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「すり抜け」とは法律には出てこない通称。違反の可能性を多くはらむグレーな行為

通勤・通学、ツーリングの際、バイクですり抜けをする人、全くしない人、時々する人など、様々だと思います。しかし、すり抜けはして良いのか悪いのか、正直なところわからないまま行っている人がほとんどではないでしょうか。
では、実際に白バイ隊員はすり抜けをどの様に捉えているのか、すり抜けは違法なのか合法なのか、元白バイ隊員として解説したいと思います。
<1>すり抜けとは?
「すり抜け」とは、通称であって、様々な行為を総称してすり抜けと言われています。すり抜けで連想するのは、車と車の透き間を走る、または歩道の縁石と車の間を走る、もしくは車と車の間を縫うように走る行為だと思います。走り方により、すり抜けは違反となったり、違反とならなかったりしますが、その判断の難しさから、すり抜け行為は法的にグレーなものと認知されています。
<2>違反にならないすり抜けはある?
では、違反にならないすり抜けとはどのようなものでしょうか? まずは、違法にならないすり抜けを簡単に説明すると、道路交通法第28条各項に明記されている「追い越しの方法等について」に従って走行すれば違反になりません。でも、これでは説明が足りないと感じるでしょう。正しい追い越し方法をベースにすり抜け行為時の違反を説明すると、わかりにくくなってしまうのです。そこで視点を変えて、すり抜けをすることで起こり得る違反について説明します。
<3>すり抜け時に生じる問題
すり抜けをすると、以下に挙げるような様々な違反の可能性が生じます。
⑴ 指定通行区分違反
⑵ 進路変更禁止違反
⑶ 右左折方法違反
⑷ 通行帯違反
⑸ 割り込み違反
⑹ 合図不履行
⑺ 信号無視
⑻ 車間距離不保持
などです。
しかし、これらの内容は、ライダー自身が違反の認識がないままに行っている可能性があります。
<4>違反に抵触しない完璧なすり抜けは、ほぼ無理
つまり道路交通法に抵触せずに「すり抜け」することは、かなり厳しいと思います。渋滞している車両間をすり抜けて行くバイクのほとんどが、ウインカーを出さずに進路を変更したり(合図不履行)、進路を変更したかと思えば車両の間に割り込み(割り込み違反)を行ったりします。
また、当たり前のように行われているのが、前方信号灯火が赤色なのに停止線を通り越して停まったり、ひどい場合は横断歩道上や横断歩道を越えて交差点内で停止するバイクもいます。ちなみに、停止線を大きく越えて停まる場合は、厳密に言えば信号無視となります。
さらに、路側帯や歩道上を走行(通行区分違反)して、歩行者や自転車を巻き込んでしまう可能性があるすり抜けを行なっているバイクもいます。つまり、すり抜けをしているバイクのほとんどが、道路交通法に抵触する可能性が高いのです。
<5>首都高での渋滞時のすり抜け
では、首都高や高速道路上でのすり抜け行為は、どのような扱いになるのでしょうか。
よく関東圏で生活をしているライダーさんから「首都高でのすり抜けは違反なの?」と質問されますが、首都高に限らず、前に挙げた違反に触れる走行をすればもちろん違反です。また、バイクのみに設けられた特例はないので、厳密に言えば車と同様に運転して下さいとしか言えません。
時折、高速道路に設けられた路側帯をバイクが走行しているシーンを目撃することがありますが、決してバイク用の通行帯ではないので、この通行帯を走行すれば、当然違反として検挙される可能性があるので注意が必要です。
<6> 警察は取締りはしていないの?
もちろん警察も、すり抜け行為が何らかの違反に抵触する場合は、違反として検挙しています。私も現役白バイ隊員時代はすり抜けで違反をするバイクを検挙していました。しかし、取締りを行なっていても、渋滞する車両の間隔が狭くて物理的に追いかけられない、他の一般車両の事故を誘発してしまう等の理由で追尾できない状況は多々ありました。
よく、バイクですり抜けをしても捕まらなかったというライダーの声も多く聞きますが、たまたま、違反行為中に警察官が現認していないだけであって、実際にはすり抜け行為にかかる違反を重点的に取締りをしていることもあります。
そのためある日突然、日常的に行なっていたすり抜けで、違反として検挙される可能性もあるのです。
<7>すり抜けのリスク
そして実際、すり抜けには多くのリスクがあります。
車と車の間など、幅の狭い場所をけっこうな速度で走行していくバイクをよく見かけます。通勤、通学などで先を急ぐ気持ちはわかりますが、仮に車が車線変更をしたり幅寄せをした場合に、回避できずに衝突するリスクを考えると、恐ろしいものがあります。特に雨の日のすり抜けは視界も悪く、道路のライン上は濡れていると極端に滑りやすくなるので、転倒、他の車両への接触等の恐れが高くなります。
何より、雨などの悪天候時は、車の運転手からはバイクの姿はほぼ見えていませんし、バイクは車の運転手の視界に入りにくい上、特に大型トラック等の大きな車両だとバイクの発見が遅れ大きな事故に繋がる場合もあります。また、仮に事故となった際は多くの時間が取られてしまうことと、車とバイクとの衝突では圧倒的にバイク側が怪我をするリスクが高いことは言うまでもありません。
過去に警察から取締りを受けなかったから大丈夫、今まで事故を起こしたことはないから大丈夫という方もいるかもしれませんが、すり抜け行為は、それ相応のリスクがあることを頭の片隅に入れておくことが大切です。
市街地から首都高まで、街のライダーの【すり抜け】を編集部がチェック!








