目次
■左右にワイヤーを動かしてスロットル操作をする構造。スライドしてワイヤーを引くスロットルヒンジその他の清掃、研磨にも励んでみたが!?
手を離しても戻らないスロットルグリップの謎?
カメラマンの小見です。寒くてもガレージ作業を続けます!
さて、コックあたりのガソリン漏れやブレーキ系へのオイル侵入&劣化の復旧整備、それにチェーンの状況確認と清掃……ここまでを前回までに実施したお隣のセガレ所有「せいちゃんのダックス70号」。
赤サビが少なく作動不能な箇所がなかったのは幸いだったと感じながら、次の課題に取り掛かります。そう、手を離しても戻らないスロットルグリップ!これです。
前回、汚れた状態の右グリップのスライド部材(純正パーツリストではスロットルヒンジ)を分解したところまで写真をお見せしましたが、もっと詳細な部分から説明していきたいと思います。

■先を見越してフォークのオイルシールとスロットルワイヤーをネット通販で購入。

■キャブの頭を外し、さらにスロットルバルブからワイヤーとスプリングを外します。

■キャブからバルブ類他を外して、ワイヤーの先端を見たところ。

■ハンドルの中でワイヤーのアウターを固定するためのホルダー的部材。下側の小ネジがスロットルや円筒状のガイドを一緒に固定するために存在する模様。
巻取り式ではないスロットル形式
この当時のスロットルは巻き取り式の昨今のスロットル形式ではなく(フライバイワイヤーなど想像もしない時代)、ハンドルの内側をグリップ内側に付けられた斜めの溝に連動してスロットルヒンジが内側→外側に移動して、キャブからのワイヤーを引き戻しする構造です。
樹脂部材や軽量な部品を使ったフリクションの少ないスロットル構造と比べて、こちらは擦れる部分の多い形式ゆえに、キャブ側のスロットルバルブに付いているスプリング張力に対するロスが大きそうです。構造的にも、組み付け時の作業的にも、そのロスを減らす努力が必要だと思うんです。
なにしろ大型バイクの4連キャブみたいに強い「戻し力」はありませんからね。
そんなことを頭に浮かべつつ分解したハンドル内のスロットルヒンジやハンドルの切り込み部分を、240番~600番、800番のペーパーを順に使い、せっせと磨いてみました。前回も書きましたがモデルガンマニア諸氏がトリガー周辺や可動部を丹念に研磨するような勢いで。

■アウターから固定部材を外して構造を見ようとしたら、ガッチリ固まっていて、外せない構造のような危うい気配。

■新品のワイヤーがどうせ届くし、ネジが固着したのかカシメ的な固定なのかを見てみようと、半分破壊してアウター固定部を撤去してみた。

■あれ?ネジが固着していたのかもしれませんがガチガチでした。まだ復帰はできます。

■スライドするスロットルヒンジの接触部分をひたすら研磨。ツルツルにしました。

■スロットルヒンジの動く範囲+αをペーパーで磨きまくりです。指を切るようなバリはないですが、慎重に磨いていきます。

■しつこく磨き作業です。
新ワイヤーにもワイヤーインジェクターで低粘度のオイルを
グリスなしで仮組み。
作動具合を見てみると、大変スムースに動きます。これで勝った!と思い、次はワイヤーに取りかかります。
この作業前にいちど現状でテストをしてみます。準備としてスロットルワイヤーの少し変わった取り回し構造を理解するために、なかば破壊する勢いでインナーに注油しました。ハンドル内側に、ハンドル下から小ネジでワイヤーのアウターを固定するために付属されている金具……これを強行的に外さないと、給油のためのワイヤーインジェクターが使いにくかったんです。
そうこうしてハンドル内部でのワイヤー固定の構造を理解したんですが、やはりアウターに曲がり癖や被覆破損があったため、古いワイヤーの再利用はやめようと決定。さあ、通販で届いた純正のスロットルワイヤーに交換です。
組み付ける前に、新品ですが注油しておきます。ともかく抵抗を減らしたいという一念で、粘度の低いオイルを使用します。

