目次
ニュースサイトを開くと毎日のように「〇分間におよぶあおり運転」「〇kmにわたってあおり運転」といった記事が紹介されており、動画投稿サイトではあおり運転の車がナンバーをさらした状態で公開されています。
悪質なあおり運転は厳しく処罰されるべきですが、一方で「よくあおられる」というドライバーが存在することも見逃せません。なぜ自分はよくあおられるのか、その理由やあおり運転を受けやすい運転の特徴をひも解いていきます。
あおり運転には「トリガー」が存在する
あおり運転は日本だけの問題ではありません。世界中で「攻撃的運転」として問題視されており、そのメカニズムが研究されています。
たとえば、アメリカでは信号が赤から青に変わったときにわざと発進しなかったときにどのくらいの割合で後方の車がクラクションを鳴らすのか?という実験がおこなわれました。前方が男性ドライバーの場合にクラクションを鳴らす割合は52%でしたが、前方が女性ドライバーだと71%に上がり、女性ドライバーのほうが攻撃対象になりやすいという結果が出ています。
ほかにも「高級車よりも大衆車のほうがクラクションを鳴らされやすい」といった研究結果がありました。攻撃的運転には、社会的な関係における強者が弱者を虐げたり、嫌がらせをしたりといった一種のパワハラのような要素が背景にあるようです。
さらに、ドイツにおける研究結果では、攻撃的運転について60%以上が「相手の運転者の運転行動がトリガーになっている」と明言しています。単に攻撃的な運転に興じているだけの自分勝手なドライバーが存在しているのかもしれませんが、被害者側が周囲のドライバーを「なんだ、あの運転は?」と憤らせてしまう運転をしているケースも少なくないようです。
半数以上が「やられたからやり返した」というケース
ドイツにおける研究では、さらに攻撃的運転の加害者がなぜそのような行動におよんだのかも調査しています。
その結果、もっとも多数を占めたのは進路を譲らない、急ブレーキをかけられたなど「相手に進行の邪魔をされた」というもので、全体の29%を占めました。次に多かったのは「相手に割り込まれた・抜かされた」で16%、さらに「相手からクラクションを鳴らされた」が8%、「相手に車間距離を詰められた」が3%と続きます。
ほかにも、直前に口論などがあった、中指を立てるなどの不快なジェスチャーがあったなどのケースや、とくに理由もなく攻撃的な運転をしたケースもありましたが、半数以上の加害者が「相手=被害者のほうが先に攻撃してきた」という意識をもっているのです。
当然、日本の法律では「やられたからやり返した」という理由は正当化されません。しかし、実際にあおり運転の容疑で逮捕された事例をみると「やられたからやり返した」という誤った正義感が根底にあるのは明らかです。
最近では、東名高速道路で3台の車に対してそれぞれ強引に割り込んで停止させるなどの行為で50歳代の男が逮捕される事件がありました。警察の調べに対して男は「追い越し車線をゆっくり走っていた車に直接注意するためだった」と供述したそうです。
ほかにも、逮捕された加害者が「急にパッシングされて幅寄せさせられた、売られたケンカを買っただけだ」と供述したケースもあり、加害者が「自分こそが被害者だ」という意識をもっている状況が浮き彫りになっています。
あおりトラブルの多くは「勘違い」が原因?
あおり運転の構図を分析すると、被害者がなんらかのトリガーを引き、それに反応した加害者が危険な行為に及ぶケースが多いようです。
もしかすると、被害者のなかには、自分では安全運転に努めているつもりでも交通の流れを妨げていたり、不注意で相手に不快感を与えていたりという方がいるのかもしれません。危険なあおり運転は絶対に許されませんが、こういった背景を考えると「わけもなくあおり運転をする」という加害者は少ないのでしょう。
しかし「やられたからやり返した」という構図が多いのだとすれば、実は被害者の多くが加害者だったということになります。果たして、あおり運転の被害を受けた人が「先にあおった」というケースが多いのかといえば、疑問を感じるはずです。ここには、車特有の「コミュニケーションが取りにくい」という事情が関係していると考えられています。
たとえば、ハイビームにしていることを忘れたまま走り続けていると、前を走る車から「あおっている」と勘違いされてしまうかもしれません。慌ててライトを落としても、前の車に「切り忘れてた、ごめんね」と伝える方法もないので、腹を立てたドライバーから急ブレーキや進路妨害などの危険行為を受けてしまうのです。
ほかにも、低速走行は「進路をふさいでいる」、急な進路変更は「幅寄せしてきた」、落下物などを発見して急ブレーキをかけると「追突を誘発しようとした」といった誤解が生じるおそれがあります。
日ごろからあおり運転を受けやすいドライバーの方は、自分の運転に「周囲を怒らせてしまうようなクセ」があるのかもしれないと顧みてみましょう。家族や友人などに同乗してもらい、悪いクセがないかチェックしてもらうと、意外な発見があるかもしれません。
もちろん、たとえ何らかの原因がみつかったとしても、悪質なあおり運転の加害者が許されるわけではないので、萎縮せず安全運転を続けてください。
あおり運転を受けないコツは「キープレフト」
最後に、研究結果からあおり運転を受けにくいコツとして「キープレフト」を紹介します。
ドイツの研究では、攻撃的運転トラブルが起きた道路の約6割が複数車線の道路で、さらに追い越し車線におけるトラブルが多いという結果が報告されています。日本でも、車線の幅が広く、走行車線と追い越し車線が分かれているバイパスなどの幹線道路であおり運転が多発しているので、ドイツの研究結果は無視できません。
これは、複数車線の道路のほうが無理な追い越し・割り込みといった行為が起きやすいこと、相対的に高スピードで走る車が多くドライバーの興奮度が高いことなどが影響しているといわれています。
つまり、複数車線の道路を走る際は、できる限り一番左側の第一通行帯を走る「キープレフト」を心がけるのが、あおり運転を受けないコツです。
前方の車が路外の施設に入るために減速しても、ムリに車線変更して避けようとするのではなく、しっかり第一通行帯内で減速して前方がクリアになってから加速してください。第一通行帯を走り続けていれば、後方車両に「ノロいなぁ」と思われても勝手に抜かしてもらえばいいし、車線変更をしなければ「危ないじゃないか!」と思われるような割り込みもせずに済むはずです。
もっとも、車線がひとつしかない単線道路でも、後方から車間をつめられたり、執拗に追い回されたりといった妨害運転を受ける危険があります。危ないと感じたら退避場所などを活用して進路を譲るか、路外の施設などに逃げるのが賢明です。それでも危険な状況がある場合は、ただちに110番通報して警察官の臨場を求めましょう。
相手が車を降りて近づいてきても、決してドア・窓を開けずにロックして身の安全を確保して助けを待ってください。
レポート●鷹橋公宣
元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。