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17年連続チャンピオン!トニー・ボウ選手の走りを観に行こう
今週末、5月18〜19日に「モビリティリゾートもてぎ」で開催される、世界選手権トライアル日本GPはシリーズ開幕戦だ(開幕戦が日本で行われるのは初)。シーズン初戦は言わばどのライダーも、今シーズンに向けた仕上がりや動向を確認するための参戦ということになる。そういった手探りの状況の中で、優勝最有力候補と思われるのが、トライアル界の超絶チャンピオンであるRepsol Honda Teamのトニー・ボウだ。
何しろボウは昨年2023年までで、インドア、アウトドアの世界選手権で17連覇・34タイトル獲得を達成した最強のトライアルライダーだ。この記録は二輪モータースポーツの中でも前人未到の最多タイトル獲得記録。そのテクニックとフィジカルによるパフォーマンスは文字通り他の追従を許さないもので、ボウはスポーツのジャンルを超えた人類史上最強のアスリートのひとりであると言っても良い。
そのボウが18連覇をかけて挑む2024年シーズンの開幕戦もてぎ、その見どころを元ボウのチームメイトで、現在はRepsol Honda Teamチームを指揮する“フジガス”こと藤波貴久監督に聞いてみた(藤波監督は日本人唯一のトライアル世界チャンピオンでもある)。そのポイントは以下の3つだ。

その1「ボウのテクニックのレベルの高さを知るには、後輪の当たる位置を見よ」
トライアル競技の華のひとつは高い壁を一気に上がるステアケース(段差越え)や、それらが連続する急峻な崖のぼりにある。ここでは、エンジンの瞬発力とサスペンションの反動をフルに使って飛び上がるのだが、基本的に高く飛べるほどその後の動作が有利になる。
ボウが他のライダーより飛び抜けているのはその高さにあり、一発目に飛んだ時に壁に対して後輪の当たる位置が誰よりも高いのだ。併せてサスペンションの反力を最大限に使うため、飛ぶ瞬間にフロントサスペンションを縮めるためにフロントアップするという動作も確かめたい。

その2「4ストマシンと2ストマシンの違いは、極低速からの加速に現れる」
ボウとそのチームメイト、ガブリエル・マルセリが乗るマシンは、HRCとモンテッサホンダが共同で開発したファクトリーマシン「モンテッサCOTA 4RT」で、トライアル世界選手権では唯一の4ストロークエンジンを搭載している。他の2ストロークマシンと比べると、アイドリング付近の低回転化とトラクション確保の面で有利。
極低速の走行スピードは2ストローク勢より一段と低いため、その分だけバランスのキープや体勢の立て直しには有利だ。また、以前は、4ストロークは重量面で不利とされていたが、現在は高度な作り込みによってほぼ重量差は解消されており、ごく低速から一気に加速する特性は、我々のイメージする4ストロークとは違って、かなり素早いのである。

その3「勝負どころの可能性があるのは、藤波監督がいるセクションだ」
競技中のライダーにはそれぞれリマインダーというサポート要員が付いており、トライ直前のライダーにラインや路面コンディションなど細かな指示を出す。では、その時に監督は何をしているかというと、多くの場合はライダーの先回りをして、次に行くセクションなどでの他ライダーの走りを録画するなどして、それを基にセクション攻略法を考えてライダーにアドバイスを行うのだ。
したがって、ボウがトライしようとするセクションに監督はほとんどいないことになるが、難易度が高い、あるいはコンディションが極端に悪いなどで、その日の競技の明暗を分けると思われるセクションには張り付くという。つまり、藤波監督がボウのトライに立ち会っているセクションは、その日の最重要セクションということになり、場合によって超絶なトライや大逆転劇が見られるかもしれない。
1986年生まれのボウは今年38歳になろうとしているが、そのフィジカルやメンタルにはまだ衰えが見えない。「30歳代後半なのに体力的には現状維持どころか、右肩上がりに思える」と藤波監督も驚嘆する。何しろ、フィジカルトレーニングをしていても、運動機能がそれまでの自分のアベレージを下回らないよう常に意識しているし、今でも新しいテクニックを習得することに意欲を燃やしているそうそうだ。
ボウが自転車トライアルから持ち込んで完成させたテクニックに、前輪を持ち上げたまま後輪だけでセクションを飛び回る「ダニエル」というテクニックがある。今では誰もが使う技だが、ボウのそれは飛び抜けて正確無比であり飛距離も長い。そのためか、彼の上腕は大人の太腿ほどに太いのだから驚く。
アウトドアの世界選手権に先駆けて開幕したインドア選手権(スタジアムトライアル)では7戦中4戦を終え(残り3戦はアウトドアシリーズ終了後となる)、ボウは2番手のマルセリに31ポイントの大差をつけて首位独走中。今回のアウトドア開幕戦のもてぎでも活躍することだろう。SNSなどにアップされている、ボウの練習風景やインドアでの超絶技巧などを見れば、彼が超人レベルにいることも理解できるはずだ。その走りを直に観ることができる、もてぎでの開幕戦は大きなチャンスであり、実はとても価値があることなのだ。

レポート●関谷守正 写真●ホンダ 編集●上野茂岐
FIMトライアル世界選手権第1戦「日本グランプリ」
https://www.mr-motegi.jp/wctrial/
チケット購入は鈴鹿サーキット・モビリティリゾートもてぎ公式オンランショップ「モビリティステーション」と、セブンイレブンにて販売中。
「モビリティステーション」では当日購入も可能。
セブンイレブンでの店頭販売は5月16日(木)23時59分まで。