■金具がない方が上からの給油はしやすいですね。ワイヤーインジェクターを取り付け、一応給油して作動具合を見ます。

■古いワイヤー、インジェクターの反対側からなんか緑っぽい汚れが出てきました。いかにも古い油分という汚れです。

■右が新品、左が元のワイヤーで金具を復元したものです。古いほうはアウターの一部被覆が切れていて、油分が逃げそうでイヤですね。

■古いワイヤーはご覧のように曲がり癖が付いています。こういう微小な抵抗もなくしたい。

■そうなんです。新品のワイヤーにはアウター固定の金具が最初から付いているんです。

■ハンドル下側でグリップの根本のネジの逃げで付けられていたと思しきゴムの切り込み。当然、アウター固定具の小ネジが干渉します。よって、切り込みを拡大。
順調にハンドル内にワイヤーを通し……
ワイヤーの経路は、ミニとはいえ旧車らしく、ハンドルの中通し形式です(配線も通ります)。
元々のワイヤーを引き抜いたら、新しいワイヤーにワイヤーロック用のワイヤーをくくりつけて、ハンドル内側を通して先行させ、ガイド役とします。途中で純正ワイヤーが外れてしまわないようにガイドの細いワイヤーをゆっくり引っ張ると、ハンドル下側の穴から純正ワイヤーがひょっこりと出てきます。
これで細いガイドワイヤーを外してハンドルグリップの内部部品の組み立てに取りかかれます。

■スロットルワイヤーをハンドルに通すためにワイヤーロック用のワイヤーとワイヤーツイスターを工具箱の奥から引っ張り出してスタンバイ。ラジオペンチでもOKです。

■細いワイヤーを先にハンドルに通して下側の穴まで通過させます。

■なるべくハンドル内部の途中で引っ掛かりにくいように、ちょいちょい曲げて調整。ワイヤー先端の細長い「タイコ」がキャブに接続する下側になります。

■ワイヤーがめでたくハンドル下側の穴から出てきました。ここからキャブまでは元のワイヤーの経路どおりに取り回して復元させます。
組み付け終了!でスロットルを回してみると……あれ?
アウター固定部品、スロットルグリップのガイド、グリップと3つの部材をひとつの小ネジで固定するため、ネジのセンター合わせが微妙に面倒。作業姿勢が上向きなるので、ジタバタしていると首が辛くなってきます。さらに日が暮れてくるとネジ穴に至るまでの3層構造の穴のズレが暗くて分からない……。
おのずとヘッドライトを頭に付けての作業になります。
スライド部材にワイヤーをしっかり付けて、さらにグリップを含め全部の部材を組み立て終えて、一安心。
あとはキャブ側にワイヤーを固定すればスカッとグリップが戻るでしょ!と作業を終えました。
ところが……あれ? なんか戻り具合が期待したほどじゃないぞ!? なんでだよぉぉ!(ホントに独り言が出た!) 脱力して片付け。その晩は作業をやめて不貞寝しました。

■ハンドルの穴の余地を塞ぐゴムのグロメットも、防水のため忘れずに復元。

■ワイヤーの先端とASSYになっている金具は切り込みのここからスポッと入る。

■ワイヤー先端のタイコをスライドするスロットルヒンジにセット。作動具合をいったん確認。この後、作動部分全体とハンドルにもグリスを薄く塗布して組み立てます。

■キャブを組むと、スロットルヒンジの位置はこちらへ。キャブのスプリングの張力で引かれる図。

■磨きに磨いたスロットルヒンジ。ここにもグリスを塗ってスムースな作動を祈ります。

■アウターのリング、ハンドル、アウター固定の金具のセンターを合わせる作業です。この状態でスロットルのグリップを差し込んで、グリップゴムの隙間から小ネジで固定。慣れるまで穴位置が何度もずれて、ひとりでイライラしていました(愚痴も言えない孤独)。
スロットルを戻せた理由はなんと……
数日後、通常のお仕事撮影オフ日の昼下がり。
原因究明、絶対スロットル戻すぞ!の決意で再度分解です。
スロットルヒンジに異常はない。グリップを外してキャブ側からのワイヤーの引き心地は元のワイヤーのときよりも軽くなっている。それなのになんでだろう?と思って、よくよくグリップの切り欠きとワイヤーアウターも固定するネジを見ると、グリップゴムが固定用ナベネジの頭に少し接触しているんです。
「このネジ、ホントに純正のネジなのかなー?」頭の中に疑惑が生じ、ネジの頭を少し削ってみたり、日没後にはグリップの内側寄りの切り欠きをカッターでさらに広げてみたりしました。
気をつけて作業していたのに、つるっとしたグリップ内側の金属部分でカッターが滑って指先に切り傷。少々流血もありましたが、そんなの構ってられんわいと作業続行です。
せいちゃんから預かっていた予備部品の中に入っていた別のグリップは、普通のグリップのようなハンドル内側寄りにある外縁の広い部分がありません。それが純正なのかは分からないのですが、ここらのゴムの干渉しか、いよいよ疑いようがなさそう。カッターで細かくゴムを切って、組み立て。
さて。グリップを開いて、手を離してみます。
「スカッ!」
お、スロットル、ちゃんと戻るじゃん! やればできるじゃねーか!(無言で狂喜乱舞)
あれこれ悩んだのに、単純なグリップゴムのフリクションが原因だったんですね。まあ良い。
電装の12V化につぐ要求課題のスロットルは、これで一応解決しました。けど、後で思ったのですがハンドル側のワイヤー固定の中子?の固定ネジ。スロットルの溝の高さツライチの芋ネジ状のネジでグリップゴムに干渉しない高さのものがあれば、もっと普通のグリップが使えるのでは?
当該の小さなナベネジが純正なのかどうか、そこは改めて検証したいところです。

