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2023年7月1日から「特定小型原動機付自転車」が走り出す
ご存じのように道路交通法が改正され、2023年7月1日より新しいモビリティカテゴリー「特定小型原動機付自転車」が生まれた。
いわゆる電動キックボードを想定したもので、これまでの原動機付自転車と決定的に異なるのは16歳以上であれば免許不要、ヘルメット不要(着用は努力義務)で運転できること。
この「特定小型原付」については、公道での最高速度が20km/hとなっている点や、電動キックボード特有の小径タイヤは段差に弱い傾向にあることなどから、「新たな危険を生み出すモビリティ」としてネガティブな見方がある。
一方で、免許不要で運転できる低速のモビリティという特性から、運転免許を返納した高齢者の日常的な移動手段として期待できるという意見もある。クルマの運転免許を取得するのに非常に高いコストがかかっている現状を考えても、多くの市民に移動権を確保するモビリティとして評価することもできるだろう。
「人間は変化を嫌う生き物」ということはよく言われる。本能的に新カテゴリーである特定小型原付を否定的に見たくなるのは理解できるが、より柔軟に可能性を探りつつ、リスクを抑える運用を目指すべきといえる。
従来の電動キックボードは原付一種(いわゆる50ccクラス)だったが、「特定小型原付」はどう違う?
道路交通法の改正ということで、すでに運転免許を持ち、クルマやバイクで公道を走っているドライバー・ライダー諸兄において、まず覚えるべきは特定小型原付の見分け方だ。
基本的には2023年7月1日より前に公道を走行していた電動キックボードは、通常の原動機付自転車いわゆる原付一種としてナンバーをつけているはずだ(違法なものも出回っているが……)。この場合、公道での制限速度は30km/hのままであり、ヘルメット着用義務があり、当然ながら原付一種に乗ることのできる運転免許も必要だ。
しかしながら、特定小型原付の車両規定をみると、モーターの定格出力が最大600Wというのは原付一種と同様。車体サイズについても全長1.9m以下・全幅0.6m以下という規定は極端に小さいわけではなく、従来からの電動キックボードであってもこの規格に収まっているはずだ。
では、特定小型原付をパッと判断することは難しいのかといえば、そんなことはない。
新たに特定小型原付としてナンバーをつけた車両の判別ポイントは、ナンバープレートのサイズにある。原付一種のナンバーはおなじみの横に長い形状だが、特定小型原付のナンバープレートは幅が狭く、天地100mm×左右100mmの正方形状となっている。この違いは遠目でも判別することができるだろう。
一部のシェアリングサービスで利用されている車体においては従来の原付一種ナンバープレートのまま特定小型原付として運用されるという例外はあるが、基本的にはナンバープレートの形状が最大の識別ポイントといえる。
また、特定小型原付には新しい保安部品である「最高速度表示灯」が搭載されているのも違いだ。最高速度20km/hの走行モードで走っているときは緑色の表示灯を常時点滅させることが定められている。ただし、過渡期ゆえにシェアリングサービスで使われている車両においては2024年12月22日まで最高速度表示灯の搭載における猶予期間が設けられている。
専用モードと専用表示灯がある「特例」車両のみ歩道を走れる
特定小型原付は規定を満たしたものに関しては、歩道を走行できる。
その場合は最高速度6km/hとなるモードに切り替える必要がある。そして6km/hモードであることを示す証として最高速度表示灯を点滅させるということも定められている。
細かい話をすれば、最高速度6km/hモードとしているときについては、車両区分が「特例特定小型原動機付自転車」となる。さらに6km/hモードの搭載は任意となっているため、すべての特定小型原付が歩道を走れるわけではない。6km/hモードを搭載している車両が、そのモードに切り替えたときのみに歩道を走行することができるのだ。
というわけで、特定小型原付の見分け方としてはナンバープレートの形状と最高速度表示灯の有無が挙げられる。そのほか、原付として登録する際には必要となるバックミラーが特定小型原付には不要であるなどの違いもあるが、特定小型原付であってもバックミラーを装着することはできるため識別ポイントにするのは難しいかもしれない。
