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ホークII CB400T(1977年登場)は「中型免許」設定後のホープだった
ホンダを象徴する形容詞は何かと考えたとき「頑固な技術屋」「エンジンへのこだわり」、あるいは「飽くなき挑戦」などいくつかの言葉が浮かぶ。そうしたイメージは創業者・本田宗一郎のキャラクターに因るところが大きいが、時代時代で少しずつ変化はありつつも、連綿と続いてきたイメージだろう。
もちろんそれは2輪製品にも当てはまり、各時代、先を行くべく開発された数々の車両の中には当然雄弁に語られる名車もあれば、反対も然り。
そんな中、筆者がどちらにも分類し難いモデルのひとつとして思い浮かぶのが、70年代後半に新たな空冷並列2気筒を引っ提げて登場した「ホーク」シリーズである。
ホークシリーズが生まれたのは1977年のこと。
同年5月に400cc版のホークII CB400Tが、7月に250cc版のホーク CB250Tが登場した。当初から自動二輪中型限定免許(当時の呼称・現在は普通自動二輪免許)上限排気量の400ccと軽二輪クラス向けのスケールダウン版250ccが用意されたわけだが、ホークシリーズ誕生の大きな要因は、1975年施行の自動二輪の段階免許(小型、中型、限定解除)だと言われる。
1975年当時のホンダの中型車ラインアップは、空冷OHC2気筒搭載で1973年登場のCB360Tと、空冷OHC4気筒搭載のCB400Fourだったが、カフェレーサースタイルを取り入れ1974年に登場したドリームCB400Fourは、当初実排気量が408ccであった。そこで、1975年からの中型限定免許へ対応すべく、エンジンを398cc化して1976年から投入した。
ひとまずこれら2気筒、4気筒の両車で中型ロードモデルの需要に対応したが、CB360T用エンジンのベースは60年代後半に登場した「ドリームCB350」などの350cc並列2気筒、CB400Fourの4気筒エンジンにしてもオイルショック以前1972年登場のCB350Fourベースと開発時期の古いものであった。
結果、性能面で傑出しにくく、しかもCB400Fourは輸出向けの408ccと国内向け398ccの生産になり量産効率が悪いことなどもネックとなり、400cc向けの新エンジンの開発が急務となった。
そこで登場したのが、ホーク系の新開発空冷OHC3バルブ2気筒エンジンである。
ホークII CB400T(1977年)
次世代の中型ロードモデルとして、1977年5月に発売されたホークII CB400T。丸みを帯びたこの初期型のフォルムは通称「やかんタンク」と呼ばれる。アルミリムにスポークプレート(初期はスチール製)をリベット固定した、ホンダ独自のコムスターホイールも当時注目の装備だった。新車価格は31万9000円。
ホーク CB250T(1977年)
ホークII CB400Tに続き、1977年7月に発売されたホーク CB250T。395ccのホークII CB400Tに対し、ボア、ストロークとも縮小した249ccエンジンは26ps/1万rpm、2.0kgm/8500rpmの性能を発揮。初期の同車は、前後輪とも18インチのスポークホイールを採用していた。新車価格は29万9000円。
4気筒以上の性能・静粛性を追求した空冷OHC3バルブ2気筒
1977年登場のホークII CB400Tの広報資料を見ると「長年つちかってきた高度のエンジン技術をもとに、新しい魅力を持つ中排気量2輪車を開発(中略)従来、このクラスでは満たせなかった、ハイウェイからラフロードまでの走行を余裕のある性能でこなす軽快な2輪車で、俊敏でワイドなスポーティさを兼ね備えた……」といった記述がある。
具体的には、次の3点がホークシリーズが搭載する空冷2気筒エンジンの最も大きな特徴だ(ホークII CB400Tの場合)。
■超ショートストローク(70.5×50.6mm:395cc)で高出力・高回転型(40ps/9500rpm)
360度クランクの等間隔爆発エンジンは、滑らかな回転感で全域で安定したパワーの出方をする一方、重ったるい回り方にもなりがちだ。
そこでこのエンジンは、軽快なピックアップや高回転までのシャープな回転上昇も狙って、超ショートストローク型となっている。無論、現在のスーパースポーツなどではこれよりショートな例はあるが、70年代のロードスポーツの中では、異例のレベルだった。
■吸気2・排気1のOHC3バルブ
ホンダ独自の3バルブヘッドは、ビックボアによりバルブを理想的な大きさと配置にしつつ、プラグも適正にセンター配置として、高い燃焼効率を狙ったもの。
さらに当時の資料では「3バルブ採用で慣性質量を低減し、フリクション(メカニカル・ロス)を減少させることで、高回転にも追従できる超ショートストロークシリンダー」というメリットも解説されている。
■2気筒特有の振動・騒音を抑制するためバランサーを採用
クランク軸に平行して左右対称位置にチェーン駆動のバランサーウェイトを2個設置。結果「クランク・シャフト、ピストンの往復運動慣性力に対し、反対方向に慣性力が作用するため、4気筒なみの振動に抑制できた」と4気筒に劣るものでは無いことを当時の資料では強調している。
時代的に高性能車=「DOHC4気筒」と多気筒化の波が来ていたところだが、ホンダは中型クラスの排気量なら4気筒より2気筒の方が性能を出しやすく効率が良いことを理論的に提案し、独自のOHC3バルブ化でそれを追求。
実際にホークII CB400Tは、CB360Tの31ps/9000rpmや、CB400Fourの398cc版36ps/8500rpm、408cc版37ps/8500rpmを上回る性能となったのである。
ホークII CB400Tはオフロード走破性も考慮されていた!?