■数回挫折ののち、グリップゴムの切開&開口面積拡大を決定。硬化したゴムと滑るリングでカッターが滑ってスパッと一撃。気をつけないと。

■グリップゴムの加工開口部。この程度では手を離してもまだスロットルが戻らなかった!

■ここまで切って、さらに末端の広い部分のネジ範囲も切った結果、やっとスロットルが自然に戻るようになりました。やれやれ、です。

■「不本意なオートクルーズ」から解放されたスロットル部分。機会があったら更なる改良をしたいです。
次はフロントフォークに取り掛かって、ここは楽勝……のはずが!
手の傷が治り、あまりにフニャフニャだったフロントフォークの分解整備に取り掛かりました。
経年劣化、サスの抜けた手応え、フォークオイルが漏れた痕跡。通販でスロットルワイヤーと同時に手配したフォークのオイルシールを交換し、外装式のスプリングやクリーム色に錆の浮かんだカバー類に手を入れます。
オイル塗れだったブレーキASSYがデイトナの新品シューになってブレーキの利きが良くなれば、フロントフォークの作動も正常にしておかないと、楽しくないでしょうし操縦安定性にも良くないです。
車体にジャッキを噛ませ、ホイールとフェンダーなどを外して、左右のフォークも外し、まずは外部の観察です。
外装式スプリングは錆びているが、そう酷くはない状態です。フォークカバー類は幸か不幸かオイルまみれだったおかげで楽にボトムケースから外せそう。
ただ、気になったのはボトムケース下に見えるボルト周辺に油分が見えて、なにやらガタ付きが。
「ま、このボルトをインパクトレンチで瞬間入力をかけて外し、オイルシールのクリップを外せば、ボトムケースなんてすぐ抜けるッショ」
近代設計の正立フォークに触れていれば、おそらく多くの方もそう考えると思うんです。
ところがどっこい。ダックス70のフォークは、そういう構造ではなかったのです……。(続く)

■カゴを外し、ブレーキワイヤー、スピードメーターケーブルにホイール。そしてフェンダーを外すとこの状態です。

■クリーム系塗色のフォークカバーの中、インナーチューブ外側にフォークスプリング。トップブリッジ上のネジを外して上下ブリッジのネジを緩めてフォークを外します。

■フォークのボトムケースに付いているクロームめっきのカバーを外さないとオイルシール脱着の作業ができません。固着していないといいんですけどね! スプリングの錆は落とさないと。

■ボトムケースの下によくあるネジ。大中型車では6角ネジが多いのだが、コレは太めのプラスネジ。オイル漏れしているように見えるのだが、上からの漏れが回ったのかここから漏れたのか? 何となくイヤ~な予感が。
レポート&撮影●小見哲彦
プロフィール●小見哲彦
無類のバイク好きカメラマン。
大手通信社や新聞社の報道ライダーとしてバイク漬けになった後、写真総合会社にて修行、一流ファッションカメラマン、商品撮影エキスパートのアシスタントを経て独立。神奈川二科展、コダック・スタジオフォトコンテスト等に入選。大手企業の商品広告撮影をしつつも、国内/国外問わず大好きなバイクを撮るように。月刊『モーターサイクリスト』誌ほか多数のバイク雑誌にて撮影。防衛関係の公的機関から、年間写真コンテストの審査員と広報担当人員への写真教育指導を2021年より依頼されている。
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