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ダックス125は当初の2ヵ月遅れで発売
部品生産の遅延や世界的な海上輸送の滞りなどにより、発売延期となっていたホンダ ダックス125の発売日が9月22日に決まりました。すでに予約を入れている方、発売を待ち望んでいた方には朗報ですね。
ダックス125の発表は2022年3月。発売が明らかになると同時に様々な雑誌やウエブメディアが1969年登場の初代モデルのダックスホンダST50を筆頭に、歴代のダックスシリーズを取り上げました。以前のモデルを紹介することで、新型ダックスがその系譜にあることを強調し、復活をより強く印象づけようとした定番記事で、懐かしいモデルが各媒体にあふれましたが、モーサイではそうした紹介記事からこぼれ落ちた、幻のダックスを紹介しましょう。
幻のダックス一族「e-DAX」
こちらが2001年に開催された第35回東京モーターショーで、ホンダが出展した「e-DAX」(イー ダックス)です。名称のeはエレクトリックの意で、内燃機関ではなく電動モーターによって動く車両です。参考出品の試作ショーモデルゆえに今となっては覚えている人も少なくなっていることでしょう。ダックスの名が付いていても、そもそも形が違いすぎていて、一族に入れてもらえない悲運に落ちたダックスと言えます。
ダックスっぽいともいえる胴長のボディはフレーム部が伸縮し、さらにハンドルがスライドする機構によって折りたためます。まるでヒラノ バルモビル(1961年発売 トランク形状に折りたためるクラシックスクーター)のようにスクエアでコンパクトな形状にすることができました。
初代ダックスがフロントまわりを脱着できる機構を持ち、クルマのトランクに積載できたように、こちらのe-DAXもクルマに積むことを前提としています。このときのモーターショーに同時に出展されたクルマのコンセプトモデル、ブルドックの後部スペースに積載すると、e-DAXのシート部がクルマの後部座席の背もたれになるという斬新な作りです(逆にいうとe-DAXを積んでいないとクルマの後部座席は背もたれがなくなってしまう)。
クルマとバイクの両方を造り、その融合を目指したホンダらしいアイデアといえるでしょう。e-DAXには専用ヘルメットが設定されていて、それにはマイクやスピーカーが備えられていました。ブルドックを運転するドライバーとe-DAXに乗るライダーが会話できる通信システムが設定されていました。
バッテリー容量が……、航続距離が……といった動力に関する具体的なスペックは当時発表されていません。2022年のように電動車が日常にあふれている時代以前の「コンセプト」モデルです。こんなのがあったらいいですね……といった夢の提案が目的です。あまり細部をつついてはいけません。
e-DAX SPEC ■全長:1,125mm ■全幅:560mm ■全高:890mm ■車重:25㎏ ■原動機種類:ホイールインダイレクトモーター
2001年の東京モーターショー「ホンダブースは電動車であふれていた」
e-DAXが出展された、2001年の第35回東京モーターショー、ホンダブースを振り返ってみましょう。
この年のホンダは58機種・72台のバイクを出展。二輪ブースのメインテーマは「Have Wings?」でした。ホンダ製バイクの象徴であるウイングマークに込められた、夢の実現や未来に向かってはばたくチャレンジングスピリットを多くの人と共有したい、という意味が込められていました。
展示された機種は「ライフスタイルウイング」と「スポーツウイング」という大きくふたつのラインに分かれ、さらにフューチャーモデル、ニューコンセプトコミューター、カスタマイズスポーツモデルといった感じで細分化され展示されていました。先に紹介したe-DAXはニューコンセプトコミューターとして紹介されていて、このほかにもホイールインモーターを使った、CAIXA(カイシャ)、MOBIMOBA(モビモバ)、ライディングカート、e-NSRという多くの電動モデルが出展されていました。
どの車両もクルマへの積載や、玄関スペースに置けるようにするなど、コンパクトデザインが特徴。このときのホンダのプランナーやデザイナーが電動のメリットを小型化に見出していたことがうかがえます。現在の電動バイク界隈を見回してみても、畳めるなど同様のコンセプトをもつモデルはいくつもあるので、2001年時点でのホンダの先進性には驚かされます。
e-NSRのリヤタイヤをタンク部分に収納するという積載時のアイデアは2022年の視点でも魅力的です。バッテリーの問題など、市販に結びつけるまでには超えなければならないハードルはいくつもありそうですが、企画の復活、市販化を望みたいモデルです。
この年のホンダの目玉モデルは?
第35回東京モーターショーにおいてのホンダ二輪ブースのコンセプトモデルのけん引役的存在は(エリシオン)とXAXIS(ザクシス)という二つのモデルでした。
エリシオンは水冷4ストローク水平対向4気筒750ccのエンジンを搭載した近未来のトランスポーター。ホンダ独自の油圧制御CVTとシャフトドライブを組み合わせた駆動ユニットを持ち、バネ下重量の軽量化を図っています。ルーフは電動式で開閉可能となっていて、タンデムライダーの背もたれ部分は専用ヘルメットが二つ入る構造です。
ナビゲーションシステムやバックモニターなど(当時としては)先進装備を満載したモデルでした。
ザクシスはHRA(ホンダ・リサーチ・オブ・アメリカ ロサンゼルスにオフィスを置く、1984年9月設立の北米市場向けのクルマやバイクのデザインや市場調査、商品企画を行なう現地法人。現在のホンダR&Dアメリカ)が製作した水冷4ストロークDOHC V型2気筒エンジンを積むコンセプトモデルです。
この当時すでにVTR1000F ファイアーストームが存在していたので、エンジンはそれを、車体に関しては新機構をいくつも搭載したスーパースポーツモデルといえます。サスペンションは前後ともに片持ち式。フロントブレーキはローターがリムマウントの大径タイプで、ラジエーターはテールカウル部分に備えられています。アンダーカウルを兼ねたマフラーなど、機能とデザインが融合しています。
この時代ホンダはラクーンという電動自転車も売っていたころでした。気候変動という言葉が今よりも遠い位置にあり、e-DAXなどは電動モビリティに淡い夢を見ていた時代の産物といえるかもしれません。
とはいえ、2001年よりも時代はエレクトリックな方向に確実に進んでいますので、次回(2023年)のJAPANオールインダストリーショー(東京モーターショーから名称が変わることが発表されています)、電動ダックスの再登場を期待せずにいられません。その時は花柄シートの電動ホワイトダックスも見てみたいですね。
リポート●飯田康博 写真●ホンダ/八重洲出版 編集●上野茂岐