ヒストリー

「BMW製1600cc 6気筒が最後の灯火?」並列6気筒はなぜバイクで主流とならなかったのか

CBX ホンダ

2輪で並列6気筒が普及しなかった理由

並列6気筒がモーターサイクルの世界で普及しなかった理由は、「サイズと重量」と言われている。とはいえ、筆者はそれ以外にも2つの理由があるのではないか……と言う気がしている。
MVアグスタ、ホンダ、ベネリ、カワサキ、スズキの並列6気筒車を紹介した項に続いて、当記事ではBMW K1600シリーズの素性に触れ、そのうえで、このエンジン形式が2輪の世界で一般化しなかった理由を考えてみたい。

ホンダ CBX

■小型・軽量化を実現するため、CBXはダウンチューブなしのダイヤモンドフレームを採用。そのおかげで、空冷並列6気筒エンジンの全貌がよく見える。

4輪のイメージを2輪に転用したBMW

4輪では長きに渡って「ストレート6」を代名詞として来たものの、まさかBMWが、2輪の並列6気筒車を作るとは!? 2009年のミラノショーで同社が公開した、「コンセプト6」を見た人の多くは、そう感じたのではないだろうか。とはいえ、BMWは2011年から並列6気筒を搭載するK1600シリーズの市販を開始し、現在では、GT、GTL、グランドアメリカ、Bの4機種がラインアップに並んでいる。

K1600の開発ベースは、2005年から発売が始まった並列4気筒のK1200/1300シリーズで、並列6気筒エンジンだけではなく、メインパイプを地面と水平に近い角度で配置したアルミフレーム、フロントのデュオレバー式サスなども、K1200/K1300の技術を転用している。

言ってみればBMWは、手堅い手法を選択したわけだが、そんな中で唯一、K1600シリーズならではの特徴と言えるのが、6本のインジェクターを備えつつも、スロットルボディが1個しか存在しないことである。4輪では珍しくないけれど、1気筒当たり1スロットルボディ、あるいは2気筒当たり1スロットルボディが普通になっている2輪の世界で、この方式は貴重と言っていいだろう。

前述したように、現在のBMWは4種類のK1600シリーズを販売しているが、いずれもキャラクターはツアラー指向で、乾燥重量は最軽量のGTでも295kg。その数値に対する是非はさておき、コンセプト6路線のモデルが登場しないことには、物足りなさを感じる人がいるんじゃないだろうか。とはいえ、K1600シリーズを販売して10年以上が経過したBMWが、そういったモデルを作らないことを考えると、並列6気筒車にスポーツ性を求めるライダーは、あまり多くないのかもしれない。

BMW コンセプト6

■BMW製並列6気筒車のデザインスタディモデルとなったコンセプト6は、未来派カフェレーサーと言いたくなる雰囲気。とはいえ、実際に市販されたK1600シリーズに、こういったスポーティな仕様は存在しない。

2011年登場時のBMW K1600GTL
BMW K1600シリーズのエンジン

■2011年から発売が始まったK1600GT/GTLは、並列4気筒のS1000RRと共に、BMWの進化と革新を世界にアピール。現代の基準だと驚きは感じないけれど、K1600シリーズ全車に共通する、最高出力160ps、最大トルク17.8kgmという数字は、歴代市販並列6気筒車の最高値。

世界GP/MotoGPで行われた気筒数制限

さて、当記事含み3回に渡って並列6気筒を搭載する2輪車を紹介して来たが、ここからは筆者が考える、2輪の世界で並列6気筒が普及しなかった2つの理由を記してみたい。

第一に挙げたいのは、ロードレースの最高峰である世界GP/MotoGPの気筒数制限だ。1949年から始まった世界GPは、当初は気筒数に関しては自由だったのだが、1960年代にホンダ/ヤマハ/スズキの多気筒車が驚異的な強さを発揮したため、1960年代末のFIMは気筒数制限を設定。

具体的には、50cc:単気筒、125/250cc:2気筒以下、350/500cc:4気筒以下という規制が設けられ(50ccは1969年、125ccと250ccは1970年、350ccと500ccは1974年から)、以後の2輪メーカーは、5気筒以上に対する意欲を持ちづらくなっていった。

ただし、名称を刷新して最大排気量クラスの主力が4ストロークとなった2002年のMotoGPでは、30年以上ぶりに気筒数制限が見直されたのだ。
3気筒以下:135kg、4/5気筒:145kg、6気筒以上:155kgという最低重量制限は存在したものの、エンジン形式は並列6気筒でもV型8気筒でもOK。そんな中でレギュレーションの盲点を巧みに利用する形で、圧倒的な強さを発揮したのが、V型5気筒を搭載するホンダ RC211Vだったのである。

