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国産の有力ブレーキサプライヤーが統合して生まれた会社「アドヴィックス」
ブレーキに関わるブランドといえば、どんな名前を思い浮かべるだろうか。おそらく「brembo」(ブレンボ)という名前が出てくる方が多数派だろう。
ホンダファンにとってはNISSINブランド(サプライヤーは日立Astemo)もお馴染みかもしれない。
しかし、日本国内における最大クラスのブレーキ系サプライヤーといえば「ADVICS」(アドヴィックス)を忘れるわけにはいかない。二輪でいえば、ヤマハがMT-09、XSR900、YZF-R7といった大排気量スポーツモデルにアドヴィックスのブレーキキャリパーを採用。そのロゴを目にする機会も徐々に増えている。
そんなアドヴィックスだが、企業としての設立は2001年と自動車業界では比較的若いサプライヤーとなっている。ただし、歴史の浅い企業と捉えてしまうのは間違いだ。
現在、アドヴィックスはトヨタ系のメガサプライヤーであるアイシン・グループの一社として数えられるが、その前身となっているのはアイシン精機、デンソー、トヨタ自動車のブレーキ部門である。簡単にいえば、トヨタ系列のブレーキに関する開発・生産能力をひとつにまとめたというのがアドヴィックスの成り立ちだ。
これだけであればトヨタ・グループ内における再編といえるが、アドヴィックスにおいては他の有力サプライヤーのブレーキ部門も合わさっている。それゆえに国内シェアの半分以上を占めるブレーキ関連の最大サプライヤーとなっているのだ。
住友電工ブレーキや日清紡のブレーキ部門も合流
最近でいえば日清紡のブレーキ部門を吸収しているし、初期の段階では住友電工のブレーキ部門がアドヴィックスに合流している。住友電工といえば、四輪ファンにはバブル期の日産車(スカイラインGT-Rなど)に採用されていた対向型ブレーキキャリパーのサプライヤーとして知られている。
二輪ではヤマハのYZF1000Rサンダーエース(1996年)や初代YZF-R1(1998年)に採用された、量産車向けとしては世界発となるブリッジボルトレス対向キャリパーを製造していたのが住友電工ブレーキだ。
アドヴィックス自体にトヨタ系の色が濃いこともあり、現在でもヤマハの高性能モデルに同社がラジアルマウントキャリパーの供給を担当するなど深い関係にある。
四輪モータースポーツにおいても、トヨタのWEC(世界耐久選手権)マシンにアドヴィックスのロゴが入っていることからもわかるように、高性能ブレーキシステムに関する知見は豊富。市販車においてもレクサスに純正採用される6ポットアルミキャリパーのサプライヤーはアドヴィックスであることは知られている。
アドヴィックスのブレーキを採用するレクサス車
アイシン・グループの一員としてブレーキ統合制御も得意
ブレーキキャリパーの話ばかりしてしまったが、アドヴィックスの特徴は様々な企業のブレーキ部門がひとつになっていることだ。
ブレーキというのはキャリパーだけで成立するものではなく、パッドやシューといった部品もあれば、ローター(ディスク)も欠かせない。そして今やABS制御もマストだ。四輪においてはブレーキを含めた車両の統合制御により車体を安定化させる技術も必須となっているし、二輪では原付二種以上の車両にABS(*)となっている。
*編集部註:原付二種の場合、ABSかCBS(コンバインド・ブレーキ・システム=前後連動ブレーキ)のどちらかの装着が義務化。
電動化が進む中で、駆動モーターによる発電で減速させる回生ブレーキと、摩擦により制動力を生み出すメカブレーキの協調制御もブレーキ系サプライヤーに求められる技術となっている。
冒頭でも記したように、アドヴィックスの前身にはデンソーのような電子制御に強い企業のブレーキ部門も含まれている。車両全体とブレーキを統合するような制御は得意分野といえる。
現時点では二輪の市販車においてメカブレーキとABSユニットの供給が主なところとなっているアドヴィックスだが、二輪も電子制御化・電動化が進む中でトラクションコントロールやスタビリティコントロールとブレーキを統合制御するシステムを提供できるサプライヤーとして、ますます存在感を増していくことだろう。
レポート●山本晋也 写真●岡 拓/柴田直行/八重洲出版/トヨタ 編集●上野茂岐
追記:2023年8月1日訂正
当初、記事文中にて「ヤマハ車などに採用された国産ブレンボキャリパー(「ヤマンボ」と呼ぶ人もいた)の製造元が住友電工だったことを思い出すファンも少なくないだろう」と記述していましたが、これは誤りでした。お詫び申し上げるとともに訂正させていただきます。
■アドヴィックス
https://www.advics.co.jp/