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実燃費の計測でおなじみだった「満タン法」だが……
エンジンを使った乗り物における経済性を示す指標のひとつが燃費(燃料消費率)だ。
「km/L」という単位は、「1リットルの燃料で何キロメートル走行できるか(走行したか)」を表すもので、この数字が大きいほど同じ距離を走るのに必要な燃料が少量で済むということであり、燃費が良いことは経済性に優れていると理解できるわけだ。
そんな燃費について、カタログ値を信じている人は少なかろう。四輪でいえばWLTCモード(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)、二輪ではWMTCモード(World Motorcycle Test Cycle)が最新の燃費測定モードとなっているが、いずれにも特定の条件下における燃費を示すものであって、どんな条件でも燃料消費量が一定のわけではない。
考えてみれば当然で、四輪でいえばエアコンを使えば燃費の悪化要因となるし、二輪でもWMTCモードは基本的に一名乗車で計測するためにタンデムライドするとモード値より燃費が悪くなることが多いのは容易に想像できる。
というわけで、現実の使用シーンでの「実燃費」を気にするときに役立つのが、メーター内に表示される燃費計のデータだ。
そうはいっても、燃費といえば燃料タンクを満タンにしてから走り出し、次に満タンにしたときに入った燃料とそこまでの走行距離から計算する方法(通称:満タン法)で導き出すことに慣れている世代からすると、メーターの燃費表示は信用できないという声もある。
実際、満タン法で計算した数値とメーター表示の燃費表示にズレがあるという主張を目にすることもある。しかし、メーターの燃費表示の仕組みを知れば、満タン法を信じるという前提が間違っていることに気付くはずだ。
メーター表示の燃費はインジェクションの様々なデータから算出されている
シンプルに整理するとメーターの燃費表示は、インジェクションを採用しているエンジンにおいては、インジェクターの噴射量と速度×時間(走行距離)から計算されている。
ご存知のように、インジェクター制御の仕組みというのはエンジン回転数やスロットル開度、変速比や負荷などを基本に、外気温や吸気温などを補正値として用いつつ、排ガス浄化装置に関するフィードバックを含めて、極めて短い時間ごとに燃料噴射量(開弁率)を演算している。
排ガス規制が厳しい現代において、燃料噴射量が厳密に管理されているのは言うまでなく、かなり高い精度が期待できる仕組みといえる。そうしてリアルタイムに消費した燃料と走行距離をベースに瞬間燃費を表示している。その数値を積み上げることで区間燃費を導き出すというのが大まかな計算方法だ。
ただし、メーター表示の燃費が完全に正確とは言い難い部分もある。そもそも速度表示が大きめに表示されるような設計になっている場合や、タイヤの消耗や管理によって外径が変わるっている場合など、速度(距離)についての数値にズレはあり得るからだ。
ガソリンスタンドの機器、車体の傾きによる差も満タン法は影響を受ける
こうした話をすると「やっぱり満タン法のほうが正確じゃないのか?」と思いたくなるかもしれないが、そもそもオドメーターのズレというのは満タン法でも避けられない要素である。まして、常に同条件で満タンにすることは不可能に近い。
燃費を競うモータースポーツのようにメスシリンダーを使って燃料を計測するような仕組みであるならまだしも、街中のガソリンスタンドの給油装置を利用している限りは、そうした精度は期待できない。
たとえばガソリンスタンドの路面が傾いていれば、自動ストップ機能の作動するポイントもズレるだろう。筆者の経験でいえば、同じガソリンスタンドの同じ機械であっても、車両の向きを変えるだけで自動ストップ機能の作動ポイントが変わったこともあった。
自動ストップ機能自体がノズル先端の穴を燃料が塞いだかどうかで検知しているという仕組みからすると、そこまでの精度を求めるのは酷だろう。
キャブレターのエンジンではリアルタイムの燃料噴射量はわからないため燃費を知るには満タン法しかないともいえるが、電子制御インジェクションのエンジンであれば、少ない誤差でリアルタイムの燃費を示すのが、いまどきのメーターといえる。不確定要素の多い満タン法よりも精度が高いと考えるのが妥当だ。
なお、航続可能距離については、非常に甘い計算をしている印象があるだろう。航続可能距離が0kmになってからもまだまだ走行可能になっていることも多い。このあたりは、燃料残量のエンプティ表示と同じく、ガス欠による危険性を考慮して早めに給油するよう促すような設計になっていると理解すべきだろう。
レポート●山本晋也 編集●上野茂岐