もっとも、2007年に排気量上限が1000→800ccに縮小されると、最低重量に関しても、2気筒:135kg、3気筒:142.5kg、4気筒:150kg、5気筒:157.5kg、6気筒以上:165kgという見直しが行われ、5気筒の優位は消滅。
この変更を受け、ホンダはエンジンをV型4気筒にスイッチした。そして2012年には、気筒数は4以下という規制が設けられ、またしてもロードレースの最高峰クラスにおける、5気筒以上の出番は無くなってしまったのだ。

FIMがこういった規制を設定して来た背景には、コスト抑制やイコールコンディション化という狙いがあったと言われている。もちろん、それはそれで否定するべきではないのだけれど、結果的に気筒数制限は、世界GP/MotoGPにおけるエンジンのバラエティ感を奪い、その事実は量産車にも多大な影響を及ぼしたと思う。

500ccV8エンジンを搭載したモトグッツィのレーシングマシン「オットー・チリンドリ」
「オットー・チリンドリ」のエンジン

■1949年から始まった世界GPの500ccクラスで、当初のモトグッツィは伝統の水平単気筒とクランク横置きの120度Vツインを主軸としていたが、1952年には直列4気筒車、1955年には水冷V型8気筒車を開発。

ホンダ RC211Vのエンジン

■2002/2003年のMotoGPで圧倒的な速さを発揮したRC211Vは、モーターサイクルの歴史で初となるV型5気筒エンジンを採用。ちなみにケニー・ロバーツ率いるチームKRも、2003/2004年に独自のV5レーサーを走らせたが、こちらは目立った戦績は残せなかった。

6気筒のネック「排気量と価格設定の難しさ」

第二の理由は排気量と価格設定の難しさだ。部品点数の多さを考えれば、並列6気筒車の価格はどうしたって高価になるもので、そうなるとメーカーとしては、フラッグシップ以外にこのエンジンは採用しづらいのである。

個人的には、エンジン重量やサイズ、さらにはハンドリングに及ぼす影響などを考えると、普通のライダーが気軽にスポーツライディングが楽しめて、エンジン性能をフルに満喫できる2輪の並列6気筒車はミドル以下ではないか……と思うのだが、メーカーの立場になって考えれば、それはなかなか具現化できない夢だろう。

例えば、現在の250ccクラスで絶好調のニンジャZX-25R(82万5000円〜)を打ち負かすため、ホンダがRC165/166の再来と言うべき並列6気筒車を製作したら、価格は安く見積もっても150万円以上になるはずだ。
そんなモデルが登場したら、一部の好事家は狂喜乱舞しそうだけれど、150万円以上の250ccが爆発的なヒットモデルになるとは思えない。残念ながら2/4輪の世界では、大排気量車は高く、小排気量車は安いというのが、大昔から変わらない定説なのである。

そういう定説があっても、現代の技術で製作されたミドル以下のスポーティな並列6気筒車が登場したら、乗ってみたい!と感じるライダーは少なくないと思う。
さすがに250ccは難しいとしても、500〜750cc前後の並列6気筒車なら、価格が200万円前後でも購入するライダーはいるんじゃないだろうか。とはいえ、エコロジーどころかガソリン車の廃止が話題になる昨今の事情を考えると、今後の2輪の世界で並列6気筒の新型車が登場する可能性は、ほとんどないのかもしれない。

カワサキ KZ1300

■1979年に登場したKZ1300。北米市場における新車価格は、同時代に販売された空冷並列4気筒のZ1000シリーズを1000ドル以上も上回る、4695ドルだった。もちろんそれは、1300ccだから実現できた価格だろう(なお、1979年の円相場は1ドル230円台)。

ホンダ RC166
ホンダ RC166

■1960年代中盤の世界GPにおけるホンダの主力エンジンは、50cc:並列2気筒、125cc:並列5気筒、250/350cc:並列6気筒、500cc:並列4気筒で、いずれも動弁系はDOHC4バルブ、カム駆動はギアトレイン式。

レポート●中村友彦 写真●八重洲出版/BMW/ホンダ 編集●上野茂岐

■「V型12気筒と並ぶ、理想のエンジン形式」並列6気筒はなぜバイクで主流とならなかったのか【第1回】

■「4輪では1920年代から普及するも、2輪では70年代から」並列6気筒はなぜバイクで主流とならなかったのか【第2回】

おすすめ記事

A.S.H.クオリティの真髄 ⑧オイルに厳しい(?)油冷エンジンとの相性やいかに? カワサキ Z900「Z誕生50周年カラー」はZ1100GP、Z400GPなど80年代Zイメージの赤! B+COMシリーズをSHOEIのヘルメットにスマートに装着できるアタッチメントが登場
BIKE王 A.S.H.クオリティの真髄

ピックアップ記事

PAGE TOP