バイクライフ

メーカーの垣根を越えた、未来の二輪デザイナーを育てるプロジェクト「二輪デザイン公開講座」とは

四輪のデザイナーは世界で6〜7万人なのに対し、バイクのデザイナーはわずか600人程度

自動車技術会デザイン部門委員会は、2023年8月24日(木)と25日(金)の2日間にわたり、長岡造形大学(新潟県長岡市)で「第11回 二輪デザイン公開講座」を開催した。

これは大学や専門学校などでプロダクトデザインを習得中の学生を対象としたもので、ホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハ、GKダイナミックス(ヤマハ二輪車などのデザインを行っている企業)から実績あるデザイナーを講師として招き、二輪デザインを実践的に教える講座だ。

新型コロナ禍を受けた昨今の事情に鑑み、対面講座に加えてインターネットを介したWEB講座(実技有りと聴講のみの2コース)も実施された。

対面講座に参加したのは全国のデザイン専攻学生24人。なかにはバイクが趣味という学生も多く、ホンダ CT125・ハンターカブでの北海道ツーリングから直接会場入りしたというツワモノもいた。

1日目は、二輪デザイナーの講演、現役若手デザイナーの座談会、そして二輪デザイン実践編1時間目が行われた。

講演では、まず元GKダイナミックス代表の一条 厚氏が登壇。受講者すべてがバイク好きではなく、バイクのことを知らない学生のために、「バイクとはどんな乗り物か」という解説からはじまる。一条氏はそんな学生たちに向けてジョークまじりに軽妙なトークで、「夏は暑く、冬は寒い。雨に濡れるし、風になるんじゃなく、風にあおられる。バイクは修行」と言いつつも、バイクを操る楽しさ、バイクで移動(旅)することの喜びについて語り、「デザインとは人間の生態観察。バイクデザインとは、人間の移動生態観察」と、二輪デザインの極意を伝える。

さらに「デザインで頼りになるのは実体験。流した汗と思いの量と時間にしか比例しない」と、若いときの好奇心や経験が美しいデザインの原体験になることを話す。

そしてGKダイナミックスの社是でもある、「デザインとは思想と信念である──人機魂源」と、目指すべきデザインの真髄についても語った。

次に登壇したのは、本田技術研究所 デザインセンターの澤田琢磨氏。澤田氏は「バイクとは人間の自由を拡張してくれる道具だ」と、まずはバイクという乗り物の本質を説明。そして、バイクはデザイナーとモデラーがそれぞれ1名ずつで1車種を担当するため、自分のアイディアを存分に発揮し、プロダクトに込められる、同時に多彩な要素があるためあらゆるプロダクトデザインを担える素養が身につくと力説した。

2日間にわたる公開講座は、デザイナー陣による基調講演からスタート。
元GKダイナミックス代表・一条 厚氏。バイクに興味のない学生たちにアプローチするためバイクの楽しさを大いに語りつつ、「デザインで頼りになるのは実体験」とその真髄も話した。
本田技術研究所の澤田琢磨氏は、「いちばん重要なのは好奇心」と話し、どんなモノやコトにも興味を持つことの大切さを語った。

その後は二輪デザインの実際の工程についても詳しく解説。具体的には、リサーチ、コンセプト構築、スケッチ、クレイモデリング、M/U(モックアップ)モデリング、カラー&グラフィック、スタイリングデータ、という工程でバイクのデザインは進む。デジタル化はかなり進んでいるが、クレイ(粘土)モデルやモックアップモデル製作というアナログな工程は現代でも重要で、コンピューターの画面だけでは追求できないディテール、質感を確認しながらバイクのデザインは進められる。

一条氏と澤田氏の講義で共通していたのは、「優れたデザインは偶然には生まれない」ということで、そのためにはデザイン以外の知識や経験を増やすこと、いろいろな仕事やアソビを通じてデザインの引き出しを増やしていくことの大切さが伝えられた。

ちなみに、四輪のデザイナーは世界中に6〜7万人いるが、バイクのデザイナーはわずか600人程度なのだという。そしてその3分の2が日本人とのこと。つまり、プロダクトデザインを目指す日本人にとって、二輪デザインは大きなチャンスが広がっている世界でもあるのだ。

