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このコロナ禍で、趣味としても日常の移動用ツールとしても、ソーシャルディスタンスを保てるバイクは大人気……なのですが、その一方でコロナ騒ぎがはじまった2020年春から約1年もの間、バイクの新車は品薄状態が続いています。正規ディーラーで注文を入れても、人気車種だと「恐らく半年待ちですね」とか、「すいません、入荷完全未定です」なんてことも。「バイクを売るバイク屋にバイクがない」ってどういうこと? そしてユーザーができる対処とは? 「新車がない問題」を考えます!
社会全体とバイク業界固有の事情でダブルパンチ
そもそも、なぜ2021年春現在、日本ではバイクの新車が不足した状態が続いているのでしょうか?
その大きな要因となっているのが、海運業のコンテナ不足です。これはバイク業界だけでなく、世界経済としての大問題。一般的には、コロナ禍によりいわゆる「巣ごもり需要」が世界的に高まったことや、コロナも影響した港湾の人手不足で荷揚げ作業が滞っていることが、主な要因とされています。
そこに加えて、専門家によると「影響は限定的」とされてはいるものの、2021年3月にはスエズ運河で大型コンテナ船が座礁して一時400隻以上の船が足止めされるなどのトラブルも発生しています。
現在、バイクの生産と販売はグローバル化が進み、日本で販売されている日本メーカーのバイクにも、海外工場で組み立てられて日本へ送られ、正規国内モデルとして扱われる車種がたくさんあります。
バイクの場合は、梱包されてコンテナに積まれて運ばれることが一般的なので、コンテナがないと車両を運ぶことができません。もちろん海外メーカーのバイクは、日本以外にある工場で生産されるので、すべて完成車両として日本に上陸。同じく、コンテナがないとバイクを運べないのです。
ちなみに、世間ではわかりやすく「コンテナ不足」と表現されていますが、これは単にコンテナだけが不足しているという意味ではないようです。ある港湾ではコンテナがあるのに船がない……という、逆パターンも発生。海運業は、全世界で緻密なパズルを解くように効率を高める仕事ですが、コロナによりその方程式が一度完全に崩れ、現在もその修復が終わっていないというのが実情のようです。
まあ、大型貨物船は何十日もかけて世界の国々を往来するものですし、コストの問題から空荷で動かすわけにもいきませんから、「おい、あっちの港にコンテナいっぱいあって船はないから、向こうに移動するぞ」なんてわけにもいきませんしね。
さらに、海外生産モデルに関しては、各国のコロナ感染に関する事情も影響します。2021年5月2日現在、インドでは感染者数が絶望的に多い状態が続いていて、タイでも増加傾向で制限強化。マレーシアでも厳しい措置が続いています。
コロナの影響で工場の稼働時間などが制約されれば、当然ながら生産台数は減り、これによりさらに入荷が遅れる……ということになるのです。
国内生産モデルのバイクなら手に入る……は甘い考え
と、ここで思いつくのは「国内で生産しているバイクは海運の停滞と関係なく出荷されるから、すぐに買えるのでは?」ということ。しかし、残念ながらそれも甘い考えです。国内生産といっても、エンジンなどを海外工場で製造して、それらを日本の工場で最終的に組み立てている車種もあり、その場合は同じように海運におけるコンテナ不足が影響します。あるいは、ほぼイチから国内で組み立てている車種でも、部品の多くは海外生産……なんてことも多々あります。
ちなみに、2020年春にコロナがヨーロッパで猛威を振るいはじめた時期には、まだ海運はそれほど影響を受けずにいましたが、コロナの影響でブレンボなどの工場が一時閉鎖され、その影響でイタリアの高級メーカー・ブレンボ製のブレーキシステムを使う国内外バイクメーカーの生産に影響が発生したこともあったようです。
さらに現在は、半導体不足も世界で大問題。こちらも、コロナ禍により家庭で使用するノートパソコンやゲーム機の消費が伸びたこと、自動車関連での需要増、世界的な工場不足……など、原因は多重的とされています。バイクも、現在は高度な電子制御を使用する車種が増え、半導体不足の影響も受けるのです。
とまあ、バイクの新車がなかなか入荷しない理由はさまざまで、なおかつ知れば知るほど、個人やディーラー、いやメーカーですらどうにもできないことばかり……。ですが、やっぱり「早く愛車を手に入れたい!」という気持ちが弱まるわけではありません。では、このコロナ禍でバイクを早く手に入れるなら、ユーザーにはどんな方法があるのでしょう?
気長に待つか「いまソコにあるバイク」を狙うか
ほとんどのユーザーは、愛車を手に入れるときには「指名買い」。つまり、「このバイクのこの仕様のこの色が欲しい!」と狙い撃ちするはずです。それが新車の場合、まずはとにかくその車種の入荷状況について調べることが大切。近くのディーラーやバイクショップを一度訪ねて、状況を聞くのが手っ取り早いかもしれません。
その結果、もしも入荷までそれほど時間がかからないという返答ならラッキー。もしも、自分が望む仕様や色は入荷まで時間はかかるけど、それらを変更すれば早くなるなんて場合は、それで自分が納得できるなら予約、そうでないなら長期の待ちを覚悟する……ということになるでしょう。いずれにしても、予約は基本的に先着順なので、早めの決断が必要です。
ただしこれは、どうしても近くの(あるいはこれまで付き合いのある)ショップでバイクを買いたい場合。購入するショップにこだわりがないなら、バイク販売情報サイトを一度検索してみるのもオススメです。正規ディーラーや大型店舗には、展示車両として新車を在庫していることが多々あります。「A店では入荷まで2ヵ月待ちと言われたのに、B店には在庫が!」なんて場合もあるのです。中古車の場合、「他店で購入した旧型車をディーラーに持ち込んだら、整備を断られた……」なんて話を近年よく聞きますが、新車ならそういうことはまずないはず。少なくとも、保証は全国どこのディーラーでも受けられます。
買うのが50ccなのに家から100km離れた他県で……なんていうのはあまりオススメしませんが、もうちょっと大きなバイクなら、家から数百km離れたショップで購入した場合でも、通販ではなく自分で訪ねて納車。慣らし運転を兼ねてのんびり帰宅すれば、それはそれで楽しいツーリングになることでしょう。
しかしこのコロナ禍、そううまくいくことばかりではありません。現在の日本には、バイクを販売しているディーラーのスタッフでさえ「いつ日本に入荷するか完全に不明」なんていう、全国どこにも存在しないけど「発売開始日」は過ぎている車種もあるのです。このような場合、対処方法は言うまでもなく「とにかく早めに予約を入れて気長に待つ」か「購入する車種を変更する」か、あるいはすでに愛車を持っているなら「状況が落ち着くまで乗り替え時期をずらす」しかありません。
さらに、このような状況から日本での年間販売台数を制限している車種もあり、「デリバリーは開始されているけど、すでに今年の予約は終了」なんて車種も……。このような場合、その車種をどうしても欲しいならディーラーなどの店頭新車在庫を探すしかありません。
いずれにせよ、このコロナ禍でバイクの新車は争奪戦。これに呼応して、中古車価格も高年式モデルを中心に高騰する傾向にあります。まさかコロナ禍により、ユーザーに「賢い愛車選びと購入方法」が求められるなんてねえ……。
レポート●田宮 徹 写真●ホンダ/スズキ/ヤマハ/カワサキ/モーサイ編集部 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実