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16歳以上なら免許無しで乗れる「特定小型原付」の誕生によって原付新時代が到来
2023年の大ニュースとして、運転免許不要で運転できる原動機付自転車が新設されたことが挙げられます。そのこと自体について賛否はあるでしょうが、いわゆる電動キックボードなどを対象として「特定小型原動機付自転車」というカテゴリーが生まれたことは、二輪ユーザーでなくとも認知されていることでしょう。
そして、免許不要&最高速度20km/hという特定小型原動機付自転車の新設に伴って、従来の原動機付自転車は「一般原動機付自転車」と名称を変えました。まだ慣れないかもしれませんが通称は「一般原付」となる模様です。
そのため、いわゆる「原付一種」という呼び方は無くなり「一般原付」と呼ぶのが正解になる……と思っている人もいるようです。
とはいえ、そうとは言えません。
道路交通法では「排気量50cc以下、定格出力0.6kW以下」しか原動機付自転車と言わない
非常にわかりづらい話なのですが、もともと「原動機付自転車」の定義については道路運送車両法と道路交通法で異なっているからです。
簡単に整理すると、道路交通法における「原動機付自転車」というのは、エンジンの場合は排気量50cc以下、電気モーターでは定格出力0.6kW以下の車両を指しています(*)。
ちなみに、道路交通法で50cc超〜125cc以下の車両は何になるかというと普通自動二輪車に含まれます。125cc以下までを免許できる免許を「小型限定普通二輪免許」と言うのは聞いたことがあるのではないでしょうか。
*編集部註:道路交通法施行規則:第一章総則(一般原動機付自転車の総排気量等の大きさ)第一条の二では「総排気量については〇・〇五〇リットル、定格出力については〇・六〇キロワットとし……」と記述されている。定格出力を発する原動機に関して電気モーターが指定されている訳ではない。
原付一種、二種と呼ぶのは「道路運送車両法」による区分け
一方、道路運送車両法においては排気量125cc以下・定格出力1.0kW以下の車両が全体として「原動機付自転車」に分類されています。
そのうえで、50cc以下を第一種原動機付自転車(原付一種)、50cc超125cc以下を第二種原動機付自転車(原付二種)と呼ぶのが道路運送車両法に基づいた分類です。
そこで冒頭の話に戻りますと、従来の原動機付自転車について「一般原動機付自転車」と名称を変更したのは<道路交通法>の改正によるものですから、原付一種が一般原付に名前を変えたというわけではないのです。
道路交通法における3つの原付「一般」「特定小型」「特例特定小型」の違い
では、2023年7月1日に施行された道路交通法の改正によって原動機付自転車の分類はどのように変わったのでしょうか。
結論からいえば、「一般」・「特定小型」・「特例特定小型」の3つのカテゴリーに原付は細分化されました。
一般原付
一般原付というのは、従来の原動機付自転車の名称変更ですから、法定速度は30km/h以下で、公道で乗るには適切な運転免許が必要となります。
特定小型原付
特定小型原付は、最高速度を20km/h以下に制限した車両で、16歳以上であれば運転免許がなくとも公道で乗ることができます。ただし、歩道を走ることはできません。
また、特定小型原付は以下のようなレギュレーションを守った車体でなくてはいけません。
- 車体サイズは長さ190センチメートル以下、幅60センチメートル以下
- 原動機は定格出力0.6kW以下の電動機を用いること
- 20km/hを超える速度を出すことができないこと
- 走行中に最高速度の設定を変更することができないこと
- オートマチック・トランスミッション(AT)機構であること
- 最高速度表示灯を備えること
そのほか公道を走る上で必要な保安基準を満たす必要もあります。具体的には、尾灯やブレーキランプ、ウインカーやヘッドランプを備えていることが求められるのです(バックミラーの装着義務はない)。
運転免許不要、ヘルメット着用も義務化されていない特定小型原付ですが、あくまで原付カテゴリーの乗りものですから、公道走行においては自賠責保険への加入は義務付けられていますし、専用のナンバープレートが必要です。
特例特定小型原付
特例特定小型原付に関しては特定小型原付の枠組みのなかで最高速度を6km/hに制限した車両となり、歩道を走ることができるものです。緑色のライト=最高速度表示灯を「点滅」させることで6km/h以下に速度制限をしていることを示します。この状態であれば、歩道に関しては「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置されている場所に限って走行が可能となります。
なお、特定小型原付においても緑色の最高速度表示灯は必要です。20km/h以下の速度制限モードとなっていることを緑色のライト「点灯」で示すことが車両の規格として定められています。
上記の車両規格を見ればわかるように、特定小型原付は必ずしも電動キックボードのようなカタチである必要はありません。シートを備えたスクータースタイルであっても最高速度やボディサイズの条件を満たしていれば特定小型原付として認められます。
もっともスクータースタイルで6km/h走行をするとなると安定性を確保するのは難しいでしょうから、特例特定小型原付モードを持たない車両となるケースもあるでしょう。
「原付一種を出力制限付きで排気量125ccまで」検討で、道路運送車両法が改正になるかも?
ところで、原動機付自転車(原付一種)のレギュレーションについて、最高出力4kW(約5.4ps)以下と制限することで、125cc以下までエンジン排気量拡大を検討している……というニュースを目にしたことはないでしょうか。
この変更は、排ガス規制への対応などが主たる狙いといえますが、もし原付一種の排気量が125cc以下まで拡大されると、道路運送車両法も改正されることになるでしょう。
不変と思われていた原動機付自転車というカテゴリーは、特定小型原付の誕生によって大きく変わりつつあります。意外にも、2020年代後半は原付新時代の到来なのです。
レポート●山本晋也 写真●スズキ/LUUP/ハンドレックス