続いて行われた、現役若手デザイナー座談会では、登壇した5名がすべてこの公開講座を受講したのちにバイクメーカーに就職し、第一線で活躍中のデザイナーだった。もちろんバイクが好きだったという人もいれば、学生時代は日本画を学んでいたという人もいる。そして彼らは異口同音に、バイクという工業製品をデザインすることのおもしろさ、メーカーによって細かいところはちがえど、バイクメーカーという企業は自由な風土のなかで伸び伸びと仕事できることなどを語り、将来への岐路に立っている学生たちへアドバイスを贈ったのだった。

かつてこの公開講座を受講し、現在はカワサキ、ホンダ、スズキ、ヤマハ、GKダイナミックスで活躍中の現役若手デザイナーによる座談会。デザインの仕事のことだけでなく、OB・OGとして就活のポイントも語った。

学生たちが、スケッチ、クレイモデリング、カラーリングを実体験

講演が終わったら、いよいよこの講座の肝、実践講座だ。4つのグループに分けられた参加者は、「デジタルスケッチ」、「フィジカルスケッチ」、「クレイモデリング」、「カラーリング(CMF)」という4講座を、それぞれ2時間かけて受けていく。

デジタルスケッチとは、コンピューターに接続した液タブ(液晶タブレット)を使い、3D化されたデータに着色する工程を学ぶ。こちらはヤマハとGKダイナミックスのデザイナーが講師を担当し、ヨーロッパで先行発売している電動スクーター「NEO’S」をカラーリングしていく。バイクのプロダクト初期段階である「スケッチ」の重要工程で、プロダクトのイメージを明確にする工程の大切さと、最新アプリケーションの使い方を学ぶ。

フィジカルスケッチとは、デジタルに対するアナログと同義で、フリーハンドで車両のイメージスケッチを描く工程だ。こちらはスズキのデザイナー陣が担当。2時間という制約のため用意された下絵に色をのせていく作業を学ぶ講座となった。今回は主にコピックというカラーマーカーを使い、エンジンやボディの色づけをレクチャー。

デジタルスケッチ講座

デジタルスケッチ講座は、パソコンと液晶タブレットを使って3Dデータに色づけしていく工程を学ぶ。
デジタルスケッチの長所は、3Dデータ化されているため完成後にあらゆる角度、画角に変えられる点だ。
ワコム製液晶タブレットを使い、グラフィックアプリケーションの使い方を実践的に学んでいく。

フィジカルスケッチ

デザインの工程にデジタルは不可欠だが、アナログの工程も依然として重要だ。今回はコピック(カラーペン)を使って下絵に色を重ねていく工程を学んだ。
エンジンやフレームはおもにウォームグレイ(W)とクールグレイ(C)の濃淡で着色していく。ときに実車(奥に展示してあるスズキ GSX-8S)を見ながら色を塗る。
フリーハンドだけでなく、円定規や三角定規なども使いながらていねいに着色していく。また、仕上げには色鉛筆や修正液なども使う。
壁に展示されているのは現役デザイナーによるお手本。アナログは描き手のタッチがより強く反映されるため、同じ下絵でも仕上がりに個性が出る。

クレイモデリングは、主に外装パーツの形状を作り上げる工程で、フレーム、エンジン、サスペンション、タイヤだけの状態のバイクに、クレイ(粘土)を盛りつけていくことで実車の原型を作っていく。こちらはホンダのデザイナー陣が担当。今回は長方形のクレイからフロントフェンダーを製作する作業だったが、やはり時間的制約のため完成形である三次曲面までは作れず、二次曲面までの講座となった。

CMFとは、カラー(色)、マテリアル(素材)、フィニッシュ(仕上げ)という、バイクデザインの最終工程にあたるもので、こちらはカワサキが担当。講座では、ブラックボディのW800を素材とし、燃料タンクとサイドカバーにロゴをのせる作業が行われた。

カラーリングといっても好みの色や流行りの色をただ使えばいいのではない。講座では、「誰が」、「どこで」、「どんなふうに」バイクを楽しむのかというコンセプトを、クジ引きによってランダムに決定。たとえば「田舎でナイトランを楽しむハリウッド俳優」とか「南極でちょい乗りしたい現代アーティスト」というように、かなりの無理難題がコンセプトに選ばれる。学生はこのコンセプトを分析して、最適なフォント(書体)と色を選び、W800を仕上げていった。

