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「バイクの盗難が多発している」と耳にしたところで、大多数の方はどこか他人ごとに聞こえてしまうことでしょう。
「バイクに乗っていれば一度は盗難被害に遭ったことがあるはずだ」というほどまで日本の治安は悪くはないので、どこか誰かの悲劇のように感じるのも仕方のない話です。
しかし、実態はどうなのか──元警察官のライターによる分析を紹介します。
年間約9000台のバイクが盗まれている
警察庁の犯罪統計によると、令和2年中の「オートバイ盗」の認知件数は9018件でした。
前年の令和元年における認知件数は1万1255件だったので、2237件の減少です。
件数が減ったこと自体は、ライダーにとって喜ばしいことでしょう。
しかし「減少した」といっても「根絶された」わけではありません。
自分の愛車を盗まれてしまったライダーにとって、全体的な件数は無関係すから。
同年のオートバイ盗の検挙件数はわずか1489件で、検挙率は16.5%でした。
単純にみれば「盗まれたバイクが返ってくる割合」は2割にも満たない計算です。
しかも、前年の検挙率は21.5%なので、5%も減少しています。
この統計をみれば、バイク盗難の全体的な件数は減少しているものの「盗まれたバイクが返ってくる確率は低い」という実情は明らかです。
【参考:犯罪統計資料(令和2年1月~12月)【確定値】|警察庁】
「盗難バイクは海外輸出」時代遅れ?
盗まれたバイクがその後どのような末路をたどるのかを考えたとき、まず思い浮かぶのが「海外輸出」でしょう。
平成16(2004)年には、ハーレーダビッドソンなどの高級バイクを盗んで海外に輸出していたグループの主犯格が海外逃亡したというニュースが報じられました。
最近では、Twitterでバイクを盗まれたと投稿したところ、東アフリカのケニア共和国で発見されたという事例もあります。
海外、とくにアジア圏では二輪車の需要が非常に高く、日本製のバイクは人気が高いため、輸出目的の窃盗が多発していました。
ところが、近年では海外でもある程度の需要が満たされてきたので、盗難バイクの海外輸出はすでに下火と言われています。
平成18(2006)年に税関が摘発した盗難バイクの台数は180台でしたが、平成30(2018)年には12台にまで減少しています。
【参考:税関における盗難自動車等の摘発台数|税関】
もちろん、犯罪グループの手口は巧妙化しているので、この数字をみても「たった10数台しか海外に輸出されていない」というわけではありません。
税関や捜査機関に発見されない裏ルートが存在するのは、先に挙げた事例からも明らかです。
また、バイクを分解してパーツとしての輸出を目論んだところを摘発された事例もあるので、国際的な犯罪グループは何らかの方法で巧妙に盗難バイクを海外に輸出しています。
とはいえ、バイク輸出の摘発数だけでなくパーツ輸出の摘発数も近年では激減しているので、もはや「盗難バイクは海外に」と考えてあきらめるのは時代遅れかもしれません。
近年、盗難バイクの多くは国内で発見される
令和2(2020)年8月、福岡県でヤマハ RZ250Rを盗んだ少年が逮捕される事案が起きました。
オーナーの自宅敷地内に駐輪していたところを盗難被害に遭いましたが、犯人である当時15歳の少年がInstagramに画像を投稿したため特定された事例です。
同年10月には、静岡県に住む男らが磐田市内のマンション駐輪場にあったオフロードバイクを盗んでインターネットオークションで売却し、警察に逮捕されました。
この地域ではオフロードバイクばかりを狙った盗難事件が10数件発生しており、その男らが関与している疑いが強いとみて捜査が進められています。
全国的にバイク盗難が多数発生しているなかで、その多くが海外とのパイプを持っているとは限りません。
むしろ、個人間売買がネットオークションやフリマアプリで容易に完了する時代なので、小遣い稼ぎや副業感覚で盗難バイクを転売している人たちが多数です。
また、ネットオークション・フリマアプリで一度売却されたバイクやパーツが、海外に輸出されている可能性も無視できません。
いまや不正に入手した商品の売却先としてインターネットが悪用されているのは周知の事実です。
過去の事例では友人から借り受けたバイクをネットオークションに出品した、盗んだバイクのシートや風防をフリマアプリに出品したというケースもあります。
国内で出品・売却された商品が国内で使用されるだけでなく、ブローカーが落札・購入して海外に輸出されるケースも予想されます。
この方法であれば、わざわざ逮捕・刑罰のリスクを伴う窃盗よりも安全に「商品」を仕入れることが可能です。
いずれにしても、盗難被害に遭ったバイクがただちに海外へと持ち出されていると考えるのは早計でしょう。
「どうせ海外だ」とあきらめてしまうのではなく、ネット全盛時代の今だからこそ、ネットから情報を拾って追跡することできるケースもあります。
万が一バイクが盗まれたら「3つの行動」を取るべし!
