■あまりかさばらず、それでも長旅にちょっと頼もしそうなミニアドベンチャー感が出てきたように思えるリヤビューです。車重の増加は軽量なエンジンガード程度で、あまり大きく増やさずに済みました。
「自力で戻る」ためのガス欠対策を
こんにちは。カメラマンの小見です。
前回記事の特製エンジンガード(バンパー)で念願の偵察部隊仕様っぽくなったKLX125。これで対クラッシュ改良として、フォグの保護やエンジンの横部分の保護に寄与してくれそうな部品が出来上がりました。
このバイクに熱を上げて改造を続ける理由としてあるのが……投入すべき四国の愛媛県と高知県の境で開催されている自転車山岳レース「松野四万十バイクレース」のオフィシャルカメラとしての掟があります。
「必ず自力で山から戻ってくること」──これが鉄則なのです。
故障があろうと、コケようと、ガス欠になりそうであろうとも、自力で戻ってゴールまで撮影を継続しなければなりません。
さて、この3つ目のガス欠。レースルート途中にはガソリン補給のできるエイドステーションもありますが……レース撮影の展開次第で追い上げにスパートをかけていたら、そこもすっ飛ばしてしまうかもしれません。また、コケて燃料が万一漏れたりしたら、たとえ燃費の良いKLX125でもガソリンが足りなくなるかも。レース撮影中は何が起きるか分からないと考えていた方がいいと思うのです。
■狩野社長のイーハトーブはサイドカバーをアルミの叩き出しで自作していたり、燃料タンクホルダー増設していたり、工夫が面白いんです。別に所有しているVストローム650にもあちこち手を加えています。
■こちらもイーハトーブのリヤキャリア。シート幅や長さも現物合わせでスマートにできています。
■工具専門店で買ってきた燃料タンク。これに合わせてホルダーのバンド製作から取り掛かります。クッション材の厚みは劣化まで考えて、それなりに厚みのあるものを採用。
■パチンとロックする金具の位置を何度も試してから点付け溶接。薄板と細かい部材の溶接ゆえTIG溶接でほんの少し付けては修正の繰り返し。
■これなら少々のことでタンクが外れないだろうという位置が決まるまで修正の連続です。
■クッション材込みでこのテンション、ここで決定!と溶接したところ。
■ステーの製作に取り掛かります。8mm径のステンレス棒を程よい長さでカット。
1Lの予備燃料タンクがあれば、計算上は大丈夫なはず
さて、日頃溶接でお世話になっている狩野溶接でありますが、そちらの代表である狩野敏也氏は昔からのバイク大好き人間。所有する数台の中の一台イーハトーブにも各種改良を加え、渓流釣りや山散策に振った部品を自作して組み付け、バイクライフを楽しんでいるという御仁です。
氏のイーハトーブにいつの間にかガソリン携行タンク用の洒落たホルダーが付けられていたのに目を付けていた私。上記松野四万十の取材にあたって、私もぜひその携行タンク用のホルダーの製作をお願いしたいと考え、ご多忙な日々の合間にKLX用のタンクホルダーを製作していただきました。
KLX125は平地の舗装路では45km/Lほども走れるのですが、急傾斜の林道や空転率の高い赤土ぬかるみセクションでは流石に燃費も落ちるでしょう。とはいえ最悪想定でも35km/Lは走れるはずなので、レースルートで一番きつく長丁場の林道の入り口でガソリンが足りなくなったとしても、この携行タンクから1Lのガソリンを補給すれば、給油の可能な地点まで戻ってくることができるはず。
最もハードなクラスでは、いちど通った林道をラストにもういちど回るという激しさで、全部で5つの林道をつなぐコースになっています。そのあたりのコースによる撮影の段取りや、レース展開次第でどのあたりの集団を狙うかで、KLXの走行ペースのコントロールもしながらレース場面を撮らなくてはなりません。