より細かい話をすると、原付一種としてナンバーをつけている電動キックボードと特定小型原付の違いは二段階右折にある。
原付一種については三車線以上ある道路の交差点、標識などで定められている交差点でのみ二段階右折をすればいいのだが、特定小型原付は自転車などと同じく、どんな交差点でも二段階右折をすることが義務付けられている。このあたりの違いも公道上で共存するドライバー・ライダーは認知しておくべきだろう。
それはさておき、特定小型原付という新カテゴリーは生まれたばかりであり、車両形状についても様々なアプローチが存在している。多数派となっているのは電動キックボードをベースに必要な保安部品(ウインカーやブレーキランプなど)を装備した車両になるだろう。冒頭でも触れたように小径タイヤの電動キックボードは安定性において不利なスタイルといえる。
一方、走行安定性に有利なスタイルとして自転車のようなスタイルを模索する動きもある。海外ではe-bikeと呼ばれるモビリティを基本に、ペダルをこがずに20km/hまで走行できる速度リミッターを付けたり、そのほかの保安基準を満たすことで特定小型原付の基準に合致させることは可能だ。
ただしe-bikeスタイルの課題は、最高速度が6km/hとなる特例特定小型原付モードでの安定性を確保するのが難しいことだ。自転車スタイルであれば歩道を走行するよりも押し歩きしたほうが圧倒的に安定するのは想像に難くない。
前述したように最高速度が6km/hに制限される特例モードの搭載は任意となっているため、e-bikeベースの特定小型原付については特例モードを持たない車両となる可能性が高いと想像される。
3輪の安定性で弱点を克服!? ホンダ発のベンチャー企業が開発した「ストリーモ」
電動キックボードの機動性や歩行者との共存性といった特徴に、2輪ではなしえないスタビリティを実現するソリューションとして注目したいのが、3輪の特定小型原付だ。
ここで紹介する3輪の特定小型原付「ストリーモ」は、名前にトリ=TRIと含まれていることからも想像できるように3輪であることをアイデンティティとする特定小型原付だ。
ホンダ発のベンチャー企業が開発していること、その中にはMotoGPマシンを担当していたこともあるというエンジニアが加わっていることから、ストリーモは開発初期から注目を集めてきた。
フロントにインホイールモーターを内蔵した前輪駆動で、後輪が2輪というタイヤレイアウト。車体が自動的に安定を保つように動くというメカニズムもあって、高い安定感が期待できる車体となっている。
筆者はそれに試乗する機会を得たが、乗ってみて驚いたのは、これほど小さな車体であるにもかかわらずブレーキフィールが良い点だ。フロントに機械式ディスクブレーキを採用、ブレーキレバーの形状から設計したというこだわりで、しっかり止まれるという信頼を生み出している。
電動キックボードでは制動力に不安を覚えるモデルも少なくないだけに、こうした部分での安心感は、特定小型原付における評価ポイントとなっていきそうだ。
また3輪ならではの安定感は、とくに6km/h以下の「特例モード」で走行するときに有効なのも実感できた。歩行者と並んで話ながら移動するようなシチュエーションでは、真横を走行してもフラフラしないのは大きなメリットだ。
ストリーモについては、メーカー希望小売価格が30万円と特定小型原付にしては高価であり、その意味では万人におすすめできるモデルではないかもしれない。
とはいえ、低速域と最高速域での安定性が高い特定小型原付としてベンチマークとなる可能性を感じるモデルだったのも正直な印象だ。
■ストリーモ社が発売する「ストリーモ」。脱着式のリチウムイオンバッテリーをエネルギー源とし、満充電からの航続距離は約30km。特定小型原付ではなく、通常の原付一種版もラインアップされる。2023年7月時点では、販売方法はwebサイトからの申し込みで抽選。
■前輪は左右に傾くことができるので、傾斜のある路面にも対応する。
■コンパクトに折りたたむことができ、スーツケースのように引っ張って持ち運ぶこともできる。
■バッテリーは脱着式で、ゼロ→満充電までは約3.5時間。
レポート●山本晋也 写真●山本晋也/ストリーモ/LUUP 編集●上野茂岐