元白バイ隊員から、一般ライダー目線でアドバイスできること
前段のお話は、割と正攻法に解説しましたが、ここからはもう少しぶっちゃけてアドバイスさせてもらいます。
「すり抜け」をしているライダーで、検挙される可能性が非常に高いライダーの走りですが、渋滞中の車の前後をジグザクに縫って走行したり、反対車線を逆走するなど、誰が見ても明らかな走りを現認した場合は、違反として検挙しておりました。
一方で、検挙されにくい例としては、黙認というわけではありませんが、通勤通学時間帯などで車やバイクがたくさん走行している場合などは、すり抜けするバイクに対して追尾や停止措置を行うことが物理的に出来ない場合がありました。また、すり抜け時にラインを若干踏む程度では、停止は求めていませんでした。
また、違反切符を切られにくいすり抜けの状況としては、例えば車線をまたがないで追い抜きを適切に行えば、当然違反切符は切りません。そのほか、歩道が設置されている道路で、車両と歩道縁石の間を走行している場合は、路側帯通行とならないので違反切符を切られる危険性は少なくなります。
車両と車両の間を無理やり縫って走行してすり抜けする場合と、真っ直ぐスーッと走り抜けていくすり抜けでは、格段に真っ直ぐにスーッと走り抜けていく方が違反として切符を切られるリスクが低くなります(他の車両への通行妨害等が生じにくいため)。
そして、「今では一般ライダーの立場にある筆者は実際にすり抜けをするか?」ですが、すり抜け行為により違反してしまう場合はすり抜けをしませんが、違反に抵触しない「追い抜き」となる場合、ある程度バイクの走行ラインが確保されている広い幅員の道路の場合は、すり抜けをして走行する場合もあります。
車のように車幅がなく、渋滞を避けやすいのはバイクのメリットですし、その機動力を活かしたいと思うのは、バイク乗りの心情だと思いますが、その度に違反切符を切られていては元も子もありません。リスクも違反も回避し、渋滞でもスマートなライディングでバイクを楽しんでいきましょう。

文●睦良田 俊彦 写真&写真説明●モーサイ編集部
睦良田 俊彦(むらた・としひこ)1986年北海道生まれ
趣味:クルマ、バイク
歯科技工士を経て警察官となり、約15年間勤務(白バイ隊員歴約10年)。
警察学校卒業後は約3年半の交番勤務を経て交通部門へ。白バイ警察官として第一線で交通取締りをメインに活動し、ライダーのための安全講習、交通安全啓発イベント、マラソン大会先導、大統領車列先導など、様々な経験を重ねてきた。
県警主催白バイ大会での優勝経験もあり、白バイ新隊員の育成などにも携わった後、巡査部長の階級で依願退職。現在は退職後の夢でもあったライディングレッスンなど、ライダーのためになる活動が出来る場を作るべくYouTuber「臨時駐車場チャンネル」として活動。バイクイベント等に積極的に参加し、出身の北海道で開催のライディングレッスンで講師も務めている。












