バイクが盗まれたとき、とるべき行動は次の3つです。
ここで挙げるのはすべて「自分にできる行動」なので、愛車を取り戻したいならただちにアクションを起こしましょう。
警察に被害届を提出
まずは管轄の警察署に出向いて被害届を提出しましょう。
警察の被害届の受理は「発生地が管轄する」のが基本です。
自宅と盗難場所の管轄が異なる場合は、盗難場所を管轄する警察署への届出をおすすめします。
管轄外の警察署でも受理は可能ですが、被害届を管轄警察署に移牒する時間のロスを考えれば、少し手間をかけてでも管轄の警察署に届け出ましょう。
バイク盗難の被害届を提出する際にはグッドライダー登録番号と車台番号もあわせて報告する必要があります。
「自宅に帰らないとわからない」という場合は、まず警察署で届出をして、帰宅後に電話で詳しい情報を伝えるようにするのがベストです。
税関に通報する
海外輸出を警戒するなら税関への通報も有効です。
税関は「盗難被害に遭ったら警察だけでなく税関にも通報を」と呼びかけているので、水際対策による発見が期待できます。
インターネットを使った通報が可能なので「ご意見・ご要望」の欄に詳しい情報を記載しましょう。
必要な情報は警察への届出と同じです。
メーカー・車名・車台番号・塗色・年式・グッドライダー登録番号のほかにも、バイクに詳しい人ではなくてもわかりやすい特徴を沿えておくと発見率が高まります。
SNS・インターネットの活用
警察・税関への届出を済ませても、待っているだけでは解決が遅くなります。
先ほど紹介したように、SNSでの拡散から発見、犯人逮捕といったケースも存在するので、有効な方法であることは間違いありません。
バイクやパーツのわかりやすい特徴をとらえた画像とともに「シェア希望」「拡散してください」といったコメントを沿えて投稿すれば、発見される確率は高まります。
主要なインターネットオークション・フリマアプリには、キーワードを入力しておくことで新たな出品を通知する「出品アラート」も備わっているので、チェックを欠かさないようにしましょう。
盗難品が出品されている危険にも注意を!
インターネットオークションやフリマアプリには、お目当てのバイクやパーツが驚くほど安い価格で出品されていることがあります。
しかし、最近の事情を考えれば、悪意のある出品者が混在している危険にも注意を払うべきでしょう。
あなたが「これは掘り出しモノだ!」と喜んで落札・購入したバイクやパーツは盗難品かもしれません。
バイク本体のように高額の商品であれば、SNSでハッシュタグをつけて検索し、出品されている商品が盗難品ではないかをチェックしたほうが賢明です。
あとで盗難品だと判明した場合は、証拠品として警察に押収されてしまう恐れが高いでしょう。
オークションサイトやフリマアプリの運営者は支払った代金を補償してくれないので、犯人が請求に応じてくれない限り、損害を被るのは購入者です。
がっかりしたうえに失ったお金も戻ってこないといった最悪の事態を防ぐためには「すぐポチる」というクセを改めたほうがよいのかもしれません。
レポート●鷹橋 公宣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。