配達物を届けている最中なのであろう、カギを着けたまま(時にはエンジンをかけたまま)置いてある新聞配達や郵便配達のバイクを見かけることが珍しくない。
「その間に盗まれたりしないのか?」と心配になってしまうのだが、実際に被害もあるようだ。
たとえば、2020年11月、和歌山県和歌山市と紀の川市で新聞配達用バイクが盗まれる事件があった。
盗難されたバイクは行方不明のまま見つからないケースも多いが、この新聞配達用バイクは高架下でカギ付きの状態で発見された……つまり、配達の途中でカギを付けたまま置いてある状態で被害にあったと見られている。
この事件では、盗難されたバイクによって交通事故などは起きなかったが、もしその車両が事故を起こし、被害者が出ていたらどうなるのだろうか。
盗難された車両(バイクであれクルマであれ)の持ち主もカギを付けっ放しにしていたことで罪に問われるのだろうか?
元警察官・刑事の鷹橋 公宣さんに聞いてみた。
盗まれたバイクが事故を起こしたら持ち主も責任を問われるのか?
──仮にカギを付けたままエンジンを切らずに駐車したバイク(あるいはクルマ)が盗まれ、その車両が交通事故を起こしたとします。その場合、持ち主も何らかの責任を問われることになるのでしょうか?
基本的に、交通事故の責任は運転者にあります。
運転者以外が交通違反になるのは「無免許・飲酒運転の場合に車両を提供した」や「運転を依頼した」といった場合にのみ限られるので、盗難されたバイクが交通事故を起こしても持ち主に責任はありません。
刑法のどこを見ても「盗まれた罪」なんてものが存在していないので当然です。
しかし、バイクを盗んだ犯人が事故を起こした場合、持ち主として「なぜ犯人がこのバイクに乗っていたのか?」という事情聴取を受けることにはなります。
その際に「キーをつけっ放しでエンジンをかけたままだった」と言えば、一応は「あなたも交通違反の『停止措置義務違反』にあたる」という説明を受けるでしょう。
ただし、盗まれた事情を考えれば「停止措置義務違反」であっても切符処理を受ける可能性はほとんどありません。
停止措置義務違反に限らず、交通違反があったとしても警察官は指導・警告で済ませることも可能です。このようなケースでは、バイクの持ち主に対して「盗難に遭う危険があるので二度としないように」と強く注意されるだけでしょう。
とは言っても、交通事故に被害者がいた場合、被害者本人か親族から「持ち主がしっかり管理していなかったから交通事故に発展した」という理由で持ち主の民事的な責任を追及してくる可能性はあります。
その場合、損害賠償については警察に相談しても対応しないため(民事不介入)、弁護士に相談して解決するほかないでしょう。
配達中に一瞬だけバイクから離れるケースまで警察は検挙しない
──その「停止措置義務違反」は、新聞配達や郵便配達のバイクで見かける「カギを付けたまま一時的に車両から離れている」という場合も適応されるのでしょうか?
まず、運転者が車両を離れる場合はブレーキをかけ、完全にエンジンを止めて「停止の状態を保つため」に必要な措置を講じなくてはなりません。
これは道路交通法第71条に定められている「運転手の遵守事項」として規定されており、違反すれば「停止措置義務違反」となります。
「停止措置義務違反」は違反点数の加算はないものの、二輪車では6000円、原付では5000円の反則金があります。
また「停止措置義務違反」は車両の装置に応じて、他人に無断で運転されることがないように必要な措置を講じる義務もあります。
とはいえ、現実的には「キーをつけっ放しでエンジンを切らずに離れたらすぐに切符処理(*)」というわけでもありません。
新聞配達や郵便配達のように瞬間的にバイクから離れるようなケースまで検挙されることはまずないでしょう。
そもそも「運転手の遵守事項」は事故や盗難を防ぐためのもの。
「違反を取られないためにキーをつけっ放しにしない」というのは本末転倒ですので、自分のバイク(クルマ)を守るためにキーの管理はしっかりお願いしますね。
監修●鷹橋 公宣 まとめ●モーサイ編集部・小泉元暉
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。