開にしたのです。内ポケットに二つ折りの長財布を入れていたことをすっかり忘れて……。次の瞬間、風圧で前身頃がバタつき、その影響で財布がするりと落下。「あっ!」と思ったときには、すでに財布は後方にありました。
慌てて路肩に停止した私。そして財布が落ちたほうを見ると、落下の衝撃で二つ折りの財布から散乱した2枚の1万円札と3枚の千円札が、なんと海風に乗って空高く舞い上がっていました。もはや、お金に関してはなすすべなし。絶対にやってはいけない行為なのですが、私は路肩をとぼとぼと歩いて財布の落下地点に近づき、運良く(?)路肩に飛ばされていた財布のみ回収しました。2泊3日のロングツーリングで使うはずだった私の予算は、たった自宅から数十kmの場所ですべてなくなってしまいました。
単に落として盗まれたとかなら、諦めもつくんです。でも、自分の1万円札が空を舞っているのが見えて、でも自分は高速道路上にいるから何もできないというのは、かなり虚しい光景です。皆さまも、風が強い場所での(そういう場所でなくても)長財布落下にはお気をつけください!
ネジの脱落はよくある話ですが……
あっていいことではないのですが、走行中に「いつの間にか」落ちていることが多いのはボルトやナットなど。とくに、カウルやリヤフェンダーを留めているボルトは、締め付けてある土台が樹脂製パーツなのであまり大きな力を掛けて締めることができず、走行やエンジンの振動で緩んで脱落してしまうことがたまにあります。そのまま放置してそのパーツの固定が甘い状態でバイクを走らせると振動がさらに大きくなり、他のボルトがまた緩むなんて場合もあります。
ボルトの脱落を抑止するには、定期的な増し締めが一番ですが、外装類のボルトがいつの間にか脱落していないか、定期的にチェックすることも大切です。洗車や磨きを頻繁に実施すると、その際にボルト脱落に気づくこともあります。ボルト&ナットの脱落を探すというより、洗車や磨きをなるべく実施するというのもありかもしれません。
まあでもカウル類などの場合、ネジがひとつ落ちたくらいでは大きな問題になることは少ないですが、これがブレーキだったら超危険。バイクは、人の命を乗せて社会の中で走らせるのですから、やはり定期的なメンテナンスは必須です。そういえば、ブレーキのキャリパーボルトほど深刻な問題にはなりませんでしたが、とあるボルト&ナットを脱落させたがために、旅先で途方に暮れることになった知人がいます。あれはもう20年以上前のこと。そのとき私は、10名ほどの仲間と一緒に信州方面をツーリングしていました。このメンバーは、とにかく長い距離を走るのが大好き。この日も、それなりの距離を走りある駐車場で休憩を取ることになりました。
我々は、疲労からとっととバイクを停車し、まずは水分を補給しようと近くの自販機に向かったのですが、そこで気づきました。仲間のひとりが、両足を着いたままうつむき、バイクを降りようとしません。「ちょっとムリして距離を走らせすぎてしまったか。疲労困ぱいでバイクから降りることもできないとは……」と、我々は彼に近づきました。すると彼は顔を上げ、我々に向かってこう叫んだのです。「ない、ないんだよ! オレのサイドスタンドが!!」。そう、彼は疲れてバイクから降りられなかったのではなく、走行中にサイドスタンドを落とした結果、バイクを止める手段を失っていたのでした。聞けば、「サイドスタンドの動きがあまりに悪かったので、前日にグリスアップするため分解した」とのこと。きっとそのとき、ボルトの締め付けトルクが足りなかったのでしょう。結局、その場は電信柱にバイクを立て掛けてバイクを駐車。その後、彼は我々とは別行動で帰りました。一度もバイクを停めることなく……。
積載した荷物の中からパンツのみ落とす男
さて、ツーリング中に荷物を落としてしまった……という話は、それほど多くないものの聞かない話ではありません。テールバッグが落ちかけたとか、後ろの荷物が崩れたなんて話を含めたら、よくあるトラブルです。まあ、本当はよくあっては困るのですが。しかしたいてい、それらはすぐに気づきます。気づくからこそ、本当に落とす前に察知して、ずれたり崩れたりという段階で止められるわけです。
ところが、例えばバッグの中に入れずコードロープやネットにちょっとひっかけておいたような荷物だと、落としても気づかないことが多々あります。例えばペットボトル。「まだ残っているから……」なんて引っかけておいたら、走行中にいつの間にかなくなっていて、ポイ捨てに近い状態に……なんて経験がある人は少なくないかもしれません。
しかし、同じような状況でかつて筆者が落としたのは、ペットボトルではなくパンツでした。学生時代、2週間ほどの北海道ツーリングで荷物を減らすため、毎日Tシャツや下着などを洗い、一晩で乾かなかったときはバッグに入れずコードロープに引っかけ、走行風で乾かしていたのですが、どうやらうまく引っかかっていなかったようです。気づいたときには、パンツだけが行方不明。北海道の美しい大自然を、自分のパンツで汚してしまったことを、今でもとても悔やんでいます。
最近の落とし物でよく聞くのはアレ!
近年は、ツーリングに電子デバイスを活用する人も増えてきました。ナビの代わりにスマートフォンというのが当然ですし、アクションカメラ(ウェアラブルカメラ)を車体やヘルメットなどに装着して、走行動画を撮影しているライダーも多くいます。そこで、近年「ツーリングの落とし物」として増えてきたのが、スマホやカメラ、そしてそれらを車体などに搭載するためのマウントやその一部となるボルトなどです。
スマホの場合、ほとんどの場合はハンドルまわりの目が届く位置に搭載しているので、落としてそのまま走り去った……ということはまずないでしょうが、走行中のバイクから落とせば画面が割れるなどのトラブルにつながります。スマホが壊れたら、「友だちの連絡先がわからない」とか「バーコード決済が……」など、困ることがたくさんあります。アクションカメラも、激しいスポーツシーンなどに対応できるタフネス性が考慮された製品も多いとはいえ、走るバイクの上から落下してアスファルトに叩きつけられて転がってもヘイキ……なんて製品はほぼありません。バイクに電子デバイスを搭載するときは、脱落しないようくれぐれも注意しましょう!
レポート●田宮 徹 写真●モーサイ編集部 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実