クレイモデリング

クレイモデリングとは、粘土(クレイ)を使って実物大の外装パーツを作製する工程。やはりデジタルの画面上ではわからなかった細部などが見えてくるという。
クレイモデリングで使用するツール。スクレイパーで大きく削り、定規やスチール板などで繊細に仕上げていく。
今回は長方形のクレイからかまぼこ状の二次曲面を作る。定規で寸法出ししたらマスキングテープを貼り、スクレイパーで削っていく。
仕上げ面をどれだけ円滑にできたかを確認するため、クレイにフィルムを貼る。こうすると表面の凹凸がよく見えてくる。

カラーリング(CMF)

CMF講座では、まずモデルや仕向地(販売が行われる国や地域)によって求められるカラーや素材に違いがあること、世界中のユーザーの傾向などを学ぶ。
CMFで重要なのは製品のコンセプト。今回は「どこで」、「だれに」、「どんなふうに」バイクを楽しんでもらいたいというコンセプトを、3種のクジ引きで決定。遊び心も大切なので、なかば無茶振りなテーマが出される。
コンセプトに沿ったカラー選定とそれぞれの理由を明確にし、受講生や講師とそれが的確かどうかを綿密に話し合ったのち、サンプルに色をのせてイメージをかためる。
今回の題材はカワサキ W800。カラーだけでなく、車名のフォント(書体)もコンセプトに合わせて選定する。
こちらは完成作品のひとつ。さて、どんなコンセプトによるものかわかるでしょうか?(正解は、田舎でナイトランしたいハリウッド俳優、という難題)。

こうして初回の実践講座をこなしたところで初日が終了。2日目は、グループを入れ替えて残りの3講座を受け、デジタルスケッチ、フィジカルスケッチ、クレイモデリング、CMFというバイクのデザイン(開発)の重要な4工程をすべて学んだ。受講を終えた学生たちには修了証が授与されたほか、希望者には各メーカーが持ち寄って展示していたデザインスケッチのパネルなどが進呈された。

ゼロ・エミッション導入やパーソナルモビリティの有り様など、バイクを取り囲む環境や価値観が変わるとともに、デザインの要件も激変している。これまでよりさらに難しく、そして自由な発想が求められる時代のデザイナーの道は決して安易ではないだろう。

しかしホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハ、GKダイナミックス、いずれもこれまでのおよそ60年の間、世界をリードしてきた企業だ。その伝統に彼らの若者ならではの創造力が加われば、これからも世界のバイクシーンを牽引するバイクを生み出すことができるはずだ。近い将来、私たちがあっと驚き、心をわくわくさせてくれるバイクを見せてくれることに、期待は大きく膨らむ一方だ。

受講した学生とスタッフ一同。長岡造形大学で直接受講したほか、インターネットによるリモート講座も行われた。

「第11回 二輪デザイン公開講座」受講生の声

堀金 葉さん(京都工芸繊維大学)

学内の掲示板で開催告知を見つけて応募。バイクが趣味で、愛車はKTM 390デューク。放課後に走らせたり、仲間とツーリングに出かけたりして楽しんでいる。二輪デザインにも興味を持っているが、テキスタイル(服飾)のデザインにも好奇心を刺激されていて、今はまだどちらへ進むか迷っているのだという。今回の講座で初めて知ったCMFを体験したことで、開発の最終工程をやってみたいとの思いと、二輪メーカー志望が強まったそうだ。


椎名一喜さん(長岡造形大学)

昨年に続いて2度目の受講。19歳ながらバイク趣味はかなりディープかつコアで、スズキ GSX400Sカタナをはじめとしてホンダ CBR250Rハリケーン、カワサキ KDX200Rなど8台を所有。四輪の整備士の父のアドバイスを受けながら修理やメンテナンスもこなす。先月にはヤマハでのインターンを終え、二輪メーカー志望がますます強くなったという。エンジニアにも憧れたが、「二輪デザイナーへの思いは誰よりも強いです。カッコいいフォルムを追求したい」と二輪デザイナーを志望。


近藤友紀さん(東京都立大学)

プロダクトデザインにとどまらず、ウェブ、映像、ゲーム、家電など多岐にわたるデザインを勉強中。将来は四輪か二輪のデザインで迷っている最中とのことだが、「四輪は分野ごとの担当だけど、二輪はひとりで最後までできる」ことから二輪志望にやや傾いているそうだ。このたびの講座ではクレイとCMFに興味をひかれ、今後のインターンでさらに実務を経験したいと話す。バイクは所有していないが、好きなバイクはカワサキ メグロK3などのクラシカルネイキッドとのこと。


レポート&写真●山下 剛 編集●上野茂岐

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