当時の資料を見直すと、今の目線では驚くべき記述がある。ホークII CB400Tが高速、市街地走行ばかりか「ラフロードでの俊敏な走行も狙った」と書かれているのだ。
そのため「パワーユニットなどの重量物を車体中心部にまとめた、集中レイアウトによるライダーとの一体化で安定感ある操縦性」「高い最低地上高(165mm)と、路面変化に対する応答性が良い新パターンの太く大きいタイヤ(前輪:3.60-19/後輪:4.10-18)で、ハイウェイばかりでなくラフロードも気軽に走れます」というのだ。
なるほど確かに、ホークII CB400Tのロードクリアランスは多めで重量物の配置も中央部に集約され、大ぶりなアップハンドルは不整地での操作しやすさもねらったようにも見える。丸みを持ったタンク、サイドカバーの造形、大型幅広のゆったりとしたシートと幅広アップタイプハンドルでのリラックスしたライディングポジションも含めて、初代ホーク系は70年代半ば以降の国産ロードモデルの中では少し異色な雰囲気を漂わせていたのだが、これが意外と受け入れられた。
現在50代の筆者がオートバイを羨望の目で眺めていた中学生時期(1978〜1980年ごろ)、初代ホーク系は結構な割合で走っていたのを思い出す。
実際ホーク系は、実用的な扱いやすさと意外にシャープな加速性能で評価を集め、そこそこの販売台数を記録したようだが、筆者を含む当時のティーンエイジャーや20代の若者は「あのカフェレーサー風イメージのヨンフォア(CB400Four)の次が、なぜコレなんだ?」と少なからず思った。
全体的に丸っこくて精悍な雰囲気は薄く、尖ったマシンに憧れる若造にはちょっと物足りない雰囲気だったのだが……。
ホークII CB400T(1978年)
ホーク CB250T(1978年)
前年(1977年)登場の初期型から、タンクをやや角張った形状とし、カラーデザインも変更。またリヤサスペンションは可変減衰力機能を持たせた「FVQダンパー付き」となった。
ホーク CB250Tもタンク形状の変更、リヤサスペンションを「FVQダンパー付き」と同様の改良が行われたほか、フロントホイール径は18インチのままでコムスターホイールを採用(ホークII CB400Tは19インチ)。
新車価格はホークII CB400Tが31万9000円、ホーク CB250Tが30万9000円。
ホーク CB400T ホンダマチック装備車(1978年)
ホークII CB400T登場の翌年、1978年1月に発売の「ホーク CB400Tホンダマチック付き」(なぜか「II」は車名に入らない)。独自の無段変速オートマチック機構・ホンダマチックを装備した仕様で、シフトペダル操作で、ニュートラル、ローレンジ、全域をまかなえるスターレンジに切り替えられる。この機構に合わせエンジンは30ps/8000rpm、2.8kgm/6000rpmへとデチューンされていた。
ただし、ホンダマチックを搭載した大排気量モデル「エアラ」(1977年に登場したCB750Fourベースのオートマチック車)と同様に市場の評価は得られず短命に終わった。新車価格は34万9000円。
教習車にも採用され、多くのライダーを育てたホークII CB400T
一方で、80年代前半に教習所・試験場で中型自動二輪を経験した若者(筆者もそのひとりだ)は、このホークII CB400Tで自動二輪のパワーに感動し、操作する上での苦さも楽しさも味わったはずだが、今でも鮮明に思い出すのは、同車の意外な扱いやすさとシャープさだった。
しかし、高性能4気筒車が人気を集めていく風潮には抗えず、進化版モデルやバリエーションモデルを展開するも、400cc、250ccともにホーク系エンジンは80年代前半で短命に終わってしまう。
それから約40年、ホーク系空冷2気筒はその希少性もあって中古車市場では珍重されている。開発者が全く意図していない使われ方なのは間違いないが、旧車會系バイク乗りからは後付け直管マフラーから発する2気筒の派手な爆音が好まれ、「バブ」の愛称で人気が沸騰したのだ。
だが、やはり現在50代の筆者からすると、これもやや不思議な感がある。
1981〜1984年頃、自分が高校時代に見た暴走族には4気筒車+直管仕様が人気だったと記憶している。その当時ホーク系は底値で、仲間内なら数万円の値段で売買されていたし、お金の無い「族」たちが仕方なくホークII CB400Tや、ザリことスズキ GSX400Eなど2気筒車に乗っていたイメージだからだ。
そんなホーク系が「絶版名車」として、あるいは「族車風カスタム車」として今や市場では3桁万円も当然の高額中古車になっているのだから──。
ホンダ ホークII CB400T主要諸元(1977年)
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル並列2気筒OHC3バルブ ボア・ストローク:70.5mm×50.6mm 総排気量:395cc 最高出力:40ps/9500rpm 最大トルク:3.2kgm/8000rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2150 全幅:840 全高:1180 ホイールベース:1390 シート高:──(各mm) タイヤサイズ:F3.60-19 R4.10-18 車両重量:181kg 燃料タンク容量:14L
[当時価格 ]
31万9000円
レポート●阪本一史 写真●ホンダ/八重洲出版 編集●上野茂岐