人間離れしたトップグループを先行しながら撮ろうとしたら、こちらもペースアップして先回りしなければ彼らを前から撮影することができません。(レース中の重要林道セクションでは一般車は封鎖状態になっています)
そんな理由もあって、レース中にはKLXの燃料の心配を極力減らしたいと願っていました。
■何やら、丁度使えそうな位置にプレートがあり6mm径の穴が空いています。ここを使います。
■ステー取り付け部となる板材をボルト留めして、8mm材との接続に備えるところ。
■サイドカバー下端までの逃げのため、棒材を下に向けて点付けで仮留め。
■キャリア取り付け部からもプレートを出して、先に仮留めした棒材との接続を試してみます。サイドカバーをいったん取り付けて干渉の具合も同時にチェックしているところですね。
■再びサイドカバーを外し、斜め部分を並行に2本並べてホルダーを付ける部分を構成。下側はこの位置ならサイドカバーに干渉せずにホルダーを下まで持っていけると判断。
■ボトルの下側を支えるステーも棒材で構成。燃料ボトルがスコッとハマった終点がここ。
■余った部分はこの段階でサクサク切り落としてしまいます。
■ヘルメットホルダーの位置から、どんな感じでステーが構成されたか分かりますか?
■ホルダー以外のステーの全体像が、こんな感じです。これに肉盛りしたり削ったり、ですね。
8mm径のステンレス棒でホルダーを制作
ホルダーの製作にあたっては、部材である8mm径のステンレス棒を私があらかじめ調達して狩野溶接まで届け、後日KLXに乗って工房にうかがい、現物合わせで製作作業に取り掛かることにしました。
狩野さんのイーハトーブの場合は、先に製作した自作キャリアからステーを伸ばしてホルダーを保持するように作られていました。KLXで取り付けるとしたら、右側にはマフラーがあるため、左後部になるでしょう。
どこかステーを生やせるようなところはないかな?と思いつつサイドカバーを外してみると、ヘルメットホルダーの上あたりにねじ止めできそうなステーがあるじゃありませんか!
その部分と、リヤキャリアを取り付けている付近のもう一箇所で斜めにステーを配置して、ホルダーの位置を決めようということになりました。
8mmの細い棒で大丈夫なのかな?と素人目に少々心配になったのですが、ステンレスの8mm棒は思いのほか頑丈で、製作が進むにつれて強固なホルダーになっていきます。剛性感がかなり増したのが、ちょっとばかり意外でした。
燃料タンクを包むバンド部分にロック機構を付ける際には、クッション材を挟んだ状態で強めにタンクを挟み込むよう、ロック部の溶接前に何度も位置調整をしてから点付けの溶接。丈夫です。
出来上がったホルダーに燃料タンクを装着。パッと見ると何故か「NOS」を思い出します。まったくNOSなど積んでいませんが、微妙に特別感が出てきて遠くまで走るマシンといった雰囲気が少し増して嬉しくなってきました。ともかく、これで燃料の件は安心できそうです。
(※編集部から:NOS=Nitrous Oxide Systemで、亜酸化窒素のこと。エンジンにN2Oを追加供給してパワーアップを狙うシステム)
■脱着も考えて、タンクの位置を確認しています。そろそろバンドを付けましょうか。
■バンドの仮留めでTIG溶接のアークが飛ぶ。
■バンドの位置はこれで良さそう。クッション材を挟んでタンクを納めてみます。良い!
■ステーの取り付け部分を再度確認してみます。
■車体から外して各部の本溶接にかかります。バンド部分はもとより、接合部の強度はここで一気に頑丈になります。
■作業台上での完成図。かなり頑丈にできあがりました!
