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都市部では今や日常的に見かける「特定小型原動機付自転車」
運転免許不要で公道上を走ることのできる新カテゴリー「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」が注目されて久しい。
2023年の法改正で特定小型原付が生まれた当初は電動キックボードを対象にした新しいカテゴリーという印象が強かったが、ボディサイズや出力などのレギュレーションにおいてタイヤの数やシートの有無は規定されておらず、自転車のような形状や3輪の特定小型原付も登場してきている。
6km/hの速度リミッターが付いているものは「特例特定小型原付モード」とすることで自転車走行可の歩道であれば走行できる。
しかし、その特徴を活用しようと思うと、自転車や小型バイクのようなスタイルでは低速時の安定性に関して向いていない面もある。また、歩行者との共存性を考えると「電動キックボード」という言葉から想像するような小さなボディがマッチすると言える。
スノーボードやスキーに近い感覚で体重移動するとイイ感じ
ただし、バイク乗りからすると電動キックボードのような立ち乗り系モビリティというのは不安定に感じる面があるだろう。バイクのような「ニーグリップ」はできず、そのために加減速で体を支えるのは腕だけになってしまうのも心許ないかもしれない。
日常的に3輪の特定小型原付「ストリーモ」に乗っており、なおかつ他の電動キックボードの試乗経験もある筆者からすると、そうした心配は無用だと感じる。立ち乗りモビリティは「ヒザで乗る」というイメージを持つべきで、車体をホールドして一体感を求めるのはちょっと違うように思う。
いわゆる電動キックボードと呼ばれる特定小型原付は、基本的に足を前後に置いて乗るわけだが、スノーボードのようなイメージを持ってヒザで体重移動をうまくコントロールすると気持ちよく運転できる印象がある。
電動キックボードの運転に慣れてくると、コーナリングでは頭をイン側に入れるような姿勢を取ることで安定感が出てくることに気付くのではないかと思う。
バイクでもレーサーではライダーを高い位置に座らせることで、ライダーの体重を利用してコーナリング速度を高めるというのは知られているが、電動キックボードもどこか似たようなイメージで乗ることにより、ファン・トゥ・ライドを楽しむことができる。
恐る恐る乗っているよりも、ヒザを曲げるなどの体重移動を積極的に行うほうが安定して走ることができる、というのが電動キックボードに対する筆者の印象だ。
実際、電動キックボードの報道陣向け試乗会でヒザを使って乗っていた時には、直立姿勢で乗っている他の記者よりも明らかにコーナリング速度が高めることができていた実感がある。
開発者にも「楽しそうに乗っていますね」とコメントをいただいた。立ち乗りといっても、まっすぐに立っているというのではなく、体重移動を意識することは楽しさにもつながるのだ。
3輪の「ストリーモ」はバイクのステップワーク的な動きも活用できる
そうしたヒザを使ったライダーの姿勢変化は3輪の特定小型原付「ストリーモ」でも同様だ。足を前後に置く電動キックボードがスノーボード的なイメージだとすれば、足を揃えて乗るストリーモは、スキー的なヒザの動かし方という違いはあるが……。
また、左右の足を並べて乗るカタチの特定小型原付では、バイクのライディングテクニックにおいて基本となる「ステップワーク」的な乗り方も有効と言える。
曲がりたい側の足をステップボードに押し付けるようにしたり、反対にコーナリングの立ち上がりではアウト側の足を押し付けるようにしたりすることで、リズミカルに走ることができる。
このあたりの気持ちよさは、バイクの運転でしっかりとステップワークを習得している上級ライダーであれば、より高度なレベルで味わうことができるだろう。
面白いのはつま先の向きで車体の安定感が変わってくることだ。クルマのタイヤアライメントでは、車体を真上からみたときに進行方向に対してのタイヤ角度を「トー」と言う。大筋でトーを開き気味したトーアウトは曲がりやすく、逆にトーインにすると直進安定性に優れるセッティングになるという特性がある。
3輪モビリティのストリーモにおいても、このトー角を(トーという言葉は本来「つま先」の意味)意識することで車両の挙動が変わってくる。
つま先を開いたトーアウト状態では直進時にフラフラしてしまう傾向があり、つま先をしっかり揃えておくとまっすぐに走りやすい傾向を感じることができる。
結論を言えば、ビギナーにはつま先を揃えた乗り方がオススメと言えるが、慣れてきたらコーナーではあえてトーアウトにして、ステップワークを組み合わせることで気持ちよく曲がれる感触が高まる。
こうしたステップワークは体型や車種によっても変わるだろうが、特定小型原付でもステップワークが活用できるという点は頭に入れておいて損はない。
加減速時の安定性は?
ところで、冒頭で加減速でのホールド性への心配についても記したが、ご存じのように特定小型原付の最高速は20km/hに制限されている。小径タイヤであることからブレーキ性能も推して知るべしというレベルなので、立ち乗りだから加減速で車体から振り落とされそうになる……なんてパフォーマンスは持っていないと言える。
実際、所有しているストリーモで10km/hまでの全開加速を計測してみたが、5秒以上を要するほどだった、
むしろ、加速性能を引き出すために駆動輪に荷重が乗るような荷重移動を意識したり、空気抵抗を減らすような前傾姿勢のポーズをとったりするほうに意識を向けることで、より気持ちよく乗れることだろう。
レポート●山本晋也 写真●LUUP/山本晋也 編集●上野茂岐