2024年のマン島TTレースは悪天候によってレーススケジュールが遅れ、山中正之選手がカワサキ ER-6fで出場するスーパーツインTT(2気筒650㏄)レース2は、6月7日に行われる予定だったが、翌8日に変更された。さらにレーススケジュールが過密になったため、本来は3周で行われるレースは2周へ短縮しての開催だった。




そしてレースは2周目にクラッシュが発生して赤旗中断し、1周目のタイムがそのまま結果となった。スターティングリストは61台。40番手で出走した山中選手は、1周目のコントロールラインを35番手で通過しており、35位完走となった。タイムは20分56秒100、平均速度は108.135mph(約174.1km/h)で、惜しくもブロンズレプリカには届かなかった。
「レースが2周しかないので、1周目からがんばろうと思ってました。いつもは1周目は慎重になるのでタイムが伸びないのですけど、20分台には入れておこうと。調子よく走れましたし、その目標は達成できました」
TT勝利数の新記録を打ち立てたマイケル・ダンロップ選手がこのレースでも好調を見せたこともあり、山中選手は彼のタイムの110%以内に入ることができなかったのだ。
「2周目はひとつ抜かれたのですが、そのライダーについていくことができたので、ストレートではスリップストリームを使えましたし、いい感じに走れていました。けれどカークマイケル(※コース中盤にさしかかるあたり)に入ったところで赤旗が出てストップしました。1周半しか走れなかったことに悔しさはありますが、停車中はクラッシュした選手のことが心配でしたし、悔しさばかり感じてもいられません。仕方ないことですし、これがレースです」
そのとき、もちろんピットにも赤旗中断の知らせは入り、クラッシュ現場の位置から考えると山中選手の可能性も考えられた。固唾をのみながら山中選手の無事を願うなか、チーム監督のイアン・ロッカーさんの携帯電話に山中選手から無事の一報が入り、一同は胸を撫で下ろした。しかし山中選手が話したように、クラッシュしたライダーのことを考えると心中は複雑だ。
「もともとレースが2周しかなかったですし、それが1周半で終わってしまったこともあって、走り切ったという気持ちにはなれないです。でも、できることはぜんぶやったし、それがうまくいきました。また来年、チャレンジするだけです」

予選のレポートでも書いたように、山中選手は5月17日にマン島入りし、コースをクルマで毎日数周走り込み、その距離は2000マイル(約3220km)を超えたという。
「人生を懸ける意味があるレースはマン島TTしかないと思っています。生きている限り、TTにチャレンジし続けるだけです。その先のことは考えていません」
2024年のマン島TTレース。山中選手はスーパーツインTTに出場して2レースを完走した。レースはタイムという明確な数字があるだけに、その結果は客観的に評価される。しかしタイムだけがレースの結果でもないともやはり事実である。ひとつのミスが大事故に直結するこのレースで、スーパーツインにアジャストした走り方を研究し、その成果を出した。そして何より、自分自身の弱さと強さと対峙することで成長できたはずである。
今年で56歳を迎えた山中選手だが、マン島TTレースへの挑戦に終わりはない。そして人は年齢を問わず大きく強く、そして人生をよりよく生きるために挑み続けられることを見せてくれた。2025年もマン島TTを走る彼の姿を見られることだろう。



レポート&写真●山下 剛 編集●上野茂岐
山中正之選手【マン島TTレース2024】スーパーツインTT予選レポート
山中正之選手【マン島TTレース2024】スーパーツインTT決勝レース1は31位完走!
山中正之選手「マン島TTレースチャレンジサイト 」