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ライトノベル原作でアニメ化された『スーパーカブ』
1958年登場の初代スーパーカブC100から始まり、半世紀以上もの間、世界中の人々に愛されてきたスーパーカブシリーズ。

この「スーパーカブ」にスポットライトを当てたアニメが、KADOKAWAの手掛ける「スーパーカブ」です。
物語の主人公は天涯孤独の女子高生、小熊。生後まもなく父親と死別し、高校入学直後に母親は失踪、頼れる親戚もなく山梨県北杜市で慎ましく暮らすなかで偶然1台のスーパーカブに出会い、その魅力に惹かれていくのです。

アニメ「スーパーカブ」は、主人公小熊の声優に自身もライダーである夜道雪さんを迎えて大ヒット作となり、2021年6月23日に惜しまれつつも最終回を迎えました(一部地域では放送日時が異なります)。
原作は、角川スニーカー文庫から刊行されている同タイトルのライトノベルです。2021年6月現時点でのシリーズ既刊は本編7巻、短編集1巻の計8巻となっています。

小説『スーパーカブ』の作者はライトノベル作家のトネ・コーケンさん。
10代の頃からバイクに熱中し、カブ系モデルではプレスカブ、スーパーカブ90を乗り継いだほか、ジョグ、アドレスV100、TZR125、TZR250、SDR、GSX-R1100、YBR125Gなどを所有してきた生粋のバイク好きです。
そんなトネ・コーケンさんに「小説を書くに至ったほど、なぜカブが好きなのか」を聞いてみました。
*以下、トネ・コーケンさんのコラムは八重洲出版「モーターサイクリスト2019年3月号」に書き下ろしたものになります。
原作者トネ・コーケンさんによる書き下ろしコラム
「カブが好きなんですか?」小説『スーパーカブ』を出版して以来、多くの方からこの質問を頂きました。もちろんカブは好きです。
伝説と言ってもいいその性能を感じながら、乗っているときの気分。どんなバイクより似合う真夏の夜も、他のバイクなら寒さで降参するような厳冬期でも―─。また、故障による部品交換やカスタマイズするときの優れた整備性と、安価で潤沢な部品。いずれもカブでなければ味わえないものです。
走るうえで必要となるコストが低廉で、どんな場所でも目立つことなく風景に溶け込み、街がよく見えるスピードで走れるカブ。10代の頃からずっと好きな徘徊趣味には最良のツールで、いつまでも走り続けられるのではないかと思いながら幸せな時間を過ごしていました。
でも、僕が十数年前からカブに乗るようになって以来、あるいはそれ以前、カブというバイクの存在を認識してからずっと、カブが「一番好き」になったことは一度もないんじゃないかと思います。
カブは実際に買う前から何度も購入候補に挙がり、その度にもっと好きなバイクに競り負けていました。カブを買ったときにも、生活の利便性のために原付が必要になり、偶然安価で譲ってもらえるという話があったので、安い原付なら何でもいいと思って購入。
それからも、あるときはアホみたいに金と手間を注ぎ込んでいたクルマや自転車、あるいはカブ以外のバイクなど、その時々の「一番好きな物」は変わっていき、カブはずっとそれらに次ぐ存在として、クルマや他のバイクにトラブルが発生したときに、それらの部品を運んだり代打を務めたりする道具でした。
自転車で行ける所でカブで行けないとこはない。バイクで運べるものでカブに運べないものはない。クルマに積めるものなら無理すりゃカブにも積むことができる。ずっと壊れることなく、壊れてもすぐに直るカブは、僕が一番の愛情を注ぐものの横にいつもいて、それらのクルマやバイクにはできない生活の用を粛々とこなしてくれる同居者でした。
実はもうひとつ、カブに乗るようになった理由があります。「カブに乗ったら女の子にモテるのではないか」。10代半ばの頃、本気でそう思っていました。原付から早々にレーサーレプリカに乗り換えましたが、そうした試行錯誤の末に、僕は愛らしい見た目のカブを買いました。
しかし、女の子が白馬に乗った王子様を待っているというのは幻想でした。真夏の夜にカブにふたり乗りして、タイやベトナムの恋人みたいなデートをしようと言ったときには、「うんまた今度ね、今日はクルマで行こ?」とあやされました。それに、カブを大事にしていると「私とカブのどっちが大事なの?」ってかわいい嫉妬じゃなく、静かな怒りが伝わってくるのも知りました。
結果? お察しのとおり―幾度も失敗を重ねた末、僕はようやく解答らしきものに辿り着きました。
好きな女の子は変わることがあっても、「家族」はどうやらそうもいかない。
これからもカブが最愛の対象になることはないんでしょう。僕はずっとカブに育てられているから。

最終回を迎えたアニメ「スーパーカブ」ですが、2021年6月23日〜29日にかけてはGYAO!で、6月29日にはニコニコ動画で、第1話から第11話までの一挙配信が行われる予定です。
レポート●トネ・コーケン 写真●KADOKAWA/ホンダ 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実