■溶接の熱が冷めるのを待ち、クッション材をバンド内側に仮の状態で貼り付けます。
■車体に取り付け、追加のクッション材から先に貼り付けたところ。
カメラ機材用のトップケースも制作
KLXの改造がある程度進んだので、車体以外ですが、カメラの運搬に必要なトップケースの改造にも取り掛かりました。普段使っているSHAD33という型式のトップケース。内部容積はそこそこで横にあまり出っ張りがないのが個人的にちょうど好ましく思えている製品です。
このSHAD33と全く同じケースで、別銘柄の新品を買った友人が分けてくれたのが手元にあったんです。つまりベース台座がそのまま使えて別仕様を作れるわけです。コレはクッション材を敷き詰めて、林道で走り回っても中身(カメラやレンズ)がすっ飛んで転げ回らないようにできるんじゃなかろうか?と一考。
自分の手持ちの機材トランク=プロテックス社の大型トランク中身のクッション材の仕切りを映像機器の更新で作り替えようと思っていたこともあり、プロテックスに依頼して新品クッション材を新たに補充。余った旧クッション材で切り込みを入れてなかった数枚の層と新品の半分を使用して、SHAD33の内部にぴったり合うようにカット。特製のカメラ機材専用トップケースを作ってみました。
実をいうと、過去の松野四万十バイクレースで柔らかい袋ケースに入れておいたものの、ストロボやレンズがトップケースの中で転げ回り痛めつけてしまったことがあったんですよ。ちゃんと振動&暴動?対策しなくちゃまずいなあと思っていたのです。
■市販のSHADトップケースの内側に敷き詰めるクッション材には、カメラ業界でも定評のあるプロテックス社のクッション材がいいだろうと、既存トランクのクッション材から略奪(?)。
■重ね貼りと外側の削りで時間がかかりましたが、この収まりの良さと防振機能はステキ。メインカメラは特別なベストにホルダーで固定して走ったままなので、このトランクは望遠用ボディに使用。
■実地で使ってみると、レンズフードだけ外せばレンズごとトップケースにすっぽり収まる。ストロボと超広角もこの中に入れておくと自走待ち伏せ的撮影では作業時短に大いに有効。
■同じ形のトップケースが2つあると、普段は携帯品を放り込んだりヘルメットを入れたりしておけます。
取材撮影で役立っています!
こうした改造の数々を検証する機会は、二輪雑誌の編集部仕事のみならず、「モーサイ」と同じ社内にある姉妹誌「サイクルスポーツ」で林道撮影や今時らしいEバイクの同行取材で早々に発揮できました。自動車同行では停めにくい峠道や、狭い場所で待ち構えての撮影、上り坂で先行しておいてシャッターを切る必要のある場面で、これらの装備類は大いに役立ちました。
しばらく延期になっていた松野四万十バイクレース。ここまでKLXを仕上げておけば、コロナが明けて「松野四万十バイクレース」が再開してもきっと大丈夫だろう!そう思っていたのですが、以来、コロナ禍の余波は長引き、いったんは開催しそうだった予定が会議の結果中止になったりで、気がつけば2年近く経っていました。
(次回に続く)
■こちらは、Eバイクとの同行撮影で日光に行った際のスナップです。狭い坂道など、四輪車を撮影のために道端に停めていたら通行の邪魔だし顰蹙を買ってしまいますからね。
レポート&撮影●小見哲彦
取材協力●(有)狩野溶接工業
プロフィール●小見哲彦
無類のバイク好きカメラマン。
大手通信社や新聞社の報道ライダーとしてバイク漬けになった後、写真総合会社にて修行、一流ファッションカメラマン、商品撮影エキスパートのアシスタントを経て独立。神奈川二科展、コダック・スタジオフォトコンテスト等に入選。大手企業の商品広告撮影をしつつも、国内/国外問わず大好きなバイクを撮るように。『モーターサイクリスト』誌ほか多数のバイク雑誌にて撮影。防衛関係の公的機関から、年間写真コンテストの審査員と広報担当人員への写真教育指導を2021年より依頼されている。
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取材協力●(有)狩野溶接工業
http://kano-w.o.oo